各都道府県による“中国帰国生徒・外国人生徒”の進学保障の現状
−公立高校の入試特別措置の設置状況についての調査報告−
安場 淳
0.はじめに
中国帰国生徒や外国人の中学生が高校入試という関門を越える困難さについてはこの10年ほどで徐々に自治体にも認識されるようになり、対策を講じる都道府県も増えてきている。ただ、その方針は都道府県ごとに決められるため、地域による格差を免れない。所沢の中国帰国者定着促進センター(以下、所沢センター)では全国に子どもたちを送り出していることから、その格差が大きな問題となっていたが、それ以前に、所沢センター出身かどうかに拘わらず、どこに住むかで来日した子どもたちのその後の進路に決定的な差が生じてしまうのは望ましいことではない。
子どもたちとその支援者に正確な情報を提供するために、またひいては自治体間の格差の是正を訴えていくためにも、各自治体が現在どのような措置を設けているかを把握し、公開していく必要があると考えたのが本稿で報告する調査のきっかけである。
1.高校入試を巡る支援策の状況
文部科学省2001年9月時点での調査 によれば、「日本語指導が必要な児童生徒」の人数は、母語別ではポルトガル語7,518人(7,425人)、中国語5,532人(5,429人)、スペイン語2,405人(2,078人)、その他の母語3,795人(3,500人)とそれぞれ増加しており、これまでの調査同様、ポルトガル語、中国語及びスペイン語の3言語で全体の8割を超えている(( )内は2000年度の数値)。中国語を母語とする児童生徒の場合は、留学生の帯同児童生徒、国際結婚の帯同児童生徒も増加しているが、都市部以外では中国帰国者の係累がかなりの割合を占めているのではないかと考えられる。
グラフ1 「日本語指導が必要な児童生徒」数 |
前ページ 注1:2001年9月時点の文部科学省調査をもとに安場作成 |
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1文部科学省ホームページhttp://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/houdou/index.htm
「『日本語指導が必要な外国人児童生徒の受入れ状況等に関する調査(平成13年度)』結果」より
この統計については数値自体の問題が指摘されている。「日本語指導が必要な児童生徒」の人数は学校現場で日々子どもたちと接している教員の判断に基づく値である。何年かの滞日期間を経て話し言葉に一見問題がなくなった子どもはこの中に数えられない場合がほとんどであるが、その大部分がいわゆる「学習言語」2 の習得に大きな困難を抱えている事実が支援者間で指摘されている。実際には、挙げられているデータの何倍かの人数の学習支援を要する子どもたちが存在していると考えた方が妥当だろう。
外国人の子どもたちの進路保障に関わる問題はあまりにも大きく、また重い。中学校一つとってみても、中学校への編入が年齢超過や在留資格に問題があるとして認められない、編入できても適切な支援が得られず中退してしまう、保護者自身が子どもを学校に行かせようと考えていないなど、行政的な支援策が採られない限り、周囲の支援者の個人的な努力ではどうしようもない問題ばかりである。中国帰国生徒の高校進学に関わる状況については鍛治(2000)に詳しい。安場(2000)でも述べているので、ここでは繰り返さないが、少なくとも大部分の子どもたちは何らかの救済策を必要としている。 3
2「学習言語」の定義に立ち入ることは避けるが、ここでは学科の学習についていくに足る言語力を指す。
3兵庫県内の調査でも中国帰国生徒および外国籍生徒の高校進学率は10〜60%に止まっている(神戸新聞02/10/18)。
さて、日本語にハンデのある生徒のために設けられている高校入試の特別措置について、その属性による三つのグループごとに以下に簡単に述べると、
・「海外帰国子女」のための措置
この制度はもともと日本国籍を有し、海外滞在期間が長かったために日本の高校入試にハンデのある子どもたちのために設けられた制度であったが、中国帰国生徒の高校入試の困難さが注目されるようになるにつれ、いくつかの自治体がこの措置を中国帰国生徒に援用するようになって今に至っている。この場合、中国帰国生徒は「帰国」であるが故に、日本語のハンデのある日本人生徒という枠の中で制度の恩恵を受けることができるということになる。
・「中国帰国子女」のための措置
中国帰国生徒の在籍数が特に多い自治体や中国帰国生徒が増えていったような自治体では、「中国引揚者子女」という名目で措置を設けるようになったところが多い。中国帰国者は原則として出身の都道府県にまず定住するので、首都圏など大都市圏を別にすれば、在籍数が特に多い自治体とはとりもなおさず、戦前、満蒙開拓団に多くの県民を送り込んだ県であると言える。
・「外国人生徒」のための措置
80年代にはインドシナ難民の定住、90年代初めからは南米日系人生徒などの外国人生徒の急増が起こって徐々に措置を設ける自治体が増えていった。(なお、この措置の対象となる生徒はいわゆるニューカマーに限られる。) 中国帰国生徒の場合、国籍が中国である限りにおいてこの措置を受けることが可能であると規定している都道府県もある。ただし、彼らの多くは来日後早期に日本国籍を取得するため、その時点でこの措置は受けられなくなってしまう。
現在のところ、中国帰国生徒はある自治体では「海外帰国子女」に属し、別の自治体では「外国人生徒」あるいは「中国帰国/引揚者子女」に属することになり、受けられる措置も異なってくることになる。もっとも、各グループのための措置の内容が自治体ごとに異なるので、地域間の支援の格差を見るためには、内容自体を見ていかなければならない。
