HOME > 支援情報 > 機関紙「同声同気」 > 第46号(2009年9月25日発行)  PDFファイル
地域情報ア・ラ・カルト 
中国帰国者支援・交流センター(首都圏センター)
−掘り起こされた帰国者ニーズにどう向き合うのか−行政・施策
  文部科学省から
   日本語指導が必要な外国人児童生徒調査
  文化庁から
   平成21年度日本語教育大会開催報告
   平成20年度国内の日本語教育の概要
研修会情報
  研修会報告
   文化庁日本語教育大会
   中国帰国子女の求職を支援する交流会
  研修会情報
   全国夜間中学校研究大会
   多文化協働実践研究・全国フォーラム
   教材・教育資料
Web版『外国人に対する実践的な日本語教育の研究開発報告書』
『まんが クラスメイトは外国人―多文化共生 20の物語―』
   多文化共生学校づくり支援サイト
  『こども にほんご宝島』
  教科学習補助教材の紹介
『日本語教育における学習項目一覧と段階的目標基準の開発-中間報告書-』
『「生活のための日本語:全国調査」結果報告<速報版>』
「くりっくにっぽん」
とん・とんインフォメーション
  所沢センターより
  高校入試特別措置情報
  大学入試帰国者特別枠
  奨学生募集情報
  「定住外国人の子どもの就学支援事業」二次募集
ニュース記事から 2009.05.11〜2009.09.10
遠隔学習インフォメーション
  人気コース ベストテン
事例紹介老後の思い

地域情報ア・ラ・カルト

−掘り起こされた帰国者ニーズにどう向き合うのか−

 新支援策がスタートしてまる一年が経過しました。当センターの〈通学課程〉4月期募集に対しては延べ506名の応募者がありました。ちなみに半年前の10月期は360名余りでした。設立以来応募者の増加傾向が続いていますが、昨年、新支援策がスタートした後、その傾向は弱まるどころかむしろ強まっているのが実情です。開講日を迎える毎に、常連の方にまじって、あちこちに見慣れぬ新来の参加者を見かけます。開所後8年目を迎えた今でも、センターのことを初めて知ったという1世の来所が絶えません。最近はリタイアしたばかりという方も結構います。先日もあるクラスで、気になる一人の女性と出会いました。2時間かけて通うというその女性は、平仮名が完全には読めないようでした。授業終了後、他の人が一斉に帰路に就く中、帰り支度を急ぐ風もないので声をかけてみました。すると待っていたかのように早口で一気に自己紹介を始めました。19年前に帰国し、中国帰国者定着促進センター(所沢センター)で4ヶ月学んだ後まもなく就労し、日本語を勉強する機会は今日までなかったこと、昨年夏に定年を迎えたのだということ、近所に住む友人の帰国者がこのセンターに連れてきてくれたことなど。不正確な日本語ですが、中国語を一切使わないで何とか伝えられたのは、職場での鍛錬のおかげなのでしょう。最後に、小さい頃学校教育を十分に受けられなかったこと、ずっと日本語を勉強したかったことを言い添えられました。久々の学習機会に、大変緊張されたに違いありませんが、学びたいという気持ちに年齢の壁はないのだと改めて実感させられました。むしろ、ようやく迎えたゆとりの時間に学習への渇望感が目覚めたのかもしれません。
 新支援策のおかげで、平均年齢70歳になろうとする1世世代の学習や交流に対するニーズが掘り起こされ、いま各地の支援現場は活況を呈しています。その一方で、問題点も見えてきました。帰国者数が多く、交通網の発達した大都市地域では、支援の場が少しずつ誕生してきたとはいえ、数、規模ともに限りがあるため、増加する希望者に対応しきれなくなっている点です。つまり、従来からの利用者と掘り起こされた利用者が限られた定数をめぐってひしめき合う状況が生まれています。
 その一方で帰国者が広域に点在する地域では、依然として通える範囲に支援の場がないと嘆く声があります。帰国者の某氏は、病身の夫人を世話する傍ら、2時間半もかけて当センターの日本語教室に通うつもりだといいます。「ここ(現在の居住地)に来てから30年になるが、(ご本人の知る限り)地元では交流会さえ開かれたことがない。」とぼやかれます。
 このような地域間格差は、県レベル、市区レベルで広がりつつあり、今後帰国者間の不公平感を助長しかねない状況です。格差を少しずつ薄め、全国に暮らす帰国者の期待に応えていくには、新支援策で主役となった市区町村のご努力はもちろん、広域を見渡しながら格差是正に努め、全体的に支援レベルを引き上げていけるような仕組みが求められているように思えます。新支援策によって掘り起こされた帰国者ニーズに、国や地方自治体、そしてセンター機能をもつ施設が、これからどう真剣に向き合っていくのかが、いま問われているのではないでしょうか。(H)

