中国・サハリン帰国者教育の相互支援ネットワーク

2013年4月5日号

編集・制作:中国帰国者定着促進センター
          教務部講師会
発行者:中国帰国者定着促進センター

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◎目次――――――――――――――――――――――――――――――――
地域情報ア・ラ・カルト
 ・「解散とは言わない」日本サハリン同胞交流協会が日本サハリン協会として再出発
 ・新事業「自立研修事業」の実施について(中国帰国者支援・交流センターから)
研修会報告
 ・「中国帰国者と家族のための介護講座」
 ・「外国人介護ワーカーの雇用と支援体制の整備〜多文化共生社会の実現にむけて〜」
教材・教育資料
 ・『にほんごこれだけ!1』『にほんごこれだけ!2』ココ出版
 ・『にほんご会話上手 聞き上手・話し上手になるコミュニケーションのコツ15』アスク出版
とん・とんインフォメーション
 ・厚労省《平成25年度中国残留邦人等支援関係予算の概要》は次号webで!
 ・ニュース記事から 2013.2.1〜3.16
その他の記事から 「介護制度、1世にも分かりやすく」
遠隔学習インフォメーション
 ・帰国者のための「日本語遠隔学習課程(通信教育)」受講者募集中!

地域情報ア・ラ・カルト

「解散とは言わない」
日本サハリン同胞交流協会が日本サハリン協会として再出発

 1989年に発足して以来、ロシア:サハリン(樺太)の残留邦人を支援し続けてきた「NPO法人 日本サハリン同胞交流協会」(以下、同胞交流協会)は今年3月でその活動を終え、2012年12月12日に新たに設立された「NPO法人 日本サハリン協会」がその意志を引き継ぎ、再出発した。
 23年間の活動で、134世帯303人を永住帰国させ、延べ3126人を一時帰国に導いた同胞交流協会は、一貫して「解散」という言葉ではなく、「運動の終了」という表現に拘り続けている。「我々も年を取った」「運動を若い世代に託す」。会長を務めた小川岟一さんの言葉がすべてを語る。
 サハリン残留邦人の「里帰りを実現させたい」との思いから始まった同胞交流協会だが、同胞を一時帰国させる手続き、更に日本、並びにロシア側の旅客船の交渉や手配など、難渋を極めたものであった。当初の目標は、3年間でサハリンで明らかになった約350名の同胞を一時帰国させて終了することだったが、3年目の予定では、最後となるはずだった第6次帰国が終了したとき、帰国団長(故人)の「一時帰国を継続してほしい」という涙の訴えや親族や関係者からの強い要望、さらに、シベリア、極東地方のハバロフスク、ウラジオストク、さらにカザフスタン、ウクライナ他でも同胞の存在が明らかになり、残留邦人の総勢はほぼ600名となった。このため、1年間の活動休止を経て、94年に一時帰国は再開される。
 この頃から、永住帰国を希望する人が出てきたため、同胞交流協会は新しい取り組みに迫られた。北海道や東京都、関係各県・市とあらかじめ相談して住宅を確保し、一時帰国させた後、永住帰国に切り替えたり、家裁に就籍申し立てをしたりと目まぐるしい毎日だった。
 その後、1998年10月より厚生労働省は一時帰国事業を同胞交流協会に委託し、サハリンでの経費も一定額支出されるようになった。さらに、2001年より永住帰国者は中国残留邦人と同様に国の援護対象となり所沢の当センターに入所し、6カ月間日本語や日本の生活習慣など、定着に向けての様々な研修を受けられるようになった。センター退所後は、帰国者本人の場合年金などが支給され(満額支給は平成20年から)、同伴帰国の2世は仕事が見つかるまでは生活保護を受けられる。また、帰国手続きの簡素化も進み、より多くの人が永住帰国できるようになった。「今後も同胞が日本に帰って本当に良かったと言えるよう、支援政策をさらに充実させていってほしい」と小川さんは言う。
 しかし、新たな課題も生まれてきている。2世の中には生活習慣や言葉等の壁で就職や適応ができず、サハリンに戻った人たちもいる。3世には、大学に進学する場合、生活保護費が支給されなくなるなど教育資金や進路の問題が立ちはだかる。今後も充分とはいえない生活保護費がさらに引き下げられようとしており、将来への不安が増している。また、永住帰国を望むサハリン残留邦人の中には、激しい戦乱の中で、出生(日本国籍)を証明できる書類などをすでに焼失している者もあり、日本への永住帰国を困難にさせている現状がある。こうした中、日本への帰国を諦め、配偶者の祖国韓国への定住を選択するケースもでてきている。韓国ではサハリンからの永住帰国者専用のアパート(家賃無料)が完備され、老齢で身体が不自由になっても療養院で暮らせるなど日本と比べ生活条件が整備されており、老後も手厚い支援を受けられる。「これでは今後も同胞の日本への永住帰国は望み薄と言わざるを得ない」。小川さんは日本の現状を憂い、早急な制度の見直しを訴える。
 こうした情況を踏まえ、「このまま支援をやめるわけにはいかない」という思いで、同胞交流協会の若い会員有志がNPO法人「日本サハリン協会」を設立した。「今もサハリンや旧ソ連各地に残る100人前後の日本人が、故国とのつながりを望んでおり、一時帰国は規模を縮小しても続けていく」と理事長の斎藤弘美さんは語る。
 戦後68年、戦争に人生を翻弄された人々の傷は未だに癒し切れていない。残留邦人とその家族が帰国し、安心して暮らしていけるよう2、3世を含めた新たなサポートが求められている。