現在、この3つのグループを区別してそれぞれのための措置を設けている自治体もあれば、どのグループに対しても何の措置もない自治体もある。これには、その都道府県の公立中学に在籍する中国帰国・外国人生徒のグループごとの人数も関係している。外国人生徒が一人もいなければ、その県が特別措置を設けることは考えにくい。また、少数しか在籍していなければ、制度化した措置がなくても個別の中高の校長間の協議などによって進学を保障することも可能であるし、実際にそのような事例も耳にする。したがって、進路保障の実態を把握するには本当はそのような個別の事例を集めるところから始めなければならないのだが、このような事例の情報は公開されないし、例外的な扱いとして行われている場合も多いため、収集も難しい。
そこで、少なくとも制度化された措置のある自治体の情報を公開することで、措置を設けていない自治体にとっての比較対照の資料を供することだけでもできるのではないかと考えた。
さらに、措置がある場合も、あるいは一つの措置を別のグループに援用している場合も、そのことが中国帰国生徒本人あるいは支援者間に周知徹底されていなければ意味がない。ところが、往々にして現場の中学校教員がそれらの措置について知らされていないということがある。その意味でも、こうした情報の公開と共有は不可欠であると考える。今回の調査が少しでもそうした状況を改善することに役立てばと思う。
ただ、こうした情報は本来公開されるべきものであるが、制度を柔軟に援用して非公式な策を採っている自治体の場合、そのことが公開されると却って支援のレベルが後退してしまう場合があり得る。また、周囲の自治体と比べて突出して先進的な策を採っている自治体の場合も、情報の公開によって「横並び」意識から同様のことが起こるおそれがある。微妙な問題であるが、公開するかどうかはとりあえず自治体自身の判断に任せることとした。
なお、戦後の混乱により、長らく帰国できずにいた邦人としては、現在サハリン(正確にはロシア及びウクライナ、カザフスタン等旧ソ連圏の国々)からも永住帰国を果たしつつある人たち(以下、サハリン帰国者)がいる。彼らに対する国や自治体による支援は、彼らを「中国帰国者等」に含めることにより中国帰国者と同様の施策を講ずるものとされているが、二世三世の進路保障についてはまだ非常に少数であるためか、中国帰国生徒のための措置の対象に含めている自治体はまったくない。対象に含める含めない以前に、「サハリン帰国生徒」の存在について認識を迫られる必要のなかった自治体がほとんどと言ってよいだろう。したがって、本稿で報告する調査の項目にはサハリン帰国生徒に対する措置の有無等を加えることは行わなかった。
しかし、生徒数としては現時点では絶対的に少ないものの、サハリン帰国生徒の高校進学は非漢字圏ゆえのハンデもあいまって中国帰国生徒より一層困難であり、状況の改善が必要であることは言うまでもない。 4
2.調査の方法
中国帰国生徒や外国人生徒のための高校入試措置については、都道府県別に文部省(当時)のまとめた一覧「外国人生徒・中国等帰国孤児生徒のための高等学校入学者選抜における特別措置等」(平成12年7月付け) 5
があり、またその後、信濃毎日新聞(2001/1/26)で公開された山崎令による調査結果があったが、具体的な措置内容や条件が明記されていないことと、年度ごとに措置内容も改善されている可能性が高いことから最新の情報を集めるべきだと判断した。
そこで、所沢センターでは各都道府県の教育委員会に対して以下の項目について問い合わせを行った。なお、今回の調査では「帰国子女」のための措置の有無について尋ねることはせず、中国帰国生徒や外国人生徒に「海外帰国子女」のための措置が援用されている限りにおいて言及してもらう形をとった。調査期間は2001年5月~8月である。この時期、2002年度の要項はまだ発表されていないため、回答は概ねこの前年度の方針や実態に基づいて行われている。
4何らかの救済の可能性としては、日本国籍の取得・未取得により、「海外帰国子女」あるいは「外国人生徒」のための措置のある自治体ではこれらの措置あるいは措置の援用を受けるということが考えられる。現在サハリン帰国者の多くは北海道に定住しているので、まずは北海道でこうしたサハリン帰国者への支援策が採られれば、その多くが救われることにはなる。
5「平成12年度 帰国子女・外国人子女教育担当者指導主事協議会」資料より
● 調査項目 ※ 全日制、定時制ともに同じ項目について尋ねる
A 中国帰国生徒について
1.入試特別措置の有無及び措置内容
2.特別入試枠の有無及び内容(実施校数、定員、学校名、試験内容)
B 中国帰国生徒以外の外国人生徒について
1.入試特別措置の有無及び措置内容
2.特別入学枠の有無及び内容(実施校数、定員、学校名、試験内容)
C 入学後の日本語や教科の支援(補習等)の有無及び支援内容
CはA、Bとセットで考えるべき支援策である。安場(2000)でも述べたが、仮に入試の特別措置で入学できたとしても、その時点で「学習言語」としての日本語力もしっかり身につけているというような生徒はいったいどのくらいいるだろうか。多くの生徒は「学習言語」の習得が不十分なまま入学してきており、入学後の支援は不可欠である。支援が得られなければせっかく入学できたとしてもついていけずに中退してしまう可能性が高い。これでは進学を保障したとは言い難い。
D 高校編入の可能性及び編入試験内容
さらに、母国ですでに高校に進学していた生徒の場合はどうなるのか。ほとんどの場合、よくて来日後もう一度高校入試を受けて1年生からやり直しという途を選ぶしかない。それでも合格する保証はないし、運良く入学できたとしてもその後はCの項で述べたことと同じである。しかし、学習適性が高く、母国でも大学進学を目標にしてきたような生徒の場合、(特に漢字圏であれば)編入できれば自力で追い付くことができるという自負がある生徒は少なくない。そうした生徒にとっては、1年生からもう一度やり直すことは“耐え難い時間の無駄”と感じられるだろう。所沢センターの過去の事例であるが、校長に直接談判することで編入を果たし、クラスでもトップの成績にこぎ着けて大学に進んだという生徒があった。
