中国・サハリン帰国者教育の相互支援ネットワーク

2012年02月24日号

編集・制作:中国帰国者定着促進センター
          教務部講師会
発行者:中国帰国者定着促進センター

《同声・同気》はこれまでWEB版として年に3回発行していましたが、本号からは随時発行していきます。

今号を印刷してお読みになりたい方は、こちらのPDFをご利用ください。2012年02月24日号PDF

<目次>

地域情報ア・ラ・カルト
 ・「支援・相談員」の現場から(その2)

教材・教育資料
 ・『外国人児童生徒のための支援ガイドブック―子どもたちのライフコースによりそって―』
 ・日中対訳育児用語集:『子育ての日本語』、『子育ての日本語U(健診)』

研修会報告
 ・平成23年度 支援・相談員や自立支援通訳のための 医療通訳研修会開催!

とん・とんインフォメーション
 ・多言語による高校進学進路ガイドブック
 ・日本語を母語としない子どものための進路ガイダンス2012主催者交流会in千葉
 ・ニュース記事から 2011.06.02〜2012.02.20

地域情報ア・ラ・カルト

「支援・相談員」の現場から(その2)

Cさん
 中国・四国 地方都市 所属:県(2008年度〜)3市1町9世帯を担当
 教育委員会の「学校生活支援員」を兼務

1.日頃の活動:

 平日は教育委員会関係の仕事で、中国から帰ってきた子どもの生活支援・通訳として小学校に勤め、土日祝祭日に帰国者本人・関係機関からの依頼で支援・相談員としての業務をおこなっています。緊急時には、即現場にかけつけています。主に、男性の単身者を担当しています。

2.帰国者の最近の様子と相談内容:

 支援給付が始まって以後、帰国後生活保護を受けないで就職して頑張った方々も「生活が安定した。日本に帰ってよかった」「帰るべき所に帰った」との声が聞かれるようになりました。しかし、日本語の習得が困難な方、日本の生活にどうしてもなじめない方は、今も多くの複雑な悩みを抱え、生活をしておられます。
 最近あったことですが、「携帯電話が故障して3年間使っていないのに基本料金を預金から引かれた」と訴えた人や、市内(路面)電車に乗り、料金を支払うように言われ「自分は中国から帰国した老大爺だ。けしからん」と訴えた人がいました。
 これらは極端な例ですが、最近私が感じるのは、若い時期には日本の文化習慣に合わせながら生活してきた人も高齢になり、中国で長い間に身につけた考え方や生活のあり方が表面に出てきているのではないかと思うことがあります。特に一人住まいの男性はこの点、深刻です。
 この他、最近よくある一世からの相談は、自分亡き後の二世・三世の生活のことです。「息子が40歳過ぎても結婚しない」「仕事はまじめにしているが、会社が不況で倒産しそうだ」「息子が働かない。日本語を勉強しない。生活保護を受けているが、日本も景気がよくない。将来どうなるか心配」の声を耳にします。私の家にもよく話しに来ますので共に食事をしながら、共に考えるようにしています。

3.今後の問題と相談員としての悩み:

 帰国者一世の中には、帰国後配偶者を亡くしたり、離婚したり、共に帰国した子供たちも結婚して遠くの地へ行き、別居している方もおられます。まさに現代日本のうつし絵の状況です。
 “孤独”の声は多くの男性の方々から聞かれます。「二世・三世との同居ができないか」と私も周りの方々からよく言われますが、男性の場合はいろいろと問題があり、同居が難しいのが現状です。また、一人住まいの男性帰国者から「茶飲み友達を紹介してほしい」との相談をよく受けますが、これも難しい問題です。それから、一世の介護・入院への対応は“待ったなし”ですので、私たち支援・相談員としても迅速な対応を心がけたいと思います。
 もう一つは、自費帰国者・呼び寄せ家族への対応です。自費帰国者は生活意欲旺盛で帰国後すぐ就職し、安定した生活を送っていましたが、最近は、定年・企業のリストラにより失業し生活保護に移行しております。共働き夫婦も一方が失業するとたちまち家庭が困窮し、夫婦間がぎくしゃくしているとの相談もよく受けております。自費帰国者への支援体制の拡大はとても大切なことと考えています。
 最後に、帰国者の中には、いろいろとたくさんの仲よしグループができています。これはとてもいいことですが、中国にいた頃の生活環境の違いイコール付き合える相手、付き合えない相手となることは寂しいことです。共に中国で苦労した仲間です。「みなさん、仲よくいたしましょう!」私たち支援・相談員からのお願いです。