新事業「自立研修事業」の実施について(北海道センター、首都圏センターのみ)

 平成25年3月で中国帰国者自立研修センター(東京、大阪)が閉所し、4月から中国帰国者支援・交流センター(北海道、首都圏のみ)において、地域社会での定着自立を促進するための事業として、主に中国帰国者定着促進センターでの研修を修了した帰国者の方々に対し、日本語指導及び地域の実情を踏まえた生活相談・指導、就労相談・指導等を実施します。
 今後とも、帰国者に役立つ事業の実施に努めて参りますので、何卒よろしくお願いいたします。

平成25年4月1日 
中国帰国者支援・交流センター

 

研修会報告

「中国帰国者と家族のための介護講座」

主催:中国帰国者支援・交流センター
協力:さいたま市保健福祉局福祉部 介護保険課/保護課/福祉総務課、
    見沼区健康福祉部福祉課、岩槻区健康福祉部福祉課、埼玉県介護福祉士会

 平成25年2月25日(月)、さいたま市立七里公民館で、中国帰国者を対象とした「中国帰国者と家族のための介護講座」が開催されました。
 参加者は公民館周辺の団地に住んでいる中国帰国者(60代前半から70代)とその家族33名及びケアマネージャー、地域包括センター職員、中国語の医療ネットワーク関係者等10名で、講座内容は「介護保険の利用について」及び「負担なく誰にもできる介助のコツ」でした。
 前半の「介護保険の利用について」では、さいたま市保健福祉局福祉部介護保険課の職員より、介護保険利用の流れの説明がありました。
 その後、支援・交流センター職員による「一人暮らしの帰国者1世、Sさんが、娘に勧められて介護保険の利用を思い立ってから、ケアプランが完成するまで」が寸劇で演じられました。寸劇は4つの場面で構成されており、場面@:家族で相談(Sさん宅)、場面A:介護保険の申請(役所の介護保険課で)、場面B:市の訪問調査(Sさん宅)、場面C:ケアプラン作り(Sさん宅)。劇中では中国語のナレーションや、支援相談員がケアマネージャーの通訳をする場面も組み込まれており、実際の流れが帰国者に分かりやすいように工夫されていました。
 その後、質疑が行われましたが、参加者からは、健康保険と介護保険の利用方法の違い、入院先で介護保険を使って受けられるサービスは何か、などの質問が出ました。
 後半の「負担なく誰にもできる介助のコツ」では、埼玉県介護福祉士会の方々により、起床の介助、着替え介助、車椅子への移動介助、杖の使い方、食事介助等のデモンストレーションと、参加者同士で介助の体験練習が行われました。始めは介助に慣れない参加者も次第に積極的に参加するようになり、和やかな雰囲気の中で笑顔がこぼれる会となっていました。
 今回の講座は、内容も充実しており、帰国者の方々にとってわかりやすいものであったと思います。参加したことで介護保険制度について興味を持ち、老後の不安が少しでも減ってくれればと思います。また、何よりこの講座開催が、行政担当者と帰国者をつなぐ一助となったことは、大きな成果だったと思います。