そこで、少なくとも制度上編入が可能であるかどうかだけでも把握しておきたいと考えた。
また、これと別に、以下についても尋ねた。
E 中学編入可能な年齢の上限
これは高校入試以前の問題である。ここ数年、学齢を超過して来日した子どもたちが、母国で中学校に相当する課程を修了していないにも拘わらず、学齢超過を理由に中学校への編入を拒否される事例が問題となっている。これは子どもたちの母国の就学年齢が日本より遅かったり、その国の中でも地域によっては遅れて就学したりしているために起こることである。中国で中2在籍の生徒が16歳であるような場合は珍しくないのだが、そうした子どもが日本では教育の機会を奪われてしまいがちである。さらに、受け入れる年齢の上限も都道府県によって異なっているため、ある県では17歳でも受け入れられたのに、別の県ではだめだったということが起こっている。
この問題は子どもの教育を受ける権利に関わる深刻な問題である。改善は容易ではないが、そのための前提としてまず都道府県レベルでの方針の有無を把握しようとしたものである。実は、公立中学校は一般に市町村立であるので、市町村レベルで方針を持っているところもあるわけだが、今回は市町村単位では調査は行っていない。
以上のA〜Eの調査結果については所沢センターのホームページ(以下、HP)上での公開の可否を尋ね、可とされた情報は
http://www.kikokusha-center.or.jp/ に掲載することとした。
3.結果
本章ではインターネットを利用できない読者のために、調査の結果得られた情報を掲載するとともに、結果の示唆するところについて若干の考察を加える。なお、HPで非公開とされた措置であっても、その後の新聞報道などでメディアに公開された情報は追加した。また、HP上で公開の認められなかった情報であっても情報そのものは非公開ではないので、必要のある方は直接各都道府県の窓口に問い合わせられたい。
3-1. 入試特別措置および入試特別枠の有無
まず、措置の有無について、表1をご覧いただきたい。
表1 都道府県立高校における中国帰国生徒等のための高校入試措置等の有無 (当センターHPで公開されているもの) (2001年夏時点)
【凡例】 ○:措置や入学枠があるもの、×:措置や入学枠がないもの、
△:その他、※:非公開、 ★は文科省のウェブサイトより引用(注1に同じ)
「葡西」:ポルトガル・スペイン語
・表中の丸囲み数字は「日本語指導が必要な外国人児童生徒」数の在籍人数順位
♯ | 自治体 | 人数 | 全日制高校について | 定時制高校について | ||||||||
中国帰国生徒 | 中国帰国生徒以外の外国籍生徒 | 中国帰国生徒 | 中国帰国生徒以外の外国籍生徒 | |||||||||
中国 | 葡西 | 措置 | 枠枠 | 措置 | 枠枠 | 措置 | 枠枠 | 措置 | 枠枠 | |||
01 | 北海道 | 45 | × | × | × | × | × | × | × | × | ||
02 | 青森 | 25 | × | × | × | × | × | × | × | × | ||
03 | 岩手 | 38 | × | × | × | × | × | × | × | × | ||
04 | 宮城 | 83 | △ | × | △ | × | △ | × | △ | × | ||
05 | 秋田 | 31 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
06 | 山形 | 110 | △ | × | △ | × | × | × | × | × | ||
07 | 福島 | 104 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × | ||
08 | 茨城K | 680 | × | × | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | ||
09 | 栃木 | 463 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
10 | 群馬G | 819 | D | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × | |
11 | 埼玉F | 852 | G | F | × | × | ○ | ○ | × | × | × | × |
12 | 千葉E | 874 | E | ○ | × | ○ | ○ | ○ | × | × | × | |
13 | 東京B | 1792 | @ | ○ | ○ | × | ○ | × | × | × | × | |
14 | 神奈川A | 1902 | B | B | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ |
15 | 新潟 | 129 | × | × | × | × | × | × | × | × | ||
16 | 富山S | 172 | × | × | × | × | × | × | × | × | ||
17 | 石川 | 66 | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ||
18 | 福井 | 115 | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ||
19 | 山梨Q | 257 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
20 | 長野H | 790 | F | E | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × |
21 | 岐阜O | 461 | × | × | ○ | ○ | × | × | × | × | ||
22 | 静岡@ | 1665 | A | × | × | ○ | ○ | × | × | × | × | |