行政・施策

☆文部科学省から

日本語指導が必要な外国人児童生徒調査

 文部科学省では、我が国の公立小・中・高等学校における日本語指導が必要な外国人児童生徒の受入れ状況等について把握し、日本語指導が必要な外国人児童生徒の教育の改善充実に資するため、毎年度調査を行っております。7月3日に、平成20年9月1日現在で行った調査の結果を公表いたしました。
 詳しくは http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/07/1279262.htm をご覧ください。

文化庁から

○平成21年度日本語教育大会開催報告

 文化庁は平成21年度「日本語教育大会」を8月28日(金)に昭和女子大学グリーンホール(東京都世田谷区)において開催し,約470名の参加が得られました。 本年度は,「「生活日本語」について考える」を全体テーマとして開催しました。開会あいさつ,施策説明に続き,小説家の楊逸氏により「言葉と交流」というテーマで特別講演が行われました。午後は,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会における審議状況の説明(説明者:西原鈴子 前東京女子大学教授,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会主査)に続き,「学習者の多様性と「生活日本語」」というテーマでパネルディスカッション(進行:西口光一 大阪大学教授)を行い,中国帰国者,日本人等の配偶者,親子及び日系人等を対象とした多様な実践事例を基に,「生活日本語」とは何かについて協議が行われました。その後,昨年度の文化庁「生活者としての外国人」のための日本語教育事業の報告会を行い,その成果を踏まえ,「生活者としての外国人」のための日本語教育事業協議会が行われ,今後の地域の日本語教育の在り方についての意見交換が行われました。

○平成20年度国内の日本語教育の概要

 文化庁では外国人に対する日本語教育推進の基礎資料とするため,昭和42年度以来,国内の日本語教育の実態調査を行っておりますが,このたび平成20年11月1日現在の結果がまとまりました。同日現在の国内における日本語教育の実施機関・施設数は,1,779機関・施設,日本語教師数は,30,959人,日本語学習者数166,631人で,日本語教育の実施機関・施設数と日本語教師数は前年度に比べ減少しているものの,学習者数は増加し,過去最高となっています。本調査の結果は文化庁ホームページでも紹介されていますので,御覧ください。  http://www.bunka.go.jp/ (文化庁文化部国語課 山下隆史)

研修会情報

研修会報告:平成21年度「文化庁日本語教育大会」

<文化庁から>のコーナーで取り上げられた同大会の
@文化審議会国語分科会日本語教育小委員会における審議状況の説明
Aパネルディスカッション「学習者の多様性と『生活日本語』」 について紹介します。 

@上記小委員会では、地域に在住する外国人の多様なニーズに応えるという日本語教育の課題を解決するためには、行政機関などによる組織的な取り組みと、関係者が果たすべき各々の役割の明確化が必要であるとして、地域における日本語教育の体制整備についての検討を行ったこと、そして、「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的・目標・標準的な内容について検討作業を行っていることの報告があった。
 外国人が日本語を用いて意思疎通を図り生活できるようになるためには、健康かつ安全に生活を送ること・自立した生活を送ること・相互理解を図り、社会の一員として生活を送ること・文化的な生活を送ること、これらを、日本語を使ってできるようになることが目標となる。現在は、こうした目標を達成するための日本語教育の「標準的な内容」について、まず、市民生活の基礎としての「生活上の行為」(日常的な生活において必要な行為)とは何か、それを遂行するために必要な学習項目は何かについて検討を進めており、次年度以降は、引き続きさらなる検討を重ねた上で、標準的なカリキュラムの開発を経て、「教材のプロトタイプ」の作成・提供に向けた検討を行っていく予定とのことであった。(水)
A このパネルディスカッションでは、とよなか国際交流協会(外国人女性と子供を対象)、とよた日本語学習支援システム(豊田市の外国籍市民を対象)、中国帰国者定着促進センターの三者から「生活日本語」についてどう考えるか、発表があった。
 この中から本稿では私たちが帰国者支援を考えるうえで参考になった「とよなか国際交流協会」の考え方について紹介する。親族・民族コミュニティから切り離されて地域にいる、また日本で暮らす中で孤立や世代間の断絶を体験する外国人女性にとって、「生活日本語」とは、まず「地域とつながる日本語」であり、次に「子どもから切り離されない日本語(子どもとの絆を保つための日本語)」であるという。そのような日本語を獲得していくには、以下のようなエンパワーメントを促す日本語が重要になるとのこと。