所沢センターより

 支援・相談員の派遣のされ方もいろいろですね。やはり、個人の家を訪問するわけですから、相談員と帰国者のマッチングは自治体も苦労されるところでしょう。今回の相談員の方は、男性帰国者、特に一人住まいの高齢者を担当されることが多いとのこと。その高齢帰国者に関して興味深い指摘があります。第二言語学習者が、高齢になると第一言語(母語)に戻っていくという話はよく言われるところですが、生活様式も考え方も戻っていくという点です。逆に言えば、帰国者の方々は、それまでの日本生活で入郷随俗を胸に、日本の生活習慣に我慢しながら合わせて生きていたとも言えますね。もちろん、帰国者の方々は中国での生活様式も様々です。今回ご報告いただいた事例は、たまたま対応されたその中のごく一部の例だと思います。しかし、一人住まいとなった男性帰国者の方々は日本語の問題やプライドの問題等で周囲と関係を持っていくことは難しい場合もあるでしょう。特に間に入る二・三世も近くにいないとすると、そのような帰国者を一人にしない方策を考える必要があります。
 また、相談員は、予測もしない事態への対応や異文化間の調整という難しい役割を担わざるを得ないこともよくわかりました。

教材・教育資料

『外国人児童生徒のための支援ガイドブック―子どもたちのライフコースによりそって―

2011年6月、齋藤ひろみ編著、今澤悌・内田紀子・花島健司著、凡人社、B5判191頁、本体2,000円+税

 日本国内で生活する外国人児童生徒は、インドシナ難民・中国残留孤児・日系南米人のように地域的に特別な背景を持って来日した子どもたちもいますが、日本生まれ日本育ちの子や国際結婚家庭やいくつもの国を移動するケースなども増え、実に多様化してきています。そうした児童生徒の日本語教育は、成人の日本語教育とも、海外の小中学校における外国語教育としての日本語教育とも異なる側面があり、難しさを痛感している支援者も多いかもしれません。子どもたちの学習環境づくりをどう支援していくか、という疑問に対して、さまざまな示唆を与えてくれるのが本書です。
 本書第1部では、5人の青年が登場します。中国帰国者の3世として8歳で来日した王さん、ブラジル人の両親とともに4歳で来日したカルロスさん、ベトナム人(インドシナ難民)の子として日本で生まれたグエンさん、エジプト人の父親の留学に伴い10歳で来日したサミーラさん、日本で働いていたフィリピン人の母親が日本人男性と再婚したため10歳で呼び寄せられたグロリアさん。彼ら彼女らはみな架空の人物ですが、著者が実際に接した子どもや聞いた話に基づいて、来日してから20歳前後になるまでの「ライフコース」を描写しています。その上で、彼ら彼女らが成長・発達の過程で遭遇する文化摩擦・友人関係・学習にまつわる出来事を「エピソード」として詳しく取り上げています。一つ一つのエピソードでは、本人を含む当事者の心の声を紹介してそれぞれの視点の違いを浮き彫りにしたり、解決のヒントとなる背景知識やエピソードの後日談なども付け加えたりして、理解が深まるように工夫してあります。
 続く第2部では、こうした子どもたちの日本語学習の場をデザインする方法について、その考え方や具体例などをまとめています。彼ら彼女らの「これまで(幼年期〜少年期)→今→これから(少年期〜青年期、それ以降)」という縦軸(時間軸)と「出身国・地域→日本→定住または帰国」という横軸(空間軸)の両軸において学びの連続性を保障する教育が必要で、そのためには第1部で見たようなライフコースを念頭に置いた「全人教育としての日本語教育」が求められます。来日時の年齢と滞日期間、背景の言語と文化、発達段階、来日前の教科学習経験、基礎的学力、日本語の力、在籍学級での学習参加状況、家庭の言語・学習環境、将来の見通しなどを多角的に把握した上で、個々人の多様性に応じた教育内容・方法を考えることになります。
 第1部のエピソード群は、支援者や外国人保護者だけでなく、学校の先生方や一般の日本人保護者らにも広く知っておいてもらいたい内容を含んでいます。また、子どもの日本語教育のコース設計や実際の教室活動などに携わる人には、第2部の具体的な記述も大いに参考になるはずです。ぜひご一読ください。