23 | 愛知@* | 2510 | C | @ | × | ○ | × | ○ | × | × | × | × |
24 | 三重I | 770 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ | × | ||
25 | 滋賀M | 619 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
26 | 京都P | 301 | G | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | × | × | |
27 | 大阪D | 1176 | A | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ | × | |
28 | 兵庫L* | 620 | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ||
29 | 奈良 | 131 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × | ||
30 | 和歌山 | 16 | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | × | × | ||
31 | 鳥取 | 15 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
32 | 島根 | 65 | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ※ | ||
33 | 岡山 | 130 | × | × | × | × | × | × | × | × | ||
34 | 広島J | 689 | D | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × | |
35 | 山口 | 55 | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | × | × | ||
36 | 徳島 | 32 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
37 | 香川 | 92 | ○ | × | × | × | ○ | × | × | × | ||
38 | 愛媛 | 26 | ○ | ※ | ○ | ※ | ○ | ※ | ○ | ※ | ||
39 | 高知 | 95 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
40 | 福岡R | 173 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
41 | 佐賀 | 18 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
42 | 長崎 | 32 | ○ | × | × | × | ○ | × | × | × | ||
43 | 熊本 | 44 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
44 | 大分 | 43 | × | × | × | × | × | × | × | × | ||
45 | 宮崎 | 21 | ○ | × | ○ | × | × | ○ | × | |||
46 | 鹿児島 | 32 | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ○ | × | ||
47 | 沖縄 | 72 | × | ○ | × | × | × | × | × | × |
* 兵庫は今回の調査では情報非公開であったが、その後の新聞報道では、2000年度の高校入試から中学校から申し出があれば、時間延長や問題にルビを付けるなどの配慮を認めている(神戸新聞、2002/10/18)。
* 長崎は2002年7月に翌年の入試より帰国・外国籍生徒の高校受験は作文と面接のみとした(長崎新聞2002/7/3)。
* 愛知は外国籍生徒のための特別枠を設置し、受験科目も減らすことを決定した。中日新聞(2001/7/26)によれば、学力検査を国数英の三教科に減らすほか、漢字にルビをふり、辞書の持ち込みを認めるといった措置を検討しており、一般入試より先に試験日を設定し、学力検査のほかに面接も行う予定。
以上を、当センターのHPにて情報公開可としている自治体の中でグループ別に集計・整理すると、以下のようになる。分母の数字は各項目についてHPで公開可とした自治体の数である。
表2 高校種別・グループ別の措置と入学枠の有無 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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これで見ると、情報を公開している42自治体の約2/3が中国帰国生徒にも外国人生徒にも何らかの措置を設けている。入学枠については特別措置よりも実施自治体が減り、設けているのは1/3程度となる。
次に、その内容はどうなっているか。措置があっても不十分であったり条件が合わなかったりすれば、救済される生徒の数は限られてしまうからである。以下に都道府県別に措置と枠の内容を挙げる。なお、定時制高校については定員との兼ね合いの問題があり、単純に制度の有無だけで支援策を語ることが難しいため、ここでは取り上げない。
