HOME > 支援情報 > 機関紙「同声同気」 > 第18号(2000年5月19日発行)  PDFファイル
巻頭言「落ちこぼれたのは僕のせい…?」
こんなところ・あんなところ・どんなところ
関東地方そのB ― 埼玉県 ―
地域情報 ア・ラ・カルト
研修会
行政・施策
教材・教育資料
とん・とん インフォメーション
事例紹介 あのひとこのひと

巻頭言

「落ちこぼれたのは僕のせい…?」

 「同級生ともうまくなじんでますし、特に問題はないですよ」
 所沢の中国帰国者定着促進センターは毎期、全国の小中学校に子どもたちを送り出しています。今までに千人近い子どもたちが小中学校に編入されていきました。センターの元担任は編入後の様子について学校の先生にお尋ねしたときに、冒頭のような答えが返ってくれば一安心したものです。しかし、その後の子どもたちの進路を見てきて、ここ数年大変心配していることがあります。それは最近論議されている学習言語の問題と重なるのですが、編入学年のことなのです。
 中国は日本とは就学年齢が異なり、かつ教育事情の違いもあって多くの子どもたちが日本の同じ年の子どもよりも1〜2学年下の学年に在籍しています。また、新学期は九月に始まるため半年のずれがもともとある上、農村部では就学年齢も都市部より高い傾向があるので、これまでにも、10歳で2年生、13歳で5年生というようなケースがままありました。このような子どもたちが、日本の学制に基づいて編入された結果、2学年以上「飛び級」してしまったというような例は少なくないのです。
 言葉も習慣も異なる日本の学校生活の中に放り込まれただけでもハンデがあるのに、学年を飛び越してしまった子どもたちにとっては、学科の学習は越えがたいハードルとなります。たとえば1年生から3年生に飛び越してしまった子の場合、かけ算の九九も習っていないのにわり算をやらされる羽目になります。算数は日中でほぼ共通のカリキュラムを持ち日本語の負担も比較的軽い科目ですが、習っていない事柄では歯が立たないのも当然です。しかし、そんな場合でも、話し言葉は流暢になりますし、日本の子たちともすっかりなじんでいくため、先生方もどこに問題があるかが見えにくく、「勉強はもともと好きじゃない子みたいだし」という評価を下しがちです。そして、この子どもたちがいざ高校入試となったとき、どこにも入れないという事態が生じているのです。
 もちろん、中には学習適性が高く学年を飛び越してもついていけるようになる子どももまれにはいます。また精神的な発達上中国での在籍学年よりも年齢を重視した方が望ましい場合もあるでしょう。ですから、一律に中国での学年相当の学年に編入すべきだということもできません。しかし、いずれにせよ、子どもたちにとって編入学年はその後の人生を決しかねない重大な問題であるにも関わらず、あまりにも軽視されてきていないでしょうか。私たちも実際に何人ぐらいの子どもたちが「飛び級」のために不利益を被っているのか、把握しきれていません。しかし、これをただ手をこまねいて見ているわけにはいかないと感じている昨今です。

こんなところ・あんなところ・どんなところ?

 関東地方そのB ― 埼玉県 ―

T.中国帰国者の概要

 @帰国者の定着状況
 平成11年度末までに埼玉県には、280世帯、1,052人が永住帰国し、東京都、長野県、大阪府、神奈川県に次いで全国で5番目に多くなっています。また、呼び寄せ等で入国した二世等を含めると、その数は、2,500人を超えます。定着先市町村は、大宮市や岩槻市が多く、開拓団関係では荒川村への定着も多くあります。

 A埼玉県の帰国者援護対策の特徴
・埼玉県非常勤職員である自立指導員が、豊富な経験を生かし帰国者の生活全般にわたり、きめ細やかな指導を行なっています。
・自立研修センターは県が直接運営し、呼び寄せ二世等についても受け入れをしています。

U.県単独事業

 @見舞金等の支給
 中国残留邦人等の外地での永年の労苦に報いるとともに、帰国後の生活の安定に資するため、一時帰国者と永住帰国者に見舞金、永住帰国者に自立支援金を支給しています。

 A通訳派遣事業の実施
  援護期間を経過した帰国者や援護の対象とならない二世等に対し、福祉事務所等の要請に基づき通訳を派遣しています。

 B生活相談・就労相談の実施
  援護期間を経過した帰国者や援護の対象とならない二世等の生活・就労の相談を行っています。毎週、月・木曜日は県庁で、その他の日は自立研修センターで生活相談員が中国語で対応しています。

V.埼玉県中国自立研修センター

 埼玉県では、昭和58年4月から、中国帰国者のための日本語教室を浦和市及び岩槻市に開設していましたが、昭和63年、自立研修センター事業が国の委託事業として位置づけられたのに伴い、6月1日、「埼玉県中国帰国者自立研修センター」を大宮市の県自治研修センターの一角に開設しました。
 センターでは、永住帰国した中国残留邦人等及びその親族に対して、日本語指導を行うともに、生活・就労相談及び指導を行い、地域社会における定着自立を支援しています。平成12年3月末現在の修了者数は、818名となっています。

@日本語指導
 週5日(月〜金)、午前9時10分〜12時(50分授業3時限)、初級と中級の2クラスで、日本語を学習しています。12年4月の在籍者数は16名、国費帰国者を中心に呼び寄せ二世(但し、研修期間は4ヶ月間)等についても受け入れています。

A生活・就労相談及び指導

 日本語の授業のない午後の時間や休憩時間を利用し、生活・就労相談を実施しています。子供の学校や保育園に関すること、車の免許、病気について等いろいろな問題に対し助言・援助するとともに、進路指導として高等技術専門校の見学や就職説明会などを行っております。
 就職説明会では、職業安定所の担当者による説明や先輩の帰国者による体験発表を通し、最近の雇用情勢や働く心構えなどについて理解を深めてもらい、さらに、実際の就職活動では、職業安定所や面接への同行などの援助を行っています。

