HOME > 支援情報 > 機関紙「同声同気」 > 第44号(2009年1月23日発行)  PDFファイル
地域情報ア・ラ・カルト 中野区国際交流協会
行政・施策
 厚生労働省から
  平成20年度に新たに確認された中国残留日本人孤児の集団一時帰国及び対面調査について
 援護基金から
  中国残留邦人への理解を深めるシンポジウム開催
  平成21年度 奨学生募集
研修会情報
 研修会報告
  多文化協働実践研究 全国フォーラム第2回
  多文化共生教育研究会 第27回定例研究会
 研修会情報
  異文化間教育学会 第30回大会
  第2回 国際教育センターフォーラム
  第1回「つなぐ」シンポジウム
教材・教育資料
 『しごとの日本語−ビジネスマナー編−』
 情報誌『ひだまり』
 『外国語学習の科学 第二言語習得論とは何か』
 『新「ことば」シリーズ21 私たちと敬語』
 かながわ国際交流財団《あーすぷらざ》教材・教育資料 ダウンロードリスト
とん・とんインフォメーション
 『二つの国の狭間で−中国残留邦人聞き書き集 第2集−』
 神戸中国帰国者日本語教育ボランティア協会他『20周年記念誌』
 『現代中国の社会と福祉』
 『サハリンに生きた朝鮮人−ディアスポラ・私の回想記−』
 遙かなる絆:『あの戦争を遠く離れて』テレビドラマ化決定!
ニュース記事から 2008.09.11〜2009.01.10
遠隔学習インフォメーション
 報告:2008年度スクーリング講師研修会
 応募者状況
 修了アンケートより
 今年度開講の《自己表現作文『日本語』コース》近況
事例紹介 日本語学習の目的

地域情報ア・ラ・カルト

定住・永住の児童・生徒への日本語支援 〜中野区国際交流協会〜

 12月15日火曜日の午後、同協会の日本語クラスを見学した。教室は、JR中野駅から歩いて7分ほどの「なかのZERO西館」にこの12月に移転したばかり。この日は午後2時からの大人クラスと午後4時15分からの子供クラスの2クラスを見学させていただいたのだが、どちらのクラスも教室は学習者とボランティアで一杯だった。大人クラスはこれでも「今日は非常に少ない」とのことで、日頃の盛況ぶりがうかがえる。同協会の大人対象の日本語クラスについては以前NL28号でも一部紹介したが、今回は、今年で8年目になるという子ども対象の日本語支援について詳しくお話を伺った。
 中野区国際交流協会の支援の特徴の一つは、いわゆる“指導員制度”の活用の仕方だろう。子ども達への初期の支援がまだ必要な段階で打ち切られる例をよく耳にするが、中野区では原則週6時間、計120時間(最大192時間)まで支援が受けられる。これは、教育委員会が行っている日本語適応教室通訳派遣事業の、予算上は計30時間(最大48時間)の枠を最大限に柔軟活用した結果である。支援の内容に関しても、「通訳」と「日本語指導」の支援を子どもの状況に応じて柔軟に組み合わせ、一人一人にあわせた支援プログラムを専門員がコーディネイトしているという。進学や転校を機に子どもに関する情報の伝達が途切れてしまい、支援に問題が生じる点については、以前から指摘されているが、中野区では、子どもに関する情報が同協会に集まってくることで、情報の共有化が進み、学校間の連携がうまくいきはじめているとのことだった。
 もう一つの特徴は、提供できる学習支援総時間数の長さだろう。上記の派遣指導に加えて協会で実施している子どもクラス(学期中及び春・夏休み)に通学することができれば、小中学生ともに初期段階で400時間は確保することができるという。平日のクラスは、小学生は放課後だけだが、中学生は、学校長の特別な認可があれば、放課後に加えて一般向けの午前クラスにも学校出席扱いで参加できるので、約6カ月で400時間確保できる。日常会話だけではなく、学校の授業に参加し高校受験につながる力をつけるためには、さらに、将来を拓く日本語を獲得するためには、これだけの時間が必要だということを内外にアピールすることには大変大きな意味がある。
 専門員の中山真理子さんのお話では、現在のようなシステムにたどり着くまでの道のりは長かったという。とにかくまず支援の実績を作り、何か困ったら国際交流協会に頼むとよい″という雰囲気が学校の先生たちの間に少しずつ浸透していき、同協会と教委との連携・協働が進んできたとのことである。支援の現場には、それぞれの事情があり、ある現場でうまくいったことがそのまま他の現場で使えるとは限らないが、ある現場の工夫が他の地域での参考になり、支援の現場が少しずつ改善されていくことを願う。