表3 全日制高校の特別措置・特別入学枠の内容(2001年夏時点) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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主な措置内容は、入試については時間延長、試験問題の漢字にルビ、科目数減(理社を免除など)ないし変更(面接や作文を採用)、特別な試験問題、であった。辞書持ち込みを許可している自治体もある。この他、合否の判定時に一般の生徒と別の基準を設けているところや校長と県教委の協議により合格を決定するところもあった。
各教委の回答をそのまま掲載した表2を、表3の結果に即して修正したものを表4に掲げる。△は「条件つきで措置あり」のものである。
表4 表2を表3の記述に従って修正したもの | ||||||||||||||||
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ここで新たに○ないし△とみなしたのは、「海外帰国子女」扱いで「海外経験を配慮」すべきと規定している青森、「外国籍で帰国3年以内は外国人特別選抜で受験できる」とした茨城、「中学高校に配慮事項を通知」している埼玉、定員外で特別試験を受けられる千葉、「海外帰国子女等の特別選抜方法に準ずる」としている岐阜と岡山、もともと中国帰国生徒に対して配慮が可能と定めてあり、外国人生徒も「中国帰国生徒に準じて配慮する」とした香川の7県である。
これらを含めると、中国帰国生徒については33/42、外国人生徒については29/42と7〜8割の自治体が何らかの措置を設けていることになる。入学枠も中国帰国生徒については3自治体増えて情報公開自治体の約4割が実施という結果となった。外国人生徒についてはほとんど増加はない。
ただし、生徒の事情に応じた特別措置を認めているという程度の抽象的な通達では、実際にはその特例の恩恵に浴する生徒はほとんどいないという指摘もなされており、実態の把握にはまだ不十分である。しかし、今回はそこまで踏み込んだ調査はできなかった。
3-2. 入学後の支援の有無および高校中途編入の可能性
次に、入学後の支援の有無および高校中途編入の可能性についての調査結果を掲げる。×は「支援なし」を表す。
入学後の支援については「各校による」と回答した自治体が多く、また支援を実施する母体について問うことをしなかったため、都道府県レベルで支援を制度化しているのかどうかは把握し得ていない。その中で日系ブラジル人生徒の多い静岡の「日本語取り出し、個別補習、外国人講師による生活・学習指導、テスト問題ルビ」という具体的な記述は県レベルでの支援制度の存在を窺わせる。
また、入学後の支援については情報非公開の自治体が8と多いのも特徴的である。高校教育は義務教育ではないため、適格主義を採用するなら、その学校の要求するレベルに達しない生徒は理論上は存在しないわけで、個別の生徒への対応を制度化すること自体に困難があるためだろうか。
表5 都道府県立全日制高校入学後の支援の有無及び編入の可能性 (2001年夏時点) |
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編入については、制度としては表のとおりだが、制度はあっても定員や学力の面から現実には途中編入することはほとんど不可能とする自治体が多かった。ただし、定員割れ傾向にある定時制高校についてはこの限りではなく、現実的な可能性があると回答した自治体もあった。
3-3.定時制高校の状況
ここで定時制高校のここ数年の状況についてまとめて述べておきたい。定時制高校はここ10数年、生徒数が減少してきており、入学時点で定員割れのところもある。中退率も高く、卒業までに3割残ればよい方という声も耳にする。定員までは学力の如何に関わらず受け入れる方針の自治体の場合、生徒の学力の幅が非常に大きくなり、一斉指導を困難にしている。生徒自身、全日制に入れなかったから定時制に来ただけという生徒も少なくなく、そのような生徒の場合、学習への動機づけも難しい。
しかし、1クラスあたり、あるいは1教員あたりの生徒数が全日制に比較して少ないことは少人数教育の実現を可能にしている面もあり、定時制ならではの家庭的な雰囲気の中、きめ細かな個別化が行われている高校もある。そのため、中国帰国生徒や外国人生徒も入学することさえできれば、制度化された支援策がなくても全日制に比べれば個別化した指導を受けられる可能性がある。教師がいくら指導を個別化しようとしても学習意欲を失っていることの多い日本人生徒の多くは“乗ってこない”ことが多いが、中国帰国生徒や外国人生徒は勉強を続けたくて入学した者が多いため、動機づけが高く、教師の呼び掛けに応えようとする度合いも高い場合が多いという。
さらに、少子化の影響で学生を確保したい大学、特に私学が門戸を従来よりも広く開くように変わってきており、定時制高校からも推薦で大学に進学というケースが増えてきた。高校全体として進学への意欲が高まってきたというわけではないので、これは生徒本人の強い意志がなければできないことであるが、何とか高校に入ることができ、4年間持ちこたえることができれば高等教育の機会も以前よりは得られやすくなってきていたのである。
ところが、現在この少人数教育は押し寄せる高校教育改革の波によって過渡的な現象として消え去ろうとしている状況にある。各都道府県では改革の一環として定時制高校の統廃合が進んでおり、このままでは中国帰国生徒や外国人生徒の重要な受け入れ先であった定時制高校が次々に消えてしまいかねない。深刻かつ重大な問題であるが、これについては別の機会に改めて述べたい。 6
6定時制高校を守る会・連絡会
http://homepage3.nifty.com/save-teiji/
東京都教育庁が出した定時制高校の統廃合計画などを詳しく見ることができる。
3-4. 昼間の中学校に編入可能な年齢の上限
最後に、昼間の中学校に編入可能な年齢の上限についての調査結果を掲げる。市町村レベルで方針の決まっているところもあるので、詳しくは各市町村に問い合わせられたい。
表6 都道府県別公立中学校編入年齢についての方針(2001年夏時点) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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これを方針別に整理すると、