このようなことばが、現状から一歩前に進む力になり、周りに働きかけ生活を切り開いていく原動力となっていくという。帰国者を取り巻 く様々な問題を考える時、こういった日本語が、日本社会の中で十全に人生を営むために等しく欠かせないことばであることが再認識できた。
 また、三者の討議により、学習者が生きる人生のステージによって必要となることばが、人それぞれ、そのときどきで変わっていくものであることを確認し、外国人生活者への支援のあり方を考える手がかりが得られた。(長)

研修会報告:中国帰国子女の求職を支援する交流会

 NPO法人「中国帰国者・日中友好の会」の主催で標題の催しが7/20に東京・港区の区民センターで開かれました。二世を中心に70名前後が参加しました。
 まず厚労省の中国孤児等対策室室長補佐より二三世支援策についての説明があり(但し、来日10年以内の条件があるため、多くは対象外になる)、その後、各種資格を取得した先輩からの体験談が続きました。以下は各体験談をごく簡単にまとめたものです。

◇中国語関連の資格や免許:通訳ガイド資格を持ち、通訳・翻訳会社を経営する三世、Aさんより。情勢はかなり厳しい。ただ、通訳ガイドについては特にこの8月から中国人観光客が解禁されるため、ガイドの需要は増えるはず。
◇介護関連:兵庫からかけつけたBさん(兵庫二世の会、支援相談員)と中野区の福祉法人で介護職についているCさんより。ヘルパー資格は働きながら通信教育でも取得でき、援護基金の助成も受けることができるのでお勧め。待遇のいい介護福祉士へとステップアップも可能(こちらは講座受講が必要)。「中国語の医療NW」の石川宏さん(本紙第34号で紹介)からも、自分の帰国者向けデイケアホームにも今9名の二世が就業している。援護基金の助成を受けても実際にヘルパーをやっている人が少なく残念。また、中国の看護師の資格を持っていれば大使館の認定を経て准看の試験を直接受験できる(正看は日本の専門学校卒が必要)。
◇支援相談員・支援通訳:Cさんより。兵庫では二世が相談員4名、通訳10数名採用されている。フロアの二世相談員Dさんからも、一般の通訳の中国語は一世にはわかりにくく、一世が病院に行かなくなりがち、医療通訳を二世が務める意義は大きい。
◇鍼灸・整体関連:整骨院経営のEさん(在日中国人)より。専門学校の入試では面接が重要、動機の高さを強調する必要がある。学費は全部で3年間600万ぐらいかかった。Eさんは卒業後、鍼灸院勤務を経て2年で独立。
◇溶接・板金会社経営:Fさんの講演。81年に母、妹と共に21歳で来日し、即就業。夜、日本語教室に通い、後に職訓校で溶接と板金技術を修得。職訓校では実技の方はまだよかったが教科の日本語は全くわからず。卒業後、溶接関連会社に就職したが、現場では図面の見方もわからず、一から人の技を見て覚えた。その後、独立したが初めの10年は借金もあったので土曜も日曜もなく働き、徐々に軌道に乗せることができた。
 
 資料として中国帰国者支援・交流センター発行の情報紙『天天好日』から抜粋した資格取得関係の対訳記事集が配布されました。また、聴衆には日・中どちらかの言語しかわからない人が混じっていたので、全てに両語の通訳がついたのは大変意義のあることでした。しかし、この日に紹介されたのはかなり高度な日本語力を要求される職種が多く、聴衆の中には「自分には遠い話…」という人も。こういう人たちにも可能性がイメージできる職種・業種への道のりが示せたらよりよかったと感じました。 (An)

研修会情報

●第55 回 全国夜間中学校研究大会

12 月4日・5日 神戸市総合教育センター
※4日には、記念講演(浅野慎一)「残留孤児の歴史と教育保証について」があります。
・参加費3000 円(資料集および記録紙代)
・問い合わせ・申し込み先:
神戸市立丸山中学校西野分校
TEL 078-736-2521 FAX:078-736-2541
・詳しくは所沢センターHP〈研修会情報〉コーナー

●多文化協働実践研究・全国フォーラム(第3回)

12 月5 日・6 日 東京外国語大学府中キャンパス
・問い合わせ先:
東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター
TEL:042-330-5441 FAX:042-330-5448
E-mail:zenkoku-happyo@tufs.ac.jp
担当:尹(ユン)
・詳しくは ホームページで
http://www.tufs.ac.jp/blog/ts/g/cemmer