B地域交流事業

 少しでも早く日本社会に慣れるよう、「春節を祝う会」「七五三見学会」など、大宮市在住で中国語を学習している市民グループ等との交流会を開いています。
 また、一昨年度から、地元の中学校の文化祭参加という新たな交流の機会ができ、展示物見学や茶道の体験、センター側からは漢字クイズなど有意義な交流を行っています。

C樺太からの帰国者の受け入れ

 本年2月、所沢の定着促進センターを退所した、樺太(サハリン)からの帰国者6名が入所しました。2クラスに3人ずつを入れていずれも混合クラスですが、今まで漢字に頼りがちであった中国からの帰国者も、良い意味での刺激を受けています。今、センターには新しい風が吹き始めたようです。これからも、両国の帰国者が、お互いに助け合いながら日本語のレベルアップを図れるような環境を作りたいと思っています。

(埼玉県健康福祉部社会福祉課)

地域情報ア・ラ・カルト

★シンポジウム
「公立高校における多文化共生について考える」
 − 豊中市 とよなか国際交流協会 −

 去る3月4日と25日の2日間、(財)とよなか国際交流協会「子どもメイト」では、「公立高校における多文化共生について考える〜学校の国際化は地域の国際化に追いつけるか」と題したシンポジウムを開催しました。 第1回目の講師は、島田伊津子さん(大阪府立松原高等学校教諭)、島本篤エルネストさん(神奈川県立寛政高等学校教諭)、古谷雅子さん(東京都立小松川高等学校教諭)で、司会は鍛治致さん(当協会・子ども担当相談員)でした。第2回目は、大倉安央さん(大阪府立門真高等学校教諭)、奥田彰さん(大阪府立上神谷高等学校教諭)、金原薫さん(私立賢明女子学院高等学校教諭)をお迎えし、司会は山田泉さん(当協会「子どもメイト」ボランティア)でした。
 統計によると、大阪府内の中学を卒業した外国人の子どもの約半数が、高校を卒業するにいたらないという状況があります。それには二つの理由があると思われます。ひとつは、東京や神奈川のように特別枠や特別校が設置されてないなど受験上の配慮事項が十分ではないため、高校入試そのものを突破することが難しいことです。もうひとつは、たとえ入学しても学校に「居場所」を見つけられず不本意にも中途退学をしてしまう点です。長年、渡日外国人の子どもに関わっている各講師からも、受験時にスタート・ラインを揃えるようなケアがないかぎり、かれらの能力を正しく測れないこと、また入学後の取り組みがなければ、かれらの能力は埋没しがちで、日本人生徒と「同じ」ようには高校生活を満喫できない状況があることが異口同音に語られました。そしてその対応策として、制度の改善にむけたアイデアやそれぞれの現場での実践事例が報告されました。たしかに「子どもメイト」を巣立った子どもの笑顔のピークも高校入学直後までのように感じられます。勉強がより難しくなるにも関わらず、なまじかれらの口語が流暢であることが、本人そして周囲にも学力面の課題を気づきにくくさせているようです。あるいは、新たな友人関係を再構築しなくてはならない大変さやアルバイトの忙しさなどから、しだいに高校へ通う積極的な理由が見いだせなくなっているようにも見えます。
 もちろん、これらに気づいた多くの方々がこれまで改善にむけて尽力されてきました。シンポジウムの冒頭でも、大阪府教育委員会、豊中市教育委員会の方から私たちの活動へエールを送っていただき、心強く感じました。しかし、今なお課題が山積しているからこそ、限られた条件の中で創意工夫に富んだ実践が積み重ねられているとも言えることを、私たちは深く考える必要があると思います。
 2回のシンポジウムでは、小・中・高・大学の教員、地域のボランティアなど110名以上の参加を得ました。大阪はもちろん、埼玉、東京、愛知、石川、兵庫、三重、滋賀、熊本など各地域のキーパーソンとおぼしき方も少なくありませんでした。そして、地域の国際化の現状に見合った形で高校の国際化を進めるためにはどのような基盤が必要なのか、また、校内の国際的素養・人材を維持、育成するためにはどのような仕掛けが求められるのかなど、熱心な質疑応答が交わされました。
 子どもたちは、大人以上に1年、1カ月がかけがえなく、待ってはくれない存在です。私たちはかれらとの出会いの中ですでに多くのことを経験し、多様な視点と情報を得てきています。それらを総動員し、新たな策を試行することが、すすむ教育改革の中、今まさに求められているのではないでしょうか。
 現在「子どもメイト」では、本シンポジウムの講演録の発行にむけて準備をすすめています。ご希望の方はお問い合わせください。

(財)とよなか国際交流協会 中津美和
連絡先:〒560-0022大阪府豊中市北桜塚3-1-28
TEL 06-6843-4343 FAX 06-6843-4375
Email:p8584163@osk.3web.ne.jp