(小川)

行政・施策

☆厚生労働省から

●平成20年度に新たに確認された中国残留日本人孤児の集団一時帰国及び対面調査について

 平成20年度は、日中両国政府による共同調査において、新たに日本人孤児と確認された3名の方々が昨年11月17日から11月28日までの12日間、集団一時帰国として来日し、永住帰国に向けたオリエンテーション、小学校の訪問、中国帰国者定着促進センターや中国帰国者支援・交流センター及びハローワークの見学など諸行事に参加しました。
 この間、報道機関、都道府県等の協力により、「秦永珍」さんが、11月19日に厚生労働省において対面調査を行った結果、北海道在住の方の親族であることが確認され、山形県出身の「高橋定子」さんであることが判明しました。
 厚生労働省としては、今までに身元が判明していないすべての孤児の方々を含め、引き続き肉親捜しに努めてまいりますので、皆様の一層のご協力をお願いします。

☆援護基金から

〈中国残留邦人への理解を深めるシンポジウム〉福岡・長野・東京にて開催!

 中国残留孤児援護基金では、厚生労働省の委託を受け、戦争を知らない世代を含む多くの国民の皆様方に、中国残留邦人問題について少しでも知っていただくことを目的として、上記シンポジウムを下記日時場所において開催いたします。
 今回は、残留邦人の戦中・戦後の体験、現在の生活状況や日本への思いを広く市民に伝える体験発表を行います。また、会場により歌、演奏、演劇などのアトラクションも加わります。
 入場無料ですので、皆様お誘い合わせのうえご参加ください。

【福岡】日時:1月25日(日)14:00〜17:30 会場:都久志会館
 ※ 劇団道化による『吉林食堂』の上演があります
 問合せ:劇団道化 TEL 092-922-9738 FAX 092-922-9812 HP http://www.douke.co.jp/

【長野】日時:2月1日(日)10:00〜15:00 会場:サンパルテ山王
 ※ 陽二蓮さん(東京中国歌舞団)による中国音楽の歌と演奏があります
 問合せ:長野県日中友好協会 TEL 026-224-6517 FAX 026-224-6518
 HP http://www.avis.ne.jp/~nihao/

【東京】日時:3月1日(日)13:30〜17:00 会場:よみうりホール
 ※ 山根基世元NHKアナウンサーによる絵本『金のひしゃく』の朗読、由紀さおりさんによる日本のうた、Bloomによる中国の歌のミニコンサートがあります
 問合せ:中国残留孤児援護基金 TEL 03-3501-1050 FAX 03-3501-1026
 HP http://www.engokikin.or.jp/

平成21年度 奨学生募集

申請書類は平成21年2月13日までに必着のこと。
問い合わせは当基金まで

(財)中国残留孤児援護基金
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1−5−8 オフィス虎ノ門1ビル7階
TEL:03-3501-1050、FAX:03-3501-1026
※ 詳しくは http://www.engokikin.or.jp/

研修会情報

☆研修会報告

「多文化協働実践研究全国フォーラム(第2回)」

主催:東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター 開催日:11月28日〜30日

東京外国語大学で開催された上記フォーラムから2つの分科会について紹介します。

分科会(1) 在日ブラジル人児童向け教材開発プロジェクトの成果と今後の展望
 この教材は、三井物産が協賛し、東京外語大を中心としたチームが開発したもので、『トゥカーノ教材』と呼ばれ、すでに算数教材と漢字教材(小1〜3)が作られています。当日は、バイリンガル教師による、ブラジルの小学校での算数の授業のデモンストレーションが行われ、同じ算数の計算であっても、国によって考え方ややり方が違っており、そこが、日本で学ぶ外国人児童生徒の理解の妨げになり得ることが紹介されました。トゥカーノ算数教材は、算数の計算をスモールステップ化し、簡単な日本語で計算のプロセスを言語化しながら、数の概念や計算の力をつけていくことが目指されています。また、算数の考え方を親しみやすいイラストで視覚的に捉えることができるよう工夫されています。さらに、その子のできないところから学習を始めることができ、算数の学習が躓きがちな外国につながる児童への指導に非常に役立つ教材であると感じました。
 すでに、ポルトガル語版とフィリピノ語版が作成され、下記のホームページから自由にダウンロードすることができるようになっています。