教材・教育資料

平成20年度文化庁日本語教育研究委託

『外国人に対する実践的な日本語教育の研究開発(「生活者としての外国人」のための日本語教育事業)報告書』

(社)日本語教育学会 (平成21年3月発行)  A4判274頁

→すべて閲覧可。同学会HP→学会誌・刊行物http://wwwsoc.nii.ac.jp/nkg/book/houkokusho090420.pdf

 現在は、生活基盤を日本に置き、将来にわたって日本で生活する『生活者としての外国人』が着実に増えつつある時代である。しかし、『生活者としての外国人』といっても多種多様であり一括りにすることはできない。日本語学習環境もさまざまである。
 この報告書は、こうした状況をふまえ、「日本に生活の基盤を置く以上は、日本語のコミュニケーション能力が生活の質と密接に結びついているため、日本語を学びたいという外国人は多い。こうした要望に応え、一人でも多くの外国人に日本語学習の機会を提供し、実際に日本語の習得が進むような教育体制を整備することが外国人を受け入れた日本の責務である」という基本認識のもとに進められたプロジェクトの成果をまとめたもので、今後の日本語教育の一つの指標となるべきものである。
 本書は以下の5章からなっている。

  1. 地域日本語教育システムづくり検討プロジェクト
  2. 日本語ニーズ調査プロジェクト
  3. カリキュラム開発プロジェクト
  4. 人材育成のためのプログラム開発プロジェクト・・・(1) 養成講座のコーディネータ等への聞き取り調査から
  5. 人材育成のためのプログラム開発プロジェクト・・・(2) 地域日本語教室活動調査より

 『生活者としての外国人』の日本語支援をするには、どのようなアプローチでどういった意識をもって取り組んでいったらいいのか等、さまざまなヒントが示されている。また、支援の現場からのさまざまな事例も多く紹介されている。大部の報告書ではあるが、支援者の関心部分だけではなく、自身の取り組みの位置づけを確認するためにも、全体を通読しておきたい報告書である。

『まんが クラスメイトは外国人―多文化共生 20の物語―』

編集:「外国につながる子どもたちの物語」編集委員会、まんが:みなみななみ
明石書店(2009年刊)、A5判、171頁、1200円+税
 本書は現在日本国内で暮らしている「外国につながる子どもたち」に焦点をあて、多文化共生と異文化理解をテーマにした中高生向けの読み物です。まんがでエピソードを紹介し、その後ろに解説があります。取り上げられているテーマは多岐にわたっており、日系移民、難民、在日韓国・朝鮮人、中国帰国者、国際結婚などの彼らのルーツに関わるものと、進学、就職、親子関係、学校でのいじめなど、彼らが直面している問題をとりあげたもの、さらに差別やアイデンティティなど、多文化共生を学ぶキーワードに関するエピソードが加えられています。これらのエピソードは実話を再現したものや、100人を超える子どもたちの事例をもとに構成しなおしたものとのこと(本書あとがきより)。
 解説は「外国につながる子どもたち」の歴史的背景や現在の社会情勢について読者に語りかける文体で書かれており、まんが、解説ともに漢字には全てふりがながつけられているので、「外国につながる子どもたち」自身も手に取りやすいように配慮されています。また、子どもたちだけではなく、その親たちも社会情勢に翻弄されているストーリーも含まれています。「外国につながる」とはどういうことか、日本で生きている者同士がどう接していけばいいのか、子どもも彼らを取りまく大人も一緒になって考えていくきっかけにできる一冊です。

多文化共生学校づくり支援サイト
http://www.s-i-a.or.jp/tabunka/

 このサイトは財団法人滋賀県国際交流協会のホームページ内にあり、6か国語(ポルトガル語、スペイン語、英語、中国語、タガログ語、ハングル)で「時間割作成」「多言語校内標示」「多言語一覧表」が掲載されています。
時間割作成:言語を選択してから教科名を表の各ブロックにドラッグしていくと時間割が出来上がります。
多言語校内標示:教室、教科、場所などの中から必要な語彙を選び言語を選択すると、標示用のカードが作成できます。
多言語一覧表:学校で必要な用語が多言語の形でまとめられています。

『こども にほんご宝島』

池上摩希子他著 アスク発行(2009年4月刊)
 1,733円(税込) B5判103頁

こども(主に小学生)に身近な33のトピックを取り上げて、多彩なことばの活動ができる楽しい教材です。各トピックには、自分のことを話したり、友達や先生にインタビューをしたり、調べたり、まとめたり、といった様々な活動が、親しみやすいイラストとともに盛り込まれ、授業のプリントとしてすぐにコピーして用いることができます。