表7 公立中学校編入年齢についての方針(2001年夏時点) |
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都道府県レベルで柔軟な姿勢を見せているのは静岡、三重、千葉の3県だろうか。静岡は「各市町村教委が事情の許す限り弾力的に受け入れるよう努めて」おり、千葉は「相手国で中学校在籍相当なら協議して受け入れる」と表明、また、三重は「保護者と市教委、学校長の話し合いで決定」という、保護者の意向を尊重する方針を明記している唯一の県である。このように具体的に方針が決められている県ではその方針が市町村にまで及ぶことが期待される。
しかし、市町村教委の判断に委ねるとしている都道府県の中の市町村では、実際には文部省(当時)7 の通達により、学齢相当学年にのみ受け入れるという県の方針に従わざるを得ないという声が聞かれるのである。
参考までに、以下に所沢センターから送り出した子どもたちの中で義務教育年齢を超過して中学に編入が叶ったここ4年間の事例を掲げる。これらの例は中国ないしサハリン帰国者のものであるが、外国籍生徒に比べると帰国生徒に対する方がまだ門戸が広いことが多い上に、条件も年々厳しくなっているので数年前のデータはもう有効ではないかもしれないことをお断りしておく。
7「中国帰国・外国籍の児童生徒については、実年齢相当に編入学し、一時的に下学年に通級することが原則であるが、実年齢よりの下学年に編入学することも可能である」(2000年2月の当センターより文部省への問い合わせの回答による)
表8 学齢超過の所沢センター修了生の編入事例(1998-) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(※編入時2月の者は編入できてもその学年には1ケ月のみ在籍になる) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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母国での学歴に「中」がついていないのはロシアからの帰国生徒である。彼らのほとんどの編入学年が学齢相当学年よりも2年以上下げられているのは非漢字圏のハンデも考慮されたものと思われる。
なお、中学編入の叶わなかった最近の事例としては、18歳で母国では小6卒業後、すでに就業していたが来日後中学編入を希望していた例がある(この生徒の定着地では17歳までは編入可能という方針だった)。
4.考察
4-1. 現在設置されている措置の制度的な問題
1) 対象者のタイプ
1.でも述べたように、中国帰国生徒は中国籍である間は「外国人生徒」のための措置の対象となり得るが、日本国籍を取得すると、この措置が受けられなくなってしまう。中国帰国生徒のための措置のない自治体では、このような生徒は何の救済策も受けられないことになる。
中国帰国者自身、三世四世の時代を迎えて「帰国者」意識が希薄になっているのは事実だが、来日の経緯と来日以降の法的立場が他の外国人生徒と異なる以上、外国人生徒のための措置の援用ではなく、やはり独自の措置が必要ではないだろうか。
逆に、制度の有無という点では、中国帰国生徒のための策を講じている自治体の数(入試特別措置33、特別入学枠17)は外国人生徒のための措置を設けている自治体(入試特別措置29、特別入学枠14)よりもやはり多く、中国帰国生徒の方により手厚い(表4参照)。この点も、中学校では同じように日本語の習得に苦しみつつ机を並べて学んでいるのに一方には何の救済策も採られないという不公平の生じてしまう所以である。中国帰国生徒に措置がなく、外国人生徒に措置があるという逆のケースは静岡県のみである。
さらに、外国人生徒と言っても、やはり漢字圏・非漢字圏という出身文化の違いは一括りにはできない大きさである。非漢字圏の生徒の学習言語習得上のハンデは比較にならないほど大きく、たとえ措置が設けられていても、この両者に同じ措置では不公平であろう。
2) 滞日年数
中国帰国生徒のための措置にしろ外国人生徒のための措置にしろ、自治体の多くは滞日年数という制限を設けている。来日後〜年以内ないし、来日時の編入学年〜年生以上、という条件がそれである。
しかし、来日後何年以内までを措置の対象とするのが妥当であるかは簡単に判断できる問題ではない。来日時の年齢、心身の発達状況、高校入試までの年数などの要因が複雑に絡み、一律に語れることではないからである。ただ、少なくとも2、3年経って話し言葉に問題がなくなったからといって学習面の支援も不要とするのが適切ではない場合が多いことだけは指摘しておきたい。
回答を公開している自治体のすべてがこの条件に言及しているわけではないので不十分な情報であるが、言及のある自治体について、以下にその条件を掲げる。
表10 各都道府県の措置・特別枠の滞日年数の制限条項 |
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【凡例】 ×:措置なし 「なし」:滞日年数の制限なし | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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これを整理すると、
表11 各都道府県の措置・特別枠の滞日年数の制限条項:滞日期間別 |