〈教材のダウンロード先〉東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター ホームページ
在日ブラジル人児童のための教材 http://www.tufs.ac.jp/common/mlmc/kyouzai/brazil/
在日フィリピン児童のための教材 http://www.tufs.ac.jp/common/mlmc/kyouzai/philippines/

分科会(6) 外国につながる子どもたちの教育を地域から育む試み
 支援する子どもの情報を地域と学校が共有する試みについての川崎市の実践報告とともに、学校・地域・行政が“協働”していくための課題について話を聞くことができました。日本語指導の必要な子どもたちの中には、母学級や校内の日本語教室だけではなく、地域の教育センターや教室などにも通っている場合が少なくありません。しかし、子どもたちの様子や支援の情況等、それぞれの場が持っている情報が支援者間で共有できているとはとても言えない現状ではないでしょうか。川崎市では、こうした子どもたちへ支援を、散在する「点」から「線」、そして「面」へと広げるべく、「サポートノート」を用いる試みをスタートさせています。このノートには、子どもたちの生活環境、本人や保護者・学校側 それぞれの希望や思い、指導に関わる連絡など多岐に渡る情報が載せられています。この個人情報をどのように保護・管理していくのか、どう記述していくことが効果的なのか等の検討を経て、平成21年度からの本格的実施を目指しているとのことでした。
 続いて、実際に学校内で共用ファイルを使用している浜松市立瑞穂小学校からの報告がありました。瑞穂小には、外国籍児童および外国につながる児童が多く、そのためさまざまな立場の人々がサポートに入っています。このファイルは、そうした支援者間の情報共有を目的として作られました。子どもへの視点は支援者によりさまざまです。このファイルを通じ情報を共有することで、多様な視点からニーズが捉え直され、新しい支援へとつながっていったというケースが紹介されました。他にも、川崎市での行政(児童相談所、市役所など)との連携についての報告があり、子どもたちの周りの多くの大人がそれぞれの専門性を生かしてつながっていくことの必要性を実感した会となりました。

(齋藤・荻野)

「多文化共生教育研究会」:第27回定例研究会 参加報告

 昨年12月14日に上記研究会が東京で開かれました。この日は文科省の初等中等教育局国際教育課の担当官による、文科省の外国人児童生徒受け入れの構想についての講演があるということで、参加者数はいつもの3倍だったそうです。講演では、「初等中等教育における外国人児童生徒教育の充実のための検討会」の報告書に基づき、「5カ年計画で国、地方公共団体、企業などの関係者が取り組むべき施策の基本的かつ具体的な方向性」について紹介されました。

 講演後に行われた質疑応答のやりとりのうち、主なものを報告します:
◇ 外国人は定住といずれ帰国のどちらの前提で施策を考えているか? →両方あり得る。
◇ (報告書でははっきりとは触れられていない)年齢と編入学年の関係について、文科省から年齢主義の原則を以前より厳格に適用するように指導されたと受け入れ校は言うが? →そういう事実はない。方針は以前と変わらず、「学齢通りの学年に在籍が原則で、必要ならば下の学年に通級するも可、また、どうしても難しければ校長判断で下の学年に編入するといった対応が可能である。また学齢超過者については、未修了で定員に余裕がある場合受け入れ可」という方針である。
日本語学級の設置基準・要領がばらばらで、期間の短すぎる規定の自治体もある。全国の実施要領を集めて検討すればガイドラインができるはず。 →検討する
日本語担当教員の採用…日本語科というものがないため、他教科で採用試験を受けざるを得ない。採用されたとしても子どもの増減次第で身分も不安定。何とかならないか →身分については教科の位置づけにならないと難しいが、そのこと自体が難しい。環境とか道徳科はどうなのかという問題もある。教員養成課程の大学の専攻でも必修単位になっていない。 ←このこと自体も問題である

 この他に提起された問題としては、
拠点校方式…拠点校では教員の負担が大きいのと、学力テストの平均点が外国人の子どもが多いほど下がるので、日本の児童生徒が拠点校を避けるようになり、生徒数減という現象が起きつつある。
学力テスト…前述の拠点校との絡みの問題の他に、配慮のある自治体ではルビや翻訳、時間延長などの対応をした上で受けさせている。逆に点数が下がるから受けさせない、あるいはほったらかしで受けさせてただ点数が低いまま、というところとが混在している などがありました。

 全体での討議時間に出たのは、
子どもの日本語能力の評価道具として適当なものがない。「JSLバンドスケール」(NL38号参照)も使いにくい」という声に対して、何もないよりいい/簡便なのが助かる/完璧な指標というものはないものだが使えるものは使っていいのでは、そして改善アイディアを作成元に返していけばよいのでは、などの意見が出されました。
日本語指導を何時間ぐらいやったらどのレベルまでいくかについての各現場の実感を教えてほしい、との要望が出され、各現場から報告がありました。比較的時間数の多いところから出された例は、