日中対訳育児用語集:『子育ての日本語』、『子育ての日本語U(健診)』

 『子育ての日本語・育儿日语』 2010年3月発行 A5判 71ページ 頒価700円
 『子育ての日本語U(健診)・育儿日语U(体检)』 2011年3月発行 A5版 54ページ 頒価700円
 にほんごサポートひまわり会 編

 「子どもがいると、保育所や病院、日本のお母さんとのつきあい、子どもへの話しかけなど、いろいろな場面で日本語が必要です。中には辞書に載っていない言葉もあって、たいへんです」「乳幼児健診の時の特有な言葉がわかりにくい」といった外国から来たお母さんたちの声に応えて、にほんごサポートひまわり会から『子育ての日本語』『子育ての日本語U(健診)』が発行されました。
 『子育ての日本語』は、子育てでよく使う言葉を集め、日本語と中国語の対訳にしたもので、あいさつ、家族、食事、服装、日常生活、遊び、友だち、感情・性格、励ます・ほめる、赤ちゃん、保育所・幼稚園、病気、薬と注射、けが、安全、交通、街で、祝日と年中行事など様々な場面ごとに簡単な発話例や語彙集にまとめられています。また、巻末には付録として年月日・曜日・期間、時間・時刻、主な量詞・単位、親族呼称、アルファベットなどの言い方も紹介されています。
 『子育ての日本語U(健診)』は、乳幼児健診の際によく使われる言葉や問診票に出てくる言葉などを集めて、日中対訳にしたものです。基本的な用語、妊娠中のこと、出産時のこと、お母さん・養育者、新生児、栄養・便、病気・けが、成長・発達、目・耳・歯、予防接種などの項目について簡単な発話例や語彙集にまとめられています。
 なお、同会では外国にルーツを持つ子どもたちに大人はどう関わっていけばいいのか、その事例をまとめた『外国から来た子どもを地域で支える(全五集)』も出しています。(本紙NL38号で紹介)

 

購入等連絡先
 にほんごサポートひまわり会  斎藤裕子
 電話:090-6676-5839
 e-mail:himawarij1511(a)gmail.com
 http://www.himawarikai200311.org/

 

研修会報告

平成23年度 支援・相談員や自立支援通訳のための 医療通訳研修会開催!

 昨年11月1日に、中国帰国者支援・交流センター主催のもと、支援・相談員や自立支援通訳のための、「第2回平成23年度医療通訳研修会」が開催されました。報告では「ようやく2回目を終えたこの研修会は、経験年数の異なる先輩、後輩が一堂に会して、助け合い学びあいながら今後の1年の目標を立てる場のように見えます。また来年、さらに技量アップした姿で集まっていただきたいと願っています。」と結んでいます。
 中国帰国者支援・交流センターホームページトップの首都圏→交流情報より、研修会報告がご覧いただけます。
 http://www.sien-center.or.jp/participation/consultation/syutoken/index.html