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「外国人介護ワーカーの雇用と支援体制の整備〜多文化共生社会の実現にむけて〜」
主催:一般社団法人グローバル人財サポート浜松

 平成25年2月14日(木)、浜松市福祉交流センターにて介護福祉事業者、行政担当者、多文化共生活動に携わる人などを対象に、シンポジウムが開催された。出席者は70名程。高齢化が進む日本社会において、「多様性」をキーワードに「雇用」と「人材育成」の視点から、外国人介護ワーカーについて考えていった。
 このシンポジウムは、平成24年度文化庁委嘱事業「高齢化社会を支える外国人のための日本語教育支援事業」で、はじめに、西原鈴子氏(国際交流基金日本語国際センター長)による事業報告があった。
 講演1「外国人介護ワーカーの受け入れと期待」では、田村太郎氏(ダイバーシティ研究所代表理事)より「少子高齢化の時代における福祉施設のこれからを考えると、増え続ける外国人高齢者への対応など、利用者の多様化による担い手の多様化は不可避である。外国人にとって働きやすい職場は、日本人にも働きやすい。多様な人材が働き続けられる施設は、利用者の満足度も向上する。人手が足りないから外国人を雇うのではなく、多様なスタッフがいることを施設の「強み」にしていくこともできるだろう。」との話があった。
 講演2「多様性を活かした介護サービス」では、片山ます江氏が立ち上げた「社会福祉法人伸こう福祉会」の活動がビデオで紹介された。この会の介護施設や保育園では、16カ国25人の在住外国人をスタッフとして迎えているとのこと。
 さらに、春原憲一郎氏(財団法人海外人材教育協会理事)進行によるパネルディスカッション「多文化をパワーに」では、外国人に対する介護人材の養成や、外国人ワーカーを雇用している施設の話を聞くことができた。寸劇で、雇用者と外国人ワーカーのやりとりを通して異文化摩擦の対応や問題解決をしていく場面も、楽しくわかりやすかった。
 今回の講座では、介護福祉施設等で「多様性」を受け入れることにより、現場が活性化する可能性を示していた。外国人との共生は、職場の日常業務を見直し、職場を発展的に変えていくチャンスではないだろうか。

教材・教育資料

『にほんごこれだけ!1』1050円(税込)B5判 95頁 発行:2010年5月
『にほんごこれだけ!2』1260円(税込)B5判 103頁 発行:2011年9月
      監修:庵功雄 ココ出版

 地域のボランティア日本語教室で、日々学習支援活動を続けていらっしゃる皆さんに、教材の紹介です。最近は、学習者とボランティアがおしゃべりを楽しみながら、交流を通して日本語学習を進めるスタイルが広がっており、このNLでも教科書を紹介してきました(39号『日本語おしゃべりのたね』、31号『にほんご宝船』)。今回紹介する『にほんごこれだけ!』も、おしゃべりのための材料とアイディアを提供するというコンセプトで作られていますが、全く日本語が話せない「ゼロ初級」の人でもおしゃべりできるというのが、セールスポイントの一つです。文法事項は最低限におさえ、トピックごとにおしゃべりする中で隠れた文型を学んでいくことを目指していて、この精選された文型は訳付き(英中韓ポ)で付録の下敷きにまとめられています。イラストも多用されているので、日本語ゼロの人とでも、何とかおしゃべりできるのではないでしょうか。また、以下のサイトでは、このテキストを使って実際に活動しているところを、動画で見ることができます。
 [にほんごこれだけ!]サポートサイト http://www.cocopb.com/koredake/

 よくない活動例も紹介されているので、ボランティア初心者の方には参考になると思います。

■トピック例
  『にほんごこれだけ!1』
    おなかがすきました/わたしのプロフィール/わたしのいちにち/まちのじょうほういろいろ…等
  『にほんごこれだけ!2』
    りょこう/しょうらいのゆめ/やすみのひ/りそうのひと…等

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『にほんご会話上手 聞き上手・話し上手になるコミュニケーションのコツ15』
  岩田夏穂 初鹿野阿れ著 アスク出版 2012年8月発行 1890円(税込)
   本冊149頁 別冊21頁 B5判 英・中・韓の翻訳付 MP3形式CD-ROM付