  1. 週6時×30週=180時間の1年で公文(くもん)の長文読解の小6レベルをクリアすることを目標としている。

  2. 編入前に集中して午前3時×5日×4週×3ヶ月=180時間の後、午後の取り出しに移行。この方が効率的と区に訴えて認められる。お客様で教室に座っている苦痛の時間を少しでも少なくしてやることが大事。半年で一般生徒と同じところまでいけるし、できるだけ早く一般生徒と同じ教科書を使わせたい。日本語ができるようになってから学科に移るのではなく、半年で教科と平行してやっていく。一年で国語のテスト60点ぐらいとれるようになる子もいる。

  3. 3ヶ月で150時、これで先輩が後輩に教えるまでになる。『にほんごをまなぼう』を漢字表記に直して使っている。150時の後は放課後の2コマ学科指導。寺子屋方式で生徒が生徒を教えるのがよい。中卒で入試半年前に来日した生徒には1ヶ月は日本語指導のみ、それから学科+日記を書かせて音読させる。発音重視。

  4. 東京都は70時間しか認めていないし、区によっては40時しか認められていないといったことが報告されました。

    (安)

☆研修会情報

●異文化間教育学会 第30回大会

日時:2009年5月30日(土)、31日(日)
会場:東京学芸大学で開催の予定
*詳細は同学会HP参照

●第2回 国際教育センターフォーラム

文化間移動をする子ども〜異文化間教育研究の最前線〜
主催:東京学芸大学 国際教育センター
日時:2009年3月7日(土)13:20〜16:30
会場:中野サンプラザ 8階 研究室2
*詳細は同センターHP Eventコーナー参照

●第1回「つなぐ」シンポジウム

テーマ:多文化の子どもをつなぐ「場」づくりをめざして―学校から、地域から、学びの協働へ―
主催:東京学芸大学 国際教育センター及び東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター
日時:2009年3月28日(土)13:00〜17:00
場所:東京学芸大学国際教育センター(合同棟)1階大教室
*詳細は東京学芸大学 国際教育センターHP Eventコーナー参照

教材・教育資料

『しごとの日本語 −ビジネスマナー編−』

2008年10月、釜渕優子著、アルク、135頁、本体2,000円+税

 日本のマナーを知らないことで、知らないうちに損をしたり印象が悪くなったりすることもあります。そうならないように知識として知っておいたほうがいい「身だしなみ」、「話し方」などの日本の一般的なマナーや、「接客・訪問」、「電話対応」などのビジネスマナーがまとめられています。また、「携帯電話のマナー」や「ビジネスEメール」など、現在の社会を反映したものも取り上げられています。
 本書の特徴は、イラストが豊富で説明が簡潔なことです。本文内の説明文には中国語の翻訳がついています。

『外国語学習の科学 第二言語習得論とは何か』

2008年9月、白井恭弘著、岩波新書、188頁、本体700円+税

 日本では(近年は小学校にも導入されつつありますが)中学・高校・大学で英語を勉強させられます。そのほかにも留学したり仕事での必要に迫られたり趣味で始めたりして、外国語を学ぶ人は少なくありません。そんな中で、外国語がすぐにうまくなる人もいれば、なかなか上達しない人もいます。なぜでしょうか。
 子どもが母語を習得する「第一言語習得」と大人が外国語を習得する「第二言語習得」は同じではないという立場から、後者のメカニズムを科学的に解明して外国語を効率よく習得する方法を考える学問・研究が1960年代に始まりました。まだ発展途上の学問ですが、この40年の間に蓄積された研究成果を紹介しながら、理論の全体像を概観しているのが本書です。
 内容はよく整理されていて、専門知識を持っていない人にも読みやすく書かれています。特に、最新の知見に基づく効果的な外国語学習法を示唆していますので、外国語を学ぶ人にとっても、また日本語学習を支援する人にとっても、有益な一冊と言えるでしょう。

情報誌『ひだまり』

(財)国際文化フォーラム発行 http://www.tjf.or.jp/

 『ひだまり』は、中国の中等教育の日本語教師、日本語学習者向けの情報誌として、1999年に創刊されました。年4回発行され、中国の中学、高校、中等専業学校、職業高校を含む中等教育のすべての学校に無料で送付されています。
 誌面は、現場日本語教師の声、日本語についての質問や日本語の表現を紹介するコーナー、また、文化理解と言語学習を統合した学習素材の提供とそれを活用するためのヒント、日本の中高生の学校生活紹介、日本語教育関連情報などで構成されており、日本国内においても、児童・生徒や青年たちを対象とした日本語学習支援の現場で様々に利用できるものとなっています。同誌は 日/中版とも同フォーラムのウェブサイトで閲覧できます。(上記HP「定期刊行物」のコーナー)
 同フォーラムのウェブサイトでは、同誌の掲載以外にも、日本の中高校生や、日本の文化・社会事情に関する情報を提供しています。日本語の授業で活用できる情報を掲載しているサイトを紹介しているコーナーも便利です。

『新「ことば」シリーズ21 私たちと敬語』

国立国語研究所編集、本体476円+税
 『新「ことば」シリーズ』は、国立国語研究所が毎年編集・発行している本です。このシリーズは世の中で関心の高い言葉の問題を取り上げ、専門家による分かりやすい解説を加えた一般向けの本です。今回は、平成19(2007)年2月に文化審議会より「敬語の指針」が答申されたことを受けて、「私たちと敬語」というテーマで編集されました。
 敬語は言語生活を円滑に営む上で不可欠なものです。しかし敬語の使用は私たち日本人にとっても難しさを伴います。この本では、敬語の難しい点、間違えやすい敬語、地域や時代による使い方の違いや変化などについて、『巻頭エッセイ』、『座談会』、『ことばの質問箱』で話題を提供しながら解説しています。また巻末には文化審議会答申の「敬語の指針」(抄)を載せています。私たち学習支援者が「敬語」について再考する一助となる一冊であると思います。

かながわ国際交流財団《あーすぷらざ》子ども支援コーナー教材・教育資料【ダウンロードリスト】

 上記財団が運営する神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)では、2F情報フォーラム内の「多文化子ども支援コーナー」で、外国人児童生徒などの教育支援に役立つ多言語資料を収集しています。資料は施設内にて無料で閲覧することができます。また、遠方からの問い合わせに対応するため、コーナーにある資料のうち、インターネット上でダウンロードできる教材や教育資料を集めた「ダウンロードリスト」も開設されています。紹介されている資料は、各地で作成された学校文書の翻訳版や、進路ガイド、教科学習補助教材や日本語テキストなど多岐にわたっており、以下のURLの「ダウンロード資料」から行くことができます(pdfファイル)。リストは、英語・中国語・ポルトガル語・韓国語・スペイン語・タガログ語・ヴェトナム語・タイ語の言語別に構成されています。
http://www.k-i-a.or.jp/plaza/shisetsu/forum/t-kodomo/index.html

とんとんインフォメーション

『二つの国の狭間で −中国残留邦人聞き書き集 第2集−』

(A4判243頁・参考資料付き)刊行のお知らせ

 中国帰国者支援・交流センター(首都圏センター)ではこのたび上記聞き書き集を刊行しました。これは平成17年3月に刊行した第1集の続編となるもので、新たに10人の中国残留邦人の方々の貴重な体験談を紹介しています。なお、この聞き書き集は今後も順次刊行する予定です。
 ご希望の方は下記までお問い合わせください。在庫の範囲で無償で提供いたします。

中国帰国者支援・交流センター
住所:〒110-0015 東京都台東区東上野1-2-13 カーニープレイス新御徒町6階
電話:03-5807-3171 FAX:03-5807-3174 担当:黒川、伊知地

神戸中国帰国者日本語教育ボランティア協会 神戸市外国語大学日本語学習を助ける会『20周年記念誌』

2008年、20周年記念誌編集委員会、A4判、135頁

 本誌は、上記協会と神戸市外国語大学のサークル活動団体である「日本語学習を助ける会」が設立されてから20年が経ったことを記念して発行された。
構成は、同 協会/会 を立ち上げた第一世代による記録「創設時のことなど」、学習者の声をまとめた「わいわいしゃべろう!『学習者の広場』」、学習者の話の中から生まれた楽しい中国料理レシピ、帰国から自立までの歩みをまとめた学習者の手記、ボランティアや遠隔学習スクーリング講師による体験記、教室活動や教材の工夫を紹介している「楽しい教室活動」「教材の工夫」、帰国者が旧満州時代を振り返った回想録などからなっている。本誌は、ボランティア団体と帰国者、両者の20年の歩みの記録としてだけではなく、日本語学習支援を含めたボランティア活動に携わろうとする人にとっての参考