トピックの例:

 付属の使用の手引きである『こども にほんご宝島‐支援者のための使い方のヒント』では、各トピックの活動を準備する際に参考になるヒントや、参考図書なども紹介されています。下記サイトにて、さらに詳しい情報を得ることが出来ます。
http://www.ask-shop.net/shopdetail/042006000016/

教科学習補助教材の紹介

 教科書の母語翻訳教材については、本紙40号で埼玉県教育委員会作成『4か国語で読む国語教科書』(英・ポ・ス・中)を、43号でNPO法人《子どもLAMP》発行の『中学校の英語・翻訳教科書』(中・ポ・韓)、『中学校国語教科書・翻訳資料集』(中・ポ・ス)、さらに41号では制作意図は異なりますが外務省が外部に委託して作成した『中学校歴史教科書翻訳版』(英・中・韓)を紹介してきました。
今回紹介するのは《子どもラサ〜子どもラーニングサポート北陸〜》で作成中の、小学校国語教科書掲載作品の翻訳版です。現在『白いぼうし』、『ごんぎつね』のタガログ語版・中国語版・ポルトガル語版・ロシア語版(タイ語版は『白いぼうし』のみ)が下記のHPからダウンロードできます。母語のシート教材、母語で音読した音声データもあります。母語の読み書きが苦手な子どもには、音声があると助けになると思います。HPによれば、7月から『一つの花』の翻訳が始まり来春の完成を目指しているとのこと。
 こういった母語による補助教材は各地で色々な取り組みがなされていますが、まだまだ情報の共有が進んでいないように思われます。特に、ロシア語版の教材は、極めて数が限られています。今後は、各地各グループの分担連携が少しずつでも進み、必要とするところにこうした情報が届くことが望まれます。
《子ども ラーニングサポート 北陸》
 http://kodomo-mirai.sakura.ne.jp/
リンク集にも、支援に役立ちそうな便利なサイトが紹介されています。是非一度ご覧ください。

国立国語研究所では「生活のための日本語」に関する調査研究が進められています。今回は、その成果の報告から二つ紹介します。 

『日本語教育における学習項目一覧と段階的目標基準の開発−中間報告書−』(2009年3月)

地域社会の一員として生活する外国人に向けた日本語学習のカリキュラム・教材・試験などの作成が急務となっていますが、本書はその基盤的な資料となる「学習項目一覧と段階的目標基準」の開発を目指すプロジェクト(2006年度から2010年度までの5年間)の中間報告書です。ここでは、先行事例として日本における中国帰国者教育とアメリカ、オランダにおける移民教育の内容を比較対照しながら、各種調査から得られた知見をもとに、学習項目一覧の作成作業が行われてきました。そのうち、本書では「領域」(例:子どもの教育)、「場面」(例:幼・保育・小中学校)、「言語行動」(例:子どもの進路を決めるための情報を集める)の一覧が紹介されています。それらの下位項目として、必要とされるスキル・知識・語彙・言語表現などが一覧に加えられる予定です。今後、各項目とその名称の整理や、項目間の包含関係などの精緻化が検討されるとのことです。
ダウンロード → http://www.kokken.go.jp/katsudo/seika/nihongo_syllabus/seika/

『「生活のための日本語:全国調査」結果報告<速報版>』(2009年5月)

「日本で暮らす外国人が、どういう場面で、どういった言語行動を実際に行っているのか」ということについては、今までにもさまざまな調査が多数実施されてきました。しかし、いずれの調査も対象者や地域などが限定的で、質問項目もまちまちでした。そこで、「全国的に見てどうか」あるいは「地域ごとの特色はどうか」という観点から、日常的な14場面105項目の言語活動について「接触頻度」「日本語による行動の可否」「学習ニーズの有無」を尋ねるアンケート調査が20都道府県で行われ、1662人から回答を得た結果をまとめたものがこの報告です。緊急事態や医療にかかわる日本語に対する学習ニーズが高いことなどがわかり、興味深いものがあります。
ダウンロード → http://www.kokken.go.jp/katsudo/seika/nihongo_syllabus/research/
(日本語版のほか、中国語版・韓国語版・英語版もあり※)
※地域日本語教育の現場などで、学習ニーズの掘り起こしや学習者の自己評価などを行いたいときに、この母語版を利用するということも可能かもしれません。