 「文法はしっかり学習したのにコミュニケーションとなるとどうも…」という学習者は少なくありません。この本は初級の学習を一通り終わった学習者が日本語の日常会話の展開の特徴を意識しながら、主体的にやり取りに関わっていけるようになるヒントを提示しています。「上手な会話」とは、相手の話をよく聞いて、それに対して適切な返事をしながら話を進めることですが、この本では相手の状況を考えて、会話の流れをどう作っていったらよいのかという観点から、練習を進めています。
 本に登場するのは大学生や留学生、就職したばかりの会社員で、全体を通して若者らしいくだけた話しことばのやり取りになっているのが特徴的です。教室の授業にも自学自習にも使えます。
 全体の構成は、PART0 話しことばの特徴、PART1 話を始める、PART2 話を続ける、PART3 話を変える、PART4 話を終わらせる から成っています。
 例えばPART1 話を始める では「あいさつのあとは?」「新しいものを紹介したいときは?」「体験談をおもしろく話すには?」「頼んだり、誘ったりするときは?」「言いにくい話のときは?」のユニットで形成されています。※詳しくはアスク出版のHP
 それぞれのユニットでは最初に「よくある困った会話」が漫画で示され、母語ではやりとりをどうしているか自分の会話を振り返り、解決のための「こつと表現」を学習します。次にCDを聞いてポイントを聞き取る練習、いろいろな場面での会話練習と続きます。
 会話の流れを理解し、上手な会話ができるようになるための重要な表現などを紹介するコラム「+α」も興味深いです。

 

とん・とんインフォメーション

厚労省

《平成25年度中国残留邦人等支援関係予算の概要》は次号webで!

毎年お知らせしていた《平成25年度中国残留邦人等支援関係予算の概要》は、次回のweb版(6月配信予定)でお知らせします。

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ニュース記事から 2013.2.1〜3.16

2013/03/16 残留孤児の手紙4万通余、山本慈昭さんの遺族らが4月25日開館の「満蒙開拓平和記念館」に寄贈/長野

その他の記事から 「介護制度、1世にも分かりやすく」

 日本人でも分かりにくい介護制度。残留孤児らは文化や言葉の違いから制度を理解しにくい。1世が高齢化する中で、どのような介護を受けているのかは行政も調査していない。実態を調べ、1世らに分かりやすく制度内容を伝える方法などを検討すべきだ。介護施設で中国語が通じないため、施設を敬遠する人もいる。孤児らのニーズに合わせた施設整備も課題だ。
「NPO中国帰国者の会」(東京都文京区)事務局長、加藤文子さんの話
  2013/3/1 毎日新聞

 

遠隔学習インフォメーション

帰国者のための「日本語遠隔学習課程(通信教育)」受講者募集中!

 2013年度上半期の募集要項ができました。帰国者の皆さんと支援者の皆さんにお送りします。
 「遠隔学習課程」は2001年11月に開設され、12年目に入りますが、受講者の中には、開設当初から10年以上、ずっと学習を続けていらっしゃる方もいます。受講中の帰国者の滞日年数を見てみると、0〜10年が約30%、11〜20年が約40%、21〜30年が25%、30年以上が5%です。滞日10年以上が7割を占めています。いかに、帰国者の日本語学習ニーズが長期的に続くものかがわかると思います。年代も17才から83才までと幅広く、日本語学習は、文字通りの生涯学習となっています。開設12年目、「遠隔学習課程」は、長く続く帰国者の日本語学習のパートナーとして定着しつつあります。とはいえ、まだまだ「遠隔学習課程」を知らない方も多くいらっしゃいます。支援者の皆さんにも、周囲の帰国者の方々に紹介し、応募の相談等に乗っていただけましたら幸いです。
 以下、コース修了時のアンケートから1世世代の方の受講の感想をご紹介します。

 また、今後学習したいコースの希望として、以下のような意見もありました。
 「晩年になった帰国者にとって、日本語の勉強は越えられない一本の深い溝のようだ。自然の変化は、決心とスローガンで変えることはできない。年寄りの日本語の勉強は、話すよりも相手の言葉の意味を理解したり、新聞、雑誌が読めることが大事だと思う。言葉の意味がわかれば面倒や悩みが少なくなり,視野も広くなる。ですから、新聞、雑誌が読めるようになるコースを開いてください」
 帰国者の学習ニーズは、年代、ライフステージによって様々です。このような1世世代のニーズにも、答えていけたらと思います。

 

お知らせ

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