★ 再研修の現場から

  北海道自立研修センター

 1997年6月から始まった当センターの再研修講座は、「桜教室」というニックネームで呼び親しまれています。毎週金曜日の夜(現在は17:00〜19:00)当センターの教室で開かれ、開始以来3年になろうとしています。この間、2年間の研修修了者を20名以上送り出しました(就労者を含む中途辞退者は20数名)。研修期間は変りませんが、対象者はもちろんクラス編成やテキスト、講座内容などには幾多の変遷がありました。
 クラス編成:最初の受講者は36名で札幌の東と西の地域別編成でしたが、その後、能力別、研修開始時期別、夫婦別、また人数の関係で1クラスの時もありました。教室はひとつしかありませんので、2クラス編成の時は事務室内の応接スぺースを教室として使いました。現在は9名(40歳代1名、50〜60歳代8名)1クラスで、当センターの非常勤講師7名が2ヶ月交替で担当しています。
 受講者:受講者は原則的には当センターで8ヶ月の研修を修了した国費帰国者が対象です。年齢的には50〜60歳代の人が多く、仕事がない人が大部分ですが、30〜40歳代、時には50歳代の人の中から、仕事が見つかり途中で去って行く人もいます。むしろ、これが望ましく、あるべき姿なのでしょうが、実際には少ないのが残念です。
 講座内容:目的や内容は基本的には日本語のレベルアップ、日本の生活習慣の学習、その他です。教材は「日本語1・2・3」を基にして編集したテキストや「生活日本語U」を使っていますが、各講師が用意した教材も併用しています。会話を中心にその時々の話題や季節の行事も取り上げます。ビデオを使って団地の生活等について学ぶこともあります。受講者はいつも始業のかなり前から来て、教室内は賑やかです。お互いの生活上の問題や情報交換に熱心です。また、始業前や合間にセンター相談員に呼び寄せ家族の問題や就労の相談をする時はとても真剣です。桜教室は日本語学習だけでなく、このような事からも重要な場になっています。
 授業が夜間ですから課外授業は難しいのですが、夜のススキノまで出かけて交番で道を尋ねたり地下街を歩く実習をしたり、夏には近くの寺や大通公園で盆踊りに参加したこともあります。アマチュアのマンドリンクラブの演奏を楽しんだ後、お茶を飲みながら習い覚えた日本語や筆談でメンバ−と交流したこともあります。
 2年前札幌市で資源ごみ分別が始まった時には、分別の仕方について授業で取り上げ、実際に再処理工場を見学して、廃熱利用の温泉を楽しみました。また、帰国者が多く住む厚別地区では受講者が中心になって団地自治会と交流を重ね、地域の人々との交流も深まっています。
 今後の課題:研修修了後、「外に出る機会が少なく、家に引きこもりがち」と聞くのは残念ですが、一方、「通訳なしで区役所や病院へ行って手続きができ、自信がついた」と言うのを聞くのは励みになります。また、「隣近所との付き合いも深まった」と、地域社会で自分の「居場所」を獲得し「安心して生活できる」という人もいます。
 ことばを習得し、自立することを目的にして開講した再研修講座です。自立といえば就職と考えますが、孤児世代は高齢であることから就労が難しく、さらにことばや技能にハンディを背負うため、ほとんど絶望的な状況です。長引く不況は、特に北海道においては深刻です。その中で、市の公園管理の仕事に就けた50歳代の修了生は、再研修講座で日本語を聞いたり話したりすることに抵抗が少なくなり、職場の人間関係も作ることができて、「働くのが楽しい」と言っています。孤児世代の多くの人が就職できない現況に、周囲の人は働く気がない、やる気がないと言いますが、自立とは経済的な自立だけではないと思います。先の例のように、初歩的であれ生活行動の面で飛躍的な進歩が見られ、自信をつけていることも自立と言えないでしょうか。
 帰国者の日本語教育に取り組み始めた時、文化庁や国立国語研究所の研修会で「帰国者が身につける日本語は第二母語、帰国者にとっては死ぬまで学び続けなければならない」と聞きました。再研修講座を修了した受講者の「機会があれば続けて勉強したい」という声を聞くと、このことばをいつも思い出します。再研修講座では、生涯学習としての日本語学習などの支援にどのように取り組むかが、今後の課題と考えています。

(北海道中国帰国者自立研修センター 新国久男)

★神戸市立港島小学校の試み

・私設リソースセンター

本校の校区には、神戸大学と神戸市の外国人留学生用住宅があるので、外国の子どもたちが、毎年15名ほど在籍しています。私は5年前に日本語指導担当になってから、民間の日本語指導者養成講座で勉強しました。しかし、すぐに「これは大人向けの理論であって、子ども向けに加工しなければならない」と、痛感しました。そこで、自分なりにいろいろと教材を工夫し、各種の研究会で発表しました。その度に、参加していた外国人児童生徒の担任の先生から、教材の提供依頼を受けました。子ども向け日本語教材がとても少ないということが、改めてわかりました。また外国人児童生徒の担任になって、病気で休職している先生や不登校ぎみの外国人児童生徒の話をたくさん聞きました。そこで、私のような日本語指導専任は、自分の学校の子どもだけでなく、他校の先生や子どもたちにも役立つべきだと思うようになり、教材のライブラリー化とそれらを貸し出す私設のリソ ースセンターを作ろうと考えました。
まず私は、自分のオリジナルや各地から収集した教材を保存用と貸し出し用の二つにしました(これらは、著作権をクリアしたものだけです)。貸し出しは、3コースあります。Aコースは、「プレゼント」です。提供依頼の多いものは、印刷して、すぐに提供できるようにしています。Bコースは、「貸し出すので、そちらでコピーして返してください」です。Cコースは、「コピーを一部多く取ってください。そして、貸し出したものとコピー一部を返してください」です。つまり、返却されたコピーを次の貸し出し用とするための協力をお願いしているわけです。希望教材によって、三つのコースを組 み合わせて提供しています。提供には、条件があります。
@郵送費は、そちらで持ってください。
A同じ県や地域から問い合わせがあった時は、そちらをを紹介するので快く提供してあげてください。
B教材についての感想や自分の改良点などをもちより、さらにいいものにしていきましょう。
の三点です。また自作の「日本語の教え方」というビデオ教材も貸し出しています。これはダビングすると画質が落ちていくので、私からオリジナルを最初の人に送ります。その人から次々に転送していくという方式です。今も、ビデオカセットが巡業の旅に出ています。
 ほとんどの先生が指導の時間が十分とれないので、子どもが繰り返して学習できるパターン練習のものや母語対訳のものを希望されます。また全国からの見学希望者には、必ずそちらのオリジナル教材の持参を事前にたのんでいます。こうして、著作権をクリアした教材を拡充するようにしています。これから教材提供を希望される方にお願いです。教材提供はもちろん無料ですが、ここまで教材の開発、収集、コピー、印刷、ページそろえと膨大な手間と時間がかかっていることを忘れないでほしいのです。そして、次の人のために、新たな教材提供者になっていただきたいと思っています。

・保護者日本語教室

本校の外国人保護者は、父親が留学生で日本語が話せる場合が多いです。しかし母親は、日本語を勉強したくても、小さな幼児をかかえていて日本語学校へ通うことは無理です。そこで、昨年4月より昼間の時間帯に小学校で学習会を開いています。現在、中国、韓国、ベトナム、インドネシアからの4人が学習しています。支援者は日本人の保護者で、ボランティアとして約10人ほどの人が関わっています。教科書で学習する日と、フリートーキングで互いの行事、料理、音楽などを教え合う日があります。小学校が空き教室を提供して、土日を除く毎日午前10時から12時まで学習しています。学習以外に外国料理の試食会や花見の会など、交流の輪が広がっています。全国の学校でもいかがですか。

問い合わせ先
〒650-0046 神戸市中央区港島中町3-2-3 
神戸市立港島小学校
村山 勇 (ワールドルーム担当)
FAX 078-302-1662
個人E-メール cao11490@pop02.odn.ne.jp

研修会情報

今年4月の介護保険のスタートに関わって、前号に続き今回も、帰国者支援の視点から介護を考える研修会の報告です。

★ 「同歩会主催・介護ヘルパー講習会」

 14号で紹介した帰国者支援をしている『同歩会』が、2月14日から3月5日まで「介護ヘルパー講習会」を開きました。
 練馬区には中国から来た人が多く住んでいますが、高齢化した残留孤児に介護の必要性が出てきています。一方、現実に介護が必要になっても、中国語も通じない、食事や生活習慣も変えたくない、だから施設に入りたくない、自宅で介護してもらいたい…という帰国者からの強い要望もあります。これらの声に応えようと、『同歩会』が東京都の委託を受けて開いたものです。高齢者の介護が第一の目的ですが、さらにはこの介護の分野で二・三世の就労の機会も増やしたい、という願いもありました。
  平日3時間、土・日曜日6時間、計50時間の講習会では、練馬区内の医者・保健婦・訪問看護婦・デイサービス指導員・介護福祉士・ヘルパーなどが講師を担当しました。通訳を受け持った『同歩会』の帰国者2名は、教科書やプランを見て専門用語や知識を勉強して講習会に臨んだということです。 受講者は13名、そのうち9名は帰国者家族でした。講習は講義と実習の二本立てで、まず基本的な知識を指定の教科書2冊で学習し、その後、デイサービスセンターに出かけて介護の実際を体験しました。みな参加の動機が高く積極的で、遅刻・欠席ももちろんなく、実習でも高い評価を受けました。また、補講を、現在介護3級ヘルパーとして仕事をしている残留婦人の娘さんなどが担当したことで、受講者には心強く、現場での困難な点なども直かに聞くことが出来て有益だったようです。
 受講者からは、「カタカナ用語が多く大変だった」「学んだことをすぐに自宅で生かすことができた」という感想がありましたが、ヘルパーとしての技能・知識を学ぶ、日本語でヘルパー用語を覚える、実際に日本人と関わる機会をもつ、と受講者には一石三鳥であったといえるかもしれません。

 『同歩会』では、将来的には自分たちで介護ヘルパー派遣システムを作って仕事をしていきたいと考えています。今は、こうして学んだ知識や技術を生かして働ける場所を是非提供してほしいと広く呼びかけています。

 『同歩会』の介護についてのお問い合わせは下記へ

〒177-0042
 練馬区石神井町1−24−6
 原田ビル3階『同歩会』
 TEL:03-5372-0020
連絡可能な時間帯 月・水・土曜
         午前10時から午後4時まで

★ 喪失体験からの回復を願って
 - 平成11年度「厚生省適応促進対策研修会」

 本年2月3・4日の2日間、平成11年度厚生省「適応促進対策研修会」が定着促進センター、自立研修センターの生活相談員、就労相談員、日本語講師、都道府県と厚生省の職員が参加して東京で開かれました。国際医療福祉大学の相原和子先生の「中国帰国者等におけるメンタルヘルスの理解と対応」と題する講義の中で特に印象に残った点を紹介します。
 「心電図、CT・・・どこも異常ありませんよ」「先生、でも苦しいんです」。帰国して3ヶ月目頃から体の不調を訴え家に閉じこもるTさん(62才)は、3軒目の病院でも異常は見つからず、慣れない環境で精神的ストレスから来る神経症と診断された。異文化に接触して慣れ親しんでいく過程で生じるさまざまな心理的な問題は個人により差があるが、帰国孤児、婦人本人の場合は他の移住者と異なり「単なる異文化への不適応」では説明できない点も多い。何故なら、彼らには自分史における二重の大きな喪失体験の苦悩があるからだ。その一つは幼少期に一人中国に取り残されて、実家族、母国、母国語等を失った事である。当時、まだ物心がつかいないほど幼かったとしても、育つ過程で社会から差別や迫害を受ける事も心の中に「放り出された、捨てられた、それさえなければ・・・」という喪失感をもたらす。もうひとつは日本への帰国に伴うもので、養父母家族、第二の母国、成長過程における文化、そして社会的地位や役割の喪失体験である。
 「生活保護で一生面倒を見てくれたっていいじゃないか」ということばを聞くことがあるが、適応が難しい人ほど本当はそう思っていなくても、このような発言でしか自分の辛い思いを表現できない状態に追い込まれている場合もある。支援を行う立場の者は帰国者との関わりの中で時には優しく励ましたり、時には強く叱ることもあるかもしれないが、臨床症状(強い不安、不眠、自律神経症状−発汗・口渇・頻脈・嘔吐・鬱状態等)が現れて弱っているときは、まず休ませ、過度の励ましや叱咤は逆効果である。また、このような帰国者は、その人の人生の中の人間関係を軸にして喪失体験からの回復を目指すことが大切である。例えば「あなたを今日まで生き続けられるように助けてくれた人が誰かいましたか」「何があなたを支えたのですか」と尋ねるとよい。安心出来る人を思い出すと、その人がそばにいなくても精神的な辛さが軽減し表情も和らぐ。
 そして、相手の症状にある程度の安定が見えてきたら、次にその人にできる社会との繋がりを一緒に考えてあげることだ。中国では職場や地域で一社会人としての役割があったのに、日本ではことばが解らず思い通り社会に参加できないことで、自分の人格まで否定されたように思い自尊心の低下をもたらす。高齢者の就職は簡単な事ではないだろうが、仕事ができないのであればボランティア活動でもよい。週一回の公園掃除に参加して地域の人たちとの関係が築かれて生き生きとしてきたというケースもあり、日本社会との接触、地域の人との繋がりを持つことが帰国者の精神的安定に結びつくことを示している。
 以上が概要である。講義はこの他にも示唆に富んだ内容がたくさんあったが、先生は最後に、人との関係作りにおいて心掛けるべき「四つの目玉」(荒俣宏著「日本妖怪巡礼団」より)があり、それは透視目玉(その人の過去を思い浮かべる)・観察目玉(だれも皆同じと考えず個別性を見出す)・驚き目玉(喜びや悲しみを共感する)・分析目玉(客観性を失わない)であるという。帰国者の中には孤児や婦人の他にその配偶者、同伴家族、呼び寄せ家族もいて、みな異なった立場で様々な思いを抱えて未知の日本へ来る。彼らを支援する私たちはこれからも「四つの目玉」をしっかりと見開き、一人ひとりの言葉にならない思いに耳を傾けていかなければなるまい。

(所沢センター 益村)

★「日本語学習支援ボランティア入門講座」 at所沢

 平成12年3月、埼玉県所沢市で日本語学習支援の新人ボランティア養成講座が4日間、開かれました。「外国籍の市民に日本語学習の支援活動をするボランティアの発掘及び養成」を目的に所沢市教育委員会社会教育課が主催したものです。
 この講座には、市教委の要請を受けて中国帰国者定着促進センター(所沢センター)も企画段階から携わりました。まず、新しくボランティアをしたい人にぜひ知っておいてほしいことをまとめるために、日本語学習支援を続けている市内の5つのボランティア・グループと話し合いました。それをもとに、センター講師による2回の講義と現役ボランティアによるディスカッション、センターで実施している交流実習への体験参加から成る講座を開きました。
 一回めの講義では「日本語学習支援とボランティア活動」と題して、多文化共生社会に向けての異文化コミュニケーション・ボランティアの意義について話しました。日本社会に同化させることを目指す支援ではなく、共生社会をともに創り出していくために行う支援を目指そうという主旨で、「地域社会で日本語学習支援を必要としている人々」、「定住型外国人や帰国者等の抱える問題と特性」、「日本語学習支援の意義と支援者の役割」についての講義を行ないました。
二回めの講義「日本語学習支援の可能性」では、これまで「日本語教育」や「日本語学習支援」というような活動には関わったことのない受講生に、まず具体的な学習活動の一端を知り、「どのような活動であれば支援者として参加できるか」を考えるための材料を提供しました。「定住型外国人」の学習支援の一例として所沢センターの学習を取り上げ、来日直後の日本語学習が単にことばの面だけではなく、日常生活場面での行動や情報収集、地域や職場の人々との付き合い方など、さまざまなタイプの学習活動が行われていることを紹介しました。また、実際に支援活動を行うにあたって必要となる手順、外国人が必要としていることを把握することの重要性について説明しました。ボランティアの日本語教室が「定住型外国人」のさまざまな必要に応え、彼らと地域社会とをつなぐ「場」としてさまざまな役割を果たしていますが、そのような各地の教室の例を紹介しました。
 三回めのディスカッション「先輩の声を聞く」では、所沢市内ですでに日本語学習支援をしている5つのボランティア・グループの代表者が勢揃いし、日ごろの活動を通しての悩みや喜びなどを熱く語ってもらいました。
 ボランティア組織の慢性的な人手不足、組織の一員としての自覚のない人を抱える悩み、ボランティアに対する外国人からの不満への対処、外国人の悩みについてどこまで相談にのればよいのか、教室での教授上の悩みなど、多くの普遍的な問題が挙げられました。しかし同時に解決策も挙げられ、何年もの蓄積を感じさせられました。
 「喜び」の方では日本語学習支援を通して知り合った外国の人が地域社会で活躍していく姿を見ること、異文化との接触などが挙げられました。体験を通してのアドバイスは大変説得力がありました。
 また、受講生からは年会費の額や現場を見学ができるかどうかなど、具体的な質問が多く、終了後もグループの代表の方をつかまえて質問するなど、ボランティア活動参加への熱意が感じられました。
 四回めは所沢センターで行なっている交流実習への体験参加でした。講座受講生がセンターのいろいろなクラスに入り、中国やサハリン帰国者との初対面同士の会話や漢字ジェスチャー・ゲーム、ミニ座談会などを体験しました。お互いの国のことばがよくわからない同士ですが、写真や地図、ジェスチャーなどさまざまな手段を使って交流しました。
 講座修了後、「これからボランティアを始めようというところだったので講義は少し難しかった。交流会実習はお互いに笑顔で交流でき、とても楽しく、参加してよかったと思った」、「これまでにもボランティアの経験があったが、交流実習に参加したことで、意思の相通がなかなかできないときにどうしたらよいかという課題が見つかった」といった感想が出されました。

              (所沢センター)

★研修会のお知らせ

◆ 日本語教育学会2000年度春季・秋季大会
(春季)
期    日:5月20日(土)21日(日)
場    所:大東文化大学(東京)
問い合わせ:日本語教育学会  TEL03-3262-4291
(秋季)
期    日:10月7日(土)8日(日)
場    所:名古屋外国語大学(名古屋)
◆ 異文化間教育学会大会
期    日:5月27日(土)28日(日)
場    所:青山学院大学(東京)
問い合わせ:準備委員会    TEL03-3409-8111  内線12279
◆ 子どものための日本語教育ネットワーク
・第4回定例研究会 「シンポジウム形式」
6月10日(土)1:00〜4:00  場所:広島YMCA
・第5回定例研究会「参加型
8月26日(土)1:30〜4:00  場所:池袋(詳細未定)
※連絡先  E−mail ikegami@kikokusha-center.or.jp  FAX:042-991-1689

行政・施策

★厚生省から

1.平成12年度中国残留邦人等の援護対策関係予算

平成11年度予算額   平成12年度予算額
2,275百万円 2,091百万円

@永住帰国者援護

2,009百万円 1 ,865百万円
252世帯948人 232世帯870人

(うち樺太等22世帯80人 → 22世帯80人)
※自立研修センター閉所の5県を対象に中国帰国者就労相談員派遣の継続事業を含む

A 一時帰国者援護

216百万円 170百万円
318世帯483人 247世帯360人

(うち樺太等167世帯 207人 → 155世帯200人)

B 肉親調査(訪日調査等)

50百万円 46百万円

C樺太等現地調査

0百万円 10百万円

2.組織改編について
樺太(旧ソ連本土を含む)からの帰国者の援護については、従来厚生省社会・援護局業務第一課調査資料室において行われておりましたが、本年4月1日の組織改編により同局援護企画課中国孤児等対策室で行うこととなりました。

3.平成11年度適応促進対策研修会
平成11年2月3日、4日東京で開催され、中国帰国者定着促進センター職員9名、自立研修センター職員33名、都道府県職員6名、厚生省職員7名が出席しました。

4.援護企画課中国孤児等対策室調査班からのお知らせ

@血液鑑定の結果について
平成11年度中国残留孤児の訪日肉親調査において、肉親と思われる関係者と血液鑑定を行った孤児4名について、 次のとおり鑑定結果が得られました。

  

 訪日人員 血液鑑定を行なった孤児数 鑑定結果
肯定 否定
(備考) 調査期間
20人 4人 1人 3人 平成11.11.1〜平成11.11.16
 
訪日次数 訪日人員 判明 未判明 判明率
平成11年度 20人 2人 18人 10.0%

A中国残留孤児の訪日肉親調査について
訪日肉親調査は、肉親の判明率が低下していることや、高齢化した孤児の訪日に伴う身体的な負担を軽減し、早期の帰国希望に応えるため、集団による現行方式に替えて、今後は中国現地で日中共同の調査を行った後、日本で孤児の情報を公開し、日本側に肉親情報を保有する者についてのみ訪日対面調査を行うことにしました。また、肉親情報がない者については、日中両政府で孤児と認めた者であるので、直接帰国できる方法に改めました。

★ 文化庁から

「第2回 日本語教育推進会議−情報ネットワークを活用した日本語教育支援−」の概要

平成12年1月24日に開かれたこの会議は昭和48年度から「日本語教育機関連絡協議会」として開催してきたものを前身としており、今回が2回目です。昨年の3月に提出された報告書「今後の日本語教育施策の推進について−日本語教育の新たな展開を目指して−」(「今後の日本語教育施策の推進に関する調査研究協力者会議」)の提言内容を踏まえて、機能の拡充を図ったものです。これまで「日本語教育機関連絡協議会」において蓄積してきたものについて、より実質的な協議を行い、関係機関等の連携・協力を図っていくための体制づくりを目指すという趣旨から、前回より名称を「日本語教育推進会議」と改めました。
今回の会議のテーマは「情報ネットワークを活用した日本語教育支援」でしたが、これは、こうした支援が日本語教育を取り巻く新たな状況の展開の中で早急に取り組むべき重要課題の一つである、という先の報告書の提言や指摘に基づいています。
当日は、国語課長のあいさつのあと、まず、「日本語教育支援総合ネットワーク・システムの構築」と題して、国語課から平成12年度において新たな経費として計上したネットワーク・システムの趣旨・概要や運用の在り方に関して説明を行いました(注)。その際、約30の参加機関の皆様には日本語教育関係情報や教材用素材の提供をお願いしました。さらに、この説明に対して参加者(前回の会議の時よりも増加)からの質疑応答や協議が行われました。
次いで、「日本語教育関係情報の共有化」と題して、国立国語研究所、国際交流基金、中国帰国者定着促進センター、国際文化フォーラムの4機関から、情報ネットワークを活用した情報提供の現状と問題点について事例報告(各機関ごとのホームページ紹介やインターネットなどの活用経験等)を行ってもらいました。
後半は、「日本語教育関係情報の共有化」というテーマで、(1)日本語教育支援総合ネットワーク・システムに期待すること、(2)情報の共有による各機関・団体の連携・協力の在り方、(3)教材用素材の共有・流通のシステム化等について全体協議を行いました。
最後に各機関・団体間の情報交換等を行い、閉会しました。
(注)システムは大きく(1)情報ネットワークと(2)教材制作ネットワークからなっている。(1)は、国内外の日本語教育機関をつないで、日本語教育関係情報(統計・研究・教員・教材情報等)の収集・発信や日本語教育に関する研究協議・情報交換をインターネットや衛星通信を活用して総合的に行うネットワークシステムを構築すること、(2)は多様な教材用素材(映像・音声・写真・印刷資料等)を収集し、これを日本語教材を作る関係機関(大学・団体等)へ提供することにより、多様な学習需要に応じた教材制作を促進することを目指している。

(文化庁国語課 野山 広)

★ 文部省から

1.平成12年度外国人子女等教育相談員派遣事業の委嘱について

 今年度は、事業を拡大して69地域(前年度は58)を指定しました。このうち、中国等帰国孤児児童生徒関係の 地域は16都道府県の22地域(前年度は15)に拡充しています。指定地域は次の通りです。
北海道(札幌市)、福島県(福島市)、栃木県(黒磯市)、群馬県(前橋市)、埼玉県(本庄市、岩槻市)、東京都(江戸川区)、長野県(長野市)、大阪府(堺市、門真市、八尾市、東大阪市、豊中市、松原市)、兵庫県(明石市)、奈良県(高取町・橿原市【公立高等学校】)、岡山県(岡山市)、山口県(岩国市)、香川県(高松市)、高知県(高知市)、長崎県(長崎市)、熊本県(菊陽町)

2.中国等帰国孤児子女教育研究協力校の指定について

 文部省では、昭和51年から研究協力校指定を行ってきましたが、この委嘱事業については開始以来多年を経過しており、それぞれの研究成果は学校現場で広く活用されるようになってきています。また、文部省ではこれまでの研究成果から日本語指導のための補助教材・教師用指導資料を作成し、教育委員会及び受入れ校に配布してきました。これらの取り組みによって受入れノウハウが蓄積されてきたので研究協力校については一定の役割を終えたものと考え、平成12年度においては新規の指定を行わないこととしました。よって平成12度の研究協力校については平成11・12年度に指定した学校(19)のみの継続になります。平成10年度の研究協力校の成果等の概要については、http://www.naec.go.jp/kaigai/coop.htmlで見ることができます。平成11年度の研究成果についても、おって上記のホームページ上で見られるようにします。

(文部省 教育助成局海外子女教育課)

教材・教育資料

◆◆ 紹介!! 所沢センター自主開発教材 ◆◆

★ 『すいすい 引いてみよう−日漢辞典と漢和辞典が引けるようになるために−』
⇒この教材のサンプル

 13号で紹介した所沢センターの辞書引き教材、『すいすい引いてみよう』が今回、活用形から辞書形を導き出す手順等を大幅に改訂して正規出版されました。この教材は、中国語を母語とする学習者が日漢辞典と漢和辞典を使いこなせるようになることを目指したもので、今まで辞書を引く習慣のなかった学習者でも段階をふんで2種類の辞書が無理なく引けるようになるよう工夫しました。引き方の解説文や例文とも、日中対訳の形をとっているので自習用にも使えます。
       A4版 全60頁  価格 520円
申し込み先: 中国残留孤児援護基金出版部
〒105-0001東京都港区虎ノ門1-5-8オフィス虎ノ門一ビルTEL03-3501-1050(代)

モニター募集します!

★ 『こんなとき会話―職場編―』
  テキスト:A4版88頁(テープ6本付き)

「こんなとき会話シリーズ」は帰国者が生活の中でぶつかる様々なコミュニケーション場面を取り上げ、日本語でどう対処すればいいかを紹介する課題解決型教材です。初級の後半レベルの学習者を主な対象に、場面の説明、モデル会話例、語彙や文型の解説、そして様々な練習問題を付けました。テキストは見開きで、左ページは日本語、右ページは中国語訳という構成です。またテキストに対応したテープがあり、繰り返し聞いていつのまにか覚えてしまうのがねらいです。通勤の車中や、家事をしながらの「ながら学習」ができますから、忙しい方にもチャレンジできるらくらく自学用教材です。また日中の違いについて、周囲の人と話して日本事情についての理解を深めることができます。目次の一部をご紹介しましょう。
 仕事を休んだ次の日/電話で欠勤を届ける/バスが遅れて遅刻/休暇願い―1週間―/歓迎会を開いてもらう/お酒に誘われたけれど/仕事のやり方がわからないとき/職場に来客/職場にかかって来た電話
 モニターの資格・条件

中国帰国者等(含む:同伴・呼び寄せ家族)
現在就労しているか、または就労を目指している方
学習開始時および終了時の2回、アンケートに中国語で回答の上返送できる方
教材送付時およびアンケート返送時の送料を自己負担できる方

★ 『こつこつ日本語・運転免許』(サンプルページが見られます)
   テキスト:A4版 168頁

自動車運転免許の取得を目指すための学科試験問題集(詳細は16号参照)です。教材の改善とニーズ把握を目的に、再び募集します。

 モニターの資格・条件

中国帰国者等(含む:同伴・呼び寄せ家族)
現在、自動車学校に通っているか、近く入校を予定している方
アンケートに中国語で回答の上、受領後3ヶ月以内に返送できる方
教材送付時およびアンケート返送時の送料を自己負担できる方

応 募 方 法
 いずれも自立指導員、日本語講師、ボランティア、身元引受人等支援者の方が直接電話にてお申し込みください。詳細はそのときお話しますが、後日、下記事項について手紙、FAX、Eメール等でお知らせ頂きます。
学習者の氏名/〒番号/住所/電話番号
支援者の氏名/〒番号/住所/電話番号/学習者との関係
希望する教材名

なお、申込みが定員になり次第締め切ります。ご了承ください。
問い合わせ・申込み先
  〒359-0042
  埼玉県所沢市並木6-4-2
     中国帰国者定着促進センター教務課教材モニター係 平城

TEL:042-993-1660 FAX:042-991-1689
Eメール:hir@kikokusha-center.or.jp

とん・とん インフォメーション

★サハリンに新たに日本語講座開設

 2000年4月17日より、ロシアのサハリン州ユジノサハリンスクに新たに日本語教室が開設されました。これは、サハリン残留邦人の帰国を支援している「日本サハリン同胞交流協会」が「日本財団」の支援を受け新年度から開始する事業で、日本への永住帰国を希望する邦人家族だけではなく、日本語を学びたいと思っている一般のサハリン市民も受講することができるものです。現在、受講者はすでに80名を越しており、この中には、ユジノサハリンスクの小・中学校で外国語として日本語を学んでいる子どもたちや、10代から20代にかけての若者たちもたくさんいます。
講師は、「日本サハリン同胞交流協会」から3ヶ月交代で1名ずつ派遣される予定ですが、4月から6月を担当する赴任者の出発に先立ち、講座開設準備のための研修が当センターで3日間行われました。主にカリキュラムの作成、教材や教具の選択と使用、授業見学と組み合わせての様々な教室活動の紹介、授業の組み立て方というような内容でした。
日本語教室が開かれることで、邦人家族が帰国にそなえての日本語学習を進めることができるようになるとともに、日本に親しみを感じるサハリンの人々が増え国際交流への関心がいっそう深まることが期待されます。サハリンに“単身赴任”される協会の方々のご健闘をお祈りしたいと思います。

(所沢センター)

ニュース記事から (H12.1.6〜H12.4.19

1.17 文化庁、日本語教育情報をデータベース化へ
2.29 サハリン残留韓国人、集団帰国始まる
4.19 中国残留婦人二世姉弟が入国申請し 弟は許可、姉は却下、管理局により審査基準に差があるのか

事例紹介 あのひと・このひと

人生はリハビリ

 Cさんは一九九四年二月に残留孤児である妻のOさんとともに、日本にやって来た。そして、たった二人だけの異国での生活が始まった。Cさんは所沢センターで約四ヶ月の研修を終え、定着地で新たな人生のスタートを切ったが、やはり日本語は十分というレベルにはほど遠い状況だった。
 不自由な日本語で日本で暮らしていくこと の困難さは、多くの帰国者にとって宿命とも言えるだろう。しかし、困難な条件は皆同じでもその生き方は必ずしも同じとは限らない。定着して間もなく就職の道を選んだCさんは、自立研修センターでの研修は受けていない。仕事の傍ら、自宅から自転車で約三十分のところにある公民館まで足をのばし、夜間の日本語教室に四年間通い続けた。私はそんな彼の定着への道に興味を持ち、話を聞いた。取材は日本語だけでは難しく、中国語にごく片言の日本語を交えながら行なわれた。

 「そりゃ最初のころは良かったよ。生徒もたった五、六人で俺も所沢センターを出たばかりだったしね。それがさ二年もすると、息子の嫁ぐらいの若いのがどんどん増えてきて、五十過ぎのオヤジは俺一人ぐらいになってたんだ」
 一九九八年に中国で脳梗塞で倒れたCさんは呟くようなゆっくりとした口調で、私の質問に答えてくれた。
「ああ、勿論授業中も決まって俺が一番飲み込みが悪いんだ。でも自分を責めたりはしない。年の差があるから仕方ないさ。それにもともと俺はおしゃべりが苦手だから」
「うん、みんなの足も引っ張ったと思うよ。でも、周りをあまり気にしなかったから良かったのかな。ここではたくさんの物の名前を覚えたよ。これだけは自信あるんだ。でもね、やっぱりだんだん居づらくなってきてね。結局、去年辞めちまった」
 「また日本語教室?もう、こりごりだよ。でも、俺たちのような年寄りがゆっくり勉強できるところがあれば話は別だけど」
 「どうして自立センターに行かないで、すぐに仕事をしたかって、それは、ちょうどできそうな仕事があったからだよ。それだけ」
 「仕事をする理由を聞かれても困るよなあ。何しろ俺にはこうするしかなかったからな。脳梗塞で倒れたあと左半身に麻痺が残って、言葉も出なくなっちまって、でも仕事をし続けたお陰でいいリハビリになった。病気の前と同じ仕事はできなくても、左の手足には徐々に感覚が戻ってきたんだ。ほらっ、見な!」
 Cさんは得意げに左指を動かしながら、その回復ぶりを私にアピールした。その仕草は、重い病気を抱えながらも仕事をし続けてきたという自慢ではなく、一度は動かなくなった身体を甦らせてくれた仕事に対する感謝の気持ちのように感じた。
  「子供たちの世話になるなんて、そんなこと考えたこともない。三人の息子とその家族は日本に呼んで、みんな近くに住んでいるけど、身体が動く限り自分たちのことは自分たちでやらなきゃ。それに働くことは俺の身体にもいいんだ」
 私にはCさんがなぜ六年間、雨の日も雪の日も一日も休まず、大学病院での清掃の仕事を続けてこられたのか、その理由がわかった。ひたすら身体を動かすことでCさんは新生した。そして、そう信じているCさんがそこにいる。また、どうして四年もの間、困難を感じながらも公民館の日本語教室に通い続けられたのかがわかった。
 「俺には難しいことはわからない。なんで勉強するのかなんて考えたこともないよ。ただ人生というのは、生きている限りなにかすることなんだ。日本語の勉強もそんなもんじゃないかな。ただ勉強すればそのうちいいこともあるさ。この左手みたいに」

 こう話しながら彼はまた左手の指を動かした。Cさんにとって、また多くの人々にとって人生とはリハビリのようなものではないかとも考えた。単純なことを繰り返すことで機能が回復する(リハビリ)のであれば、一見とても単調な日々の繰り返しこそが人生である、と不自由な身体で日本語もまだ十分に話せないCさんが教えてくれたような気がする。私は彼の生き方から、ある程度の年齢になって新しい土地で生活していく人の知恵のようなものも感じたのである。

(所沢センター 小松)