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最頻値はどちらも「制限なし」であるが、外国人生徒向けの措置では「3年以内」が同数、中国帰国生徒向けの措置も「3年以内」が2番目に多い。3年以内というのは言い替えれば中学校1年生以上に編入されたのでなければこの措置が受けられないということである。しかし、(指導要領の大きく変わった今年度以前の状況であるが)大部分の外国人生徒が、広く指摘されているように5年生の“壁”を乗り越えられないまま中学校に進学してきていることを思うと、3年以内という条件では、措置がそれを必要とする生徒たちの多くにとって手の届かないものになってしまう。中には1〜2年以内という条件のところもあり、それも含めると中国帰国生徒向けで10自治体、外国人生徒向けで11自治体と、約1/3がこの厳しい条件を採用していることになる。
また、1.でも述べたが、逆に小学校低学年で来日し、すっかり中国語も忘れて日本語で話している子どもたちであっても、日本の学校で要求される「学習言語」の習得を促進するような家庭環境にない者が多く、その故に高校入試で振り落とされているという訴えもある。どちらの場合も、より有効な措置を自治体に要求していくためには、いわゆる「学習言語」の習得には、何歳で来日した子どもならどのくらい年月がかかるものなのか、どのような継続的支援が必要なものなのかについてのデータの蓄積が不可欠だろう。
3) 特別枠の人数
入試特別枠の場合、枠であるからには人数に制限があるが、都道府県によってはその人数では必ずしもその都道府県に在住のすべての帰国・外国人生徒をカバーすることができない。繰り返しになるが、文科省の調査結果に掲げられている人数だけが支援の必要な生徒たちではないのである。
4) 年齢制限にひっかかる場合
これは稀なケースだと信じたいが、母国で就学したのが遅く、来日して小学校に編入されるも、中学校に入った時点で学齢を超過しているからという理由で中学校進学が認められなかったケースすら耳にする。
4-2. 措置の設置に至らない自治体
まず、中国帰国生徒(引揚者子女)のための措置及び特別枠との関連で見てみると、熊本のように、かつて満蒙開拓団に多くの県民を送り出した歴史的経緯を持つ自治体では、中国帰国生徒の現在籍数が非常に多いという訳ではないが、その歴史に鑑みてか比較的手厚い措置が講じられてきている。その目で見ると、満蒙開拓団に県民を送り出した上位10位の都道府県の中で中国帰国生徒のための措置のないのは新潟のみである(ただし、これらのデータは公開可能なものとして自治体が示したものであるので、現場では柔軟な対応が行われているが明文化できない事情があるという可能性もある)。また、岐阜と岡山は措置や枠は「ない」と回答してはいるが、「帰国子女等の特別選抜方法に準ずる」と明記しており、実際にはまったく策が講じられていないわけではないと考えられる。
また、開拓団員輩出の多少に拘わらず、青森、茨城、埼玉でも、回答では「措置はない」となっていても帰国子女の特別選抜に出願が可能であるなど、何らかの策が講じられている。埼玉は首都圏に位置するため、帰国者の定住人口が多いことが促進要因として考えられる。また、同じく首都圏の千葉は「特別枠はないが、定員外での受け入れの可能性がある」と回答している。特別枠に関しては、帰国3年以内という条件つきだが、茨城も「外国人特例選抜」制度の利用が可能である。
表9 満蒙開拓団の都道府県別輩出人数(多い順に10位まで) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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なお、所沢センターを含めた各地の中国帰国者定着促進センターや自立研修センターが当初設置されていた自治体、すなわち帰国者の定住人口の多い都道府県は以下の通りであるが、これらの自治体でもすべて何らかの策が講じられている。
・定着促進センター:北海道、宮城、福島、所沢、愛知、岐阜、大阪、広島、福岡、長野分室、山形分室(2002年11月現在、所沢、大阪、福岡のみを残して全て閉所されている)
・自立研修センター:北海道、山形、福島、埼玉、千葉、東京、神奈川、長野、愛知、大阪、京都、兵庫、広島、高知、福岡、長崎、鹿児島(2002年11月現在、福島、兵庫、高知、長崎は閉所されている)
そもそも中学校での在籍人数が少数である場合、なかなか制度的な救済を求める力になりにくい。ただし、前述したが、ごく少数であれば例外的な措置が採られる可能性がある(もちろんすべての自治体がそう考えているわけではなく、これはあくまで可能性の話だが)。“ごく少数”と「制度的救済が必要と自治体がみなす一定人数」の間の在籍数の場合、取りこぼされる生徒の数の多さからみて確実に問題は大きい。
中国帰国生徒向けも外国人向けもどちらも措置のない自治体の「日本語指導の必要な児童生徒」数を見てみると北海道45、岩手38、新潟129、富山172、大分43となり、新潟と富山以外は確かに在籍数は多くはない。しかし、最も少ない自治体というわけでもないのである。ちなみに少ない方から順に挙げると、
鳥取15(○○)、和歌山16(○××)、佐賀18(○○)、宮崎21(○○)、青森25(△△)、愛媛26(○○)、秋田31(○○)、長崎(○×)、
徳島(○○)、鹿児島(○○)32
となる。(( )内はそれぞれ中国帰国生徒向け、外国人生徒向けの入試特別措置の有無)。
新潟はポルトガル・スペイン・中国語の各話者数が均等におり、まとまった数になっていないことも措置の実施に至らない理由かもしれない。しかし、富山は「日本語指導の必要な児童生徒」数が全国第20位と多く、中でもポルトガル語話者数が県の資料によれば小中合わせて141人も在籍するにも関わらず、何の措置もないため、高校進学者は全県でも10人程度しかいないのではないかと言われており、このことが問題になりつつあるという。8 このような自治体で今回の調査結果が少しでも参考にされることを願う。
なお、奈良や和歌山はそれぞれのグループごとの人数がそれほど多くないが、策が講じられてきている。関西地方は同和・人権教育の歴史的伝統のある地域であり、ニューカマーの子どもたちの進路保障についてもそれまで蓄積されていたノウハウが有効に転移されたものと考えられる。
8県内の外国人の子どもたちに対する支援者から直接得た情報。