「くりっくにっぽん」http://www.tjf.or.jp/clicknippon/zh/ (財)国際文化フォーラム

 これは本誌の44号で紹介した情報誌『ひだまり』のウェブサイトです。このサイトでは『ひだまり』に掲載されている「今日日本」や「人物采?」などの記事を日本語でも中国語でも読むことができます。新しい記事としては、「身近なエコ活動」「進む道を探して−中高生の進路−」「世代を超えて楽しまれるゲーム」などが載せられています。そして、それぞれの記事には「学校・教育」「身体・健康」「自然環境」などのマークがつけられていて、記事のジャンルが一目でわかるようになっています。また、掲載されている記事や写真などをコピーできるので、教材の作成などにも活用できます。それ以外に、『ひだまり』で取り上げられた記事の関連情報や写真も紹介されています。
 さらに、掲載された記事を素材にした授業の活動案も紹介されています。授業の目標や対象者、日本語レベル、クラスサイズ、言語材料、手順などが具体的に示されているので、授業で利用する際のイメージがわきやすくなっています。皆さんも、ぜひ一度ご覧ください。

とんとんインフォメーション

所沢センターより

★今年も《全国の 高校入試特別措置情報・中学校編入関係情報》を当センター ホームページに掲載します
(予定:10月下旬 …現在調査進行中)

★《大学入試情報 ―帰国者特別枠― 》も随時更新中
→ http://www.kikokusha-center.or.jp

奨学生等募集情報

● 坪井一郎・仁子 学生支援プログラム(坪井基金)@/生活支援プログラムA
 @【難民・中国帰国者(含むサハリン帰国者)・日系定住者 とその子弟等 向け】
  大学3 年以上 または 大学院(修士・博士課程)の学生が対象
 A【定住外国人または元外国籍の人 とその子弟 向け】
  高等学校、専門学校、大学、大学院の生徒・学生が対象
 ★2010年度の募集については11月から 福祉法人 さぽうと21のホームページ※で紹介の予定
→ ※ http://www.support21.or.jp/   問い合わせ先:電話 03-5449-1331

● (財)中国残留孤児援護基金の奨学生募集
【中国帰国者(含むサハリン帰国者) 対象】
★2010年度の募集要項ができ次第、所沢センターのホームページ※に掲載の予定
 →※ http://www.kikokusha-center.or.jp

● 公益信託カトリック・マリア会・セント・ジョセフ奨学育英基金
小・中学校・高等学校 の児童・生徒対象
★毎年5月に住友信託銀行のホームページ※で詳細発表
→ ※ http://www.marianist.jp
問い合わせ先:電話:03-3286-8218

● 独立行政法人 日本学生支援機構 → http://www.jasso.go.jp/
大学院・大学・短期大学・高等専門学校・専修学校(専門課程)
に在学する学生・生徒が対象
問い合わせ先:電話:0570-03-7240
★毎年春に申し込みを受付

「定住外国人の子どもの就学支援事業」二次募集あり!

文部科学省と国際移住機関(IOM)が公募していた「定住外国人の子どもの就学支援事業」候補団体がこのほど23件(21団体)選定されました。昨今の景気後退により、不就学・自宅待機となっているブラジル人等の子どもの就学支援事業を国際移住機関にて実施するものです。近日中に二次募集が行われるそうですので、詳しいことを知りたい方は文部科学省及び国際移住機関のHPをチェックしてみて下さい。
文科省HP→http://www.mext.go.jp/b_menu/boshu/detail/1283930.htm
問い合わせ先:文部科学大臣官房国際課企画調整係
(電話番号:03-5253-4111(代)ex:3222)

ニュース記事から

2009.05.11〜09.10

 2009/05/15 サハリン残留日本人45人が日本に向け出発 37回の集団一時帰国 
 2009/05/25  「中国残留日本人兵庫県2世の会」総会 2、3世の生活実態調査を行うとのこと 2009/06/02 引き揚げ体験の監督、満蒙開拓団の悲劇を記録映画に 6/13から岩波ホールにて公開。全国20ヶ所の映画館でも7〜9月 に上映
 2009/06/10  可児市が多文化共生支援DVD製作 外国人(5カ国語)や日本人向け 活用を呼びかけ 2009/06/12 旧満州・葛根廟事件:犠牲者の名簿作成 721人分 生存者が独自調査
 2009/06/25  自費出版:向井・聖泉大教授 小矢部出身の中国残留孤児姉妹の人生描く 2009/07/02 群馬・愛知・静岡など外国人の多い7県1市で組織する多文化推進協:外国人児童の学習保障などで国に要望書
 2009/07/03  要日本語指導の児童・生徒2万9000人 公立小中高で13%増−文科省調査結果発表
 2009/07/08  比残留の日系2世ら来日 「就籍」訴え森法務大臣と面会 2009/07/09 奥州市国際交流協会が日本人向け冊子「外国人市民とともに進める多文化共生の地域づくり」
 2009/07/11  残留孤児・婦人:交流の場を 12日「中国帰国者と交流する市民の会」結成−伊丹 2009/07/20 残留孤児:「心のよりどころを」 明石と神戸「居場所作り」初の集い
 2009/07/22  静岡県教委 公立高入試実施要領発表:「学校裁量枠」は88校 外国人生徒の選抜実施校を5校6科から10年度は9校13科に
 2009/07/23  京都の残留孤児がNPO法人「中国帰国者京都の会」設立 生活、就職支援充実へ
 2009/08/11  NPO「中国帰国者・日中友好の会」が都内に新拠点 「中国残留孤児の家」設立
 2009/08/22 高校生に返済不要の奨学金 文科省が予算要求へ 
    