とん・とんインフォメーション

多言語による高校進学進路ガイドブック

 全国各地で高校進学ガイダンスは例年、初夏から始まります。来日して何年も経っていない子どもたちや保護者がガイダンスに参加する前にガイドブックを読み、これから目指す日本の高校について事前に知ることは重要です。また、これからガイダンスを企画される支援者の方にも、参考になると思われます。

★宮城県(仙台市)
日本語を母語としない子どもと親のための進路ガイダンス実行委員会http://shinro-miyagi.jimdo.com/
『進路ガイドブック宮城』2011年度版 英・中・韓・タガログ・日
ダウンロード、郵送可(送料は必要)

★埼玉県 
埼玉県国際交流協会 
『平成23年度ガイダンスパンフレット』http://www.sia1.jp/guidance/guidance11.html
英・スペイン・ポルトガル・中・タガログ・ベトナム・日
ダウンロード可

★東京都
日本語を母語としない親子のための高校進学ガイダンス実行委員会
『進学ガイダンスガイドブック2011年度 東京版』http://www.tokyoguidance.com/guidance.html
中、韓・朝鮮、英、タガログ、スペイン、タイの対訳版
購入可

★神奈川県
2012年度入学希望者用『公立高校入学のためのガイドブック」
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f6923/
英、中、スペイン、ポルトガル、韓・朝鮮、タガログ、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム翻訳版
ダウンロード可

★滋賀県
滋賀県国際協会
『未来のための進路ガイダンス2011年度版』http://www.s-i-a.or.jp/gaikokuseki/mirai/index.htm
日・英・ポルトガル・スペイン・中
ダウンロード可

★静岡県(浜松市)
浜松NPOネットワークセンター http://www.n-pocket.jp/
『高校進路ガイドブック静岡県版』2012年度
日、ポルトガル、スペイン、英、タガログ、中
ダウンロード可


日本語を母語としない子どものための進路ガイダンス2012主催者交流会in千葉

 当センターではホームページ・ニューズレターで毎年各地の「高校進学進路ガイダンス情報」を集めて紹介していますが、各地でこの進学進路ガイダンスを開いている主催者が一堂に会して報告や意見交換を行う交流会が、2012年1月15日(日)に浦安市国際センターで行われました。今回で11回目になるこの交流会には、浜松、神奈川、東京、埼玉、茨城、仙台、千葉からの7都県(市)から37名が参加しました。

進学ガイダンス主催者交流会
 http://www.tim.hi-ho.ne.jp/meri-/sg/index.htm


ニュース記事から 2011.06.02〜2012.02.20
2011/06/09 高齢化する永住帰国した残留邦人、道内初の生活実態調査 北海道中国帰国者支援・交流センター/札幌
2011/06/15 中国残留孤児未認定(物的証拠や証言者が乏しく認定されない)の徐士蘭さん、ボランティアの助けを得て一時帰国
2011/06/18 中国帰国者の生活安定を求め「中国帰国者の尊厳を回復する岡山の会」発足/岡山
2011/08/07 旧満蒙開拓の慰霊碑撤去 建立から10日余り/中国・方正県
2011/08/08 日本語指導必要な外国人児童生徒は2万8511人/文部科学省調査
2011/10/12 中国残留孤児、新たに1人認定 杜春泉さん
2011/11/03 浜口タカシさん、中国残留日本人孤児の訪日調査記録写真等を援護基金に寄贈/横浜
2011/11/06 5日、「中国残留邦人等への理解を深めるシンポジウム」開催/厚労省、広島
2011/11/09 8日、「外国人集住都市会議」開催。外国人に対する施策の推進を求める/飯田市
2011/11/29 中国残留孤児、杜春泉さんが一時帰国。肉親捜しの訪日調査は2年ぶり
2011/12/21 中国帰国者の墓碑完成 18日開眼式/仙台
2012/01/06 5日、元中国残留孤児問題全国協議会会長の庵谷磐氏死去/東京
2012/02/02 満蒙開拓平和祈念館事業準備会主催、満蒙開拓団の歴史を語り継ぐ連続講座開始/飯田市

 

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