4-3. 入試に至る前に選別されてしまっているという現実
ここまで入試の時点で措置が受けられるかどうかという基準で述べてきたが、実は“振るい落とし”は入試に至るまでにすでに行われてしまっているという現実がある。
たとえば、小学校の低中学年時に来日し、日本名を持っている生徒の場合、中国帰国にしろ外国人にしろ、中学校の教師もこの生徒の出自を知らず一般の日本人生徒と見なすだろうし、また本人も特にそれを語ろうとも思わない場合が少なくない。そのような場合、仮に措置の対象にかろうじて入る年齢であっても、子ども自身はもちろんそんな情報は持っていないし言い出しもしないだろう。この子どもが中3時点で学力面で“落ちこぼれ”だったとしても、誰も(本人も)それが外国から来日したという経歴に拠るものだとは考えない。話し言葉には一見何の問題もないからである。
また、中学生になってから来日した子の場合、話し言葉の習得も小学校低学年時に来日した子ほど容易ではない。況んや学習言語においてをやである。さらに差別やいじめなど、これらの子どもたちに学校生活を面白くないと感じさせる要素はいくらでもある。中学卒業まで持ちこたえられずに学校から離れていく子も少なくない。高校進学どころか義務教育の修了すら容易ではない状況がある。
4-4. 学校制度そのものからの疎外
以上は一度は日本の学校教育の制度下で就学した子どもの問題であるが、ここにさえ至らない子どもたちの存在がある。就学年齢にあるにも拘わらず学校に行っていない子どもたちの存在は2000年になってやっと社会問題として認識された。「外国人集住都市会議」関連報道によれば、在日外国人の子どもの3割近くが学校に通っていない(日本経済新聞2002/11/08他で報道)が、教育に対する保護者の関心の低さや学校側の受け入れ態勢のなさなどが原因とみられ、同会議は文科省などに対策強化を求めている。 9
これらは義務教育未修了で来日した学齢超過の子どもたちの中学校編入不許可と併せて、子どもたちの教育機会保障の問題として捉えるべきだろう。
学齢超過の子どもたちについては、現時点では夜間中学が唯一の受け皿であるが、夜間中学は現在一部の大都市(東京・千葉・神奈川・京都・奈良・大阪・兵庫・広島の8都府県に計35校)にしかなく、教育機会保障策としては公平には機能し得ていない。これについても現在、教育の機会保障を求める運動が展開されている。 10
5.今後の課題
上に見てきたように、進学保障策は以前に比べればよほど改善されてきたとはいえ、施策の不十分さと自治体間の格差が依然として大きな問題であり続けている。各地で支援者の声をまとめ、自治体に対して訴えかけをしていかないと改善は難しいと思われる。そのためには各地の具体的な施策とその実態についての情報の公開と共有が不可欠であるが、今回の調査では、各地の実態までは把握することができていない。実態については公開の難しいものも含まれるが、その扱いも含めて今後の課題である。 11
9同会議はブラジルなどから来日した外国人労働者やその家族が多い全国自治体の連携団体。静岡県浜松市や愛知県豊橋市、群馬県大泉町など全国の14市町が参加している。今年度、各自治体で実施した調査結果のうち比較可能な11市町のデータを総合したところ、6歳から15歳の就学対象年齢の子どもが5997人いるのに対し、不就学が1628人で27.1%に上った。三重県鈴鹿市の場合、全体の56.1%が日本の小中学校にも外国人学校にも通っていない。(以上は日本経済新聞2002/11/08による)
なお、鈴鹿市の不就学率については数値の高さに驚いたボランティアが計算方法を確認した結果、在日コリアンの子どもが含まれていたこと等が判明、再計算の結果、34%程度と割り出された。この他、外国人学校の在籍者数についても若干再調査の余地があるが、調査結果はUBJ(絆・ブラジル・日本)という日系グループによって推定されたと聞いている数値に近いものだったとのことである。
10現在、夜間中学関係者を中心に人権救済申し立て運動が展開されており、@全都道府県、A全政令指定都市、B公立夜間中学校の設立運動が行われている地域の自治体 に公立夜間中学校が開設されるよう、文部科学省が各自治体に強く働きかけることを求めている。問い合わせ先:西日本…大阪府守口市立第三中学校夜間学級:渡部尚明(06-6991-0637)、東日本…東京都世田谷区立新星中学校夜間学級 関本保孝(03-3424-5255)
11所沢センターのHP上の高校入試情報は毎年更新することを目指しており、最低限の最新情報を共有することが可能になると思われる。
【文献】※ 新聞記事等の出典は本文中に記載するのみとした
鍛治 致(2000)「中国帰国生徒と高校進学 −言語・文化・民族・階級−」、蘭信三編『中国帰国者の生活世界』、行路社。
文部省(当時)「『日本語指導が必要な外国人児童生徒の受入れ状況等に関する調査(平成13年度)』結果」
安場 淳(2000)「望まざる「飛び級」…子どもの編入学年問題を巡る事例調査報告」、『中国帰国者定着促進センター紀要』第8号所収。
【進学進路関係の資料】所沢センターHP「進学進路支援情報」コーナーにて公開中のもの(http://www.kikokusha-center.or.jp/)
・奨学金関係資料
・大学・専門学校等関係資料
・高校進学ガイダンス2001(「多文化共生教育ネットワークかながわ」にリンク)
・高校進学ガイダンス冊子(中国語・英語・ハングル・タガログ語・日本語の5カ国語:「多文化共生センター東京21」にリンク)
・大学進学案内(大学入試センター「HEART SYSTEM」にリンク)
・メーリングリスト「子どもメール」からの情報:外国人/帰国生徒のための高校入試特別措置について
・中学卒業程度認定試験について
・全国中国帰国生徒等の高校入試特別措置情報(本稿報告分を更新した2002年版)
・全国中国帰国生徒等の中学校編入関係情報(本稿報告分を更新した2002年版)
・中国引揚者特子女 特別枠のある大学HP一覧