遠隔学習インフォメーション

 8月末、遠隔学習課程の2009年度下期(10月〜2010年3月)の中国帰国者向け募集要項を全国の帰国者の皆さん、支援者の皆さんにお送りしました。届きましたでしょうか?
※サハリン帰国者向けについては10月発送の予定
 開講コースのラインナップは上期と同様、全21コース(サハリン帰国者向け9コース)です。日本語学習を希望している周囲の帰国者の皆さんに是非お勧めください。
 さて、今回の募集を行うにあたり、8月に受講待機者全員を受け入れることとし待機状態を一旦解消した結果、現在の在籍者は、延べ3000名に迫る勢いとなりました。そこで、今号では、現在(2009.9.3)の人気コースのベストテンと各コースの内容を簡単にご紹介したいと思います。ちなみに、在籍者数は、第1位のコースでは500名強、第10位でも100名以上となっています。

順位  コース  内容 
 第1位  生活場面日本語「医療」  入院や通院など医療機関利用に関する知識、診察などの場面で必要となる会話を学びます。『医療用語表現集』という医療用語の辞書とも言うべき副教材が人気です。これさえあれば、病院も怖くない!
 第2位  入門日本語文法文型  入門〜初級前半の文法文型・表現を学習します。例文を示しての解説、練習問題(聞き取り練習を含む)、身近な事柄や場面を扱った会話などからなっています。平仮名をマスターしていれば始められます!
 第3位  近隣交際会話  近所の人や子供の保育園、学校の先生と交流するための日本語を学びます。日本の習慣について尋ねたり、お土産をやりとりしたり、子供のことについて話したり、知り合いを家に招いたり、と日常的に起こり得る場面を想定して、日本の交際事情にも触れながら交流日本語を学べます。遠隔課程開始以来、根強い人気があるコースです。
 第4位  漢字ゆっくり  日本の小中学校で学ぶ漢字を使った漢字熟語の読み書きを学びます。Aコース、Bコースに分かれており、それぞれ約800語彙を扱っています。身近な漢字語彙をゆっくり学べる高齢者向けのコースです。
 第5位  生活場面日本語「消費生活」  各種商店や、美容院、宅配便、クリーニング店の利用等、消費生活に関する基礎的な知識や、実際の場面で使える会話を学びます。未経験の場面をこのコースで学ぶことで、消費生活の行動範囲を広げることもできます!
 第6位  続・入門日本語文法文型A  初級中盤〜後半の文法文型・表現を学習します。入門日本語文法文型コースの続きのコースです。入門コースを修了した人は是非受講してください。
 第7位  続・入門日本語文法文型B 初級後半の文法文型・表現を学習します。続・入門日本語文法文型Aコースの続きで、入門シリーズ、最後のコースです。このコースを“完走”できれば、初級文法はそろそろ卒業です。 
 第8位  漢字学習  日本の小中学校で学ぶ漢字を使った漢字語彙約6000を学習するコースです。職業訓練校入校試験「国語科」対策用に作られた教材を使います。これが習得できれば日本の新聞もかなり読めるようになると思います。
 第9位  自己表現作文(1)  「日本語学習」 帰国者のための作文コースです。「日本語学習」をテーマに、帰国者を想定したモデル作文を数多く読みながら、作文を書き慣れていない人でも、自分の日本語学習体験を表現できるように構成されています。2008年に開講した比較的新しいコースですが、静かに受講者を増やしている“隠れ”人気コースです。
 第10位  生活場面日本語「交通」  バスや電車の利用、自転車、小旅行など、交通に関わる各種場面で必要となる知識とやりとりを学びます。新支援制度導入後、小旅行する帰国者の方も増えています。旅行代理店の利用などの場面もあります。本コースを学習して旅に出ましょう!

 これに続き最近増えているのが「運転免許コース」・「求職会話コース」・「読解コース」です。昨今の不安定な経済状況、雇用状況を背景に、2,3世の就労に関わるニーズに応えるものとして受講者が増えています。

 「募集要項」をご希望の方は、所沢センターまでお知らせください。お送りいたします。

※遠隔学習課程では、帰国者の教材費は無料ですが、本課程で使用している教材については一般の方でも購入可能です。教材の詳細は当センターHPをご覧ください。
  http://www.kikokusha-center.or.jp → 遠隔学習課程 →各コース 教材目次見本

事例紹介

老後の思い

首都圏センターの情報紙『天天好日』第四十六号より転載。この手記は、帰国者一世が投稿したもので原文は中国語です

数年前のある冬の初め、冷たく寂しい部屋が途端に地獄の淵に変わってしまったかのような感覚に陥り、その後意識が薄れていく中で、救急車で病院にかつぎ込まれました。
 退院した私は、知らない間に人は老いていくということにしばし慌てふためきました。身体器官の老化に伴い、病は増えたり重くなったりすると言います。何と恐ろしいことでしょう、これからどうしたらいいのでしょう。
 私は自分の老母のことを思い起こしました。母は九十五歳で亡くなりましたが、生前に二冊の詩集を出版していました。その詩集を整理している際に私が知って驚いたことには母は七十歳になってから詩を書き始め、その後も弛まず書き続けて五百数首も書き上げていたのですが、詩の話になるといつも母は少女時代に再び戻ったかのように興奮していました。母はよく私たちに「長生きし、老いても学ぶ志がある者は、事をやり遂げることができる」と言っていました。金銭を追い求めず、何事にもくよくよせず、自分の理想を追求して生きたからこそ、母は周りから見て最も幸福で尊敬される老人となったのだと思います。亡くなった時、母は穏やかな表情の中に泰然とした微笑さえ湛えていました。
 また、私はある隣人についても思い起こしました。彼らのセメント造りの庭はちょうど私がよく通る小道に面していました。ある時の二年間のことですが、春から秋にかけて庭に一列に並べた四つの大きな鉢に野菜や果物が植えられ、朝、私が車に乗って出掛ける際、脳卒中を患った後らしいご老人が一人でゆっくりと鉢に水や肥料などをやっているのをいつも目にしました。それは春の種まきから収穫まで毎日欠かされることなく、その上、庭はいつもきれいに片付けられていました。収穫が終わると、鉢は部屋の端に片付けられ、庭は空っぽになります。時折、買い物に行った店でこのご老人を見かけましたが、ご主人は買い物カートを押しながら十数歩歩いては一休みしており、奥さんがご主人に寄り添って、二人して助け合っていました。見た目八、九十歳の二人のこんな様子に思わず敬意の面持ちで挨拶しました。一年後の春、この庭の前を通り過ぎると、鉢が粉々になった痕跡があり、不吉な予感がしました。その後は鉢を見ることがなく、庭の中はずっときれいに片づけられたままで、この光景に私は突然寂しさを覚えました。地道にこつこつ生きてきたご老人がまた一人この世を去ったのです。何ヶ月も経ってから、この奥さんに店で会い、私は挨拶しましたが、思わず出た涙を見られないようにすぐに身を翻してその場を去りました。しかし、買い物をしている最中に私は自分の過ちに気がつきました。奥さんの顔は穏やかで、目は確信と自信を湛えていたからです。
 どの人も各々のやり方で己れの人生を見せてくれていたのです。私は俄かに視界が開けました。死は生の必然だから回避することはできないけれど、恐れる必要もない、輝かしい人生であろうがなかろうが、大多数の人の人生は平凡なもの、けれども私の母やあのご老人のように、人は平凡でも価値のある、充実した生活を求めるものなのです。
 「長生きし、老いても学ぶ」、この後、私は図書館によく通い、新聞や健康や人生に関する本や雑誌を読んで、自己の体調に合わせて積極的に食事の改善に取り組むようになりました。また、できる範囲で体力をつけて、休息を心がけるようになりました。そして、今のこの環境を利用して日本語を続けて学び、文化や教養も身につけるよう努力しています。自分自身にも気をつけるようにし、人によかれと思うことを為し、足るを知る幸せを味わっています。体が許す限り自分の持ち味を生かして中国語講座のお手伝いをするなどして、微力ながら社会に尽くせたら、楽しく充実した生活が過ごせるように思います。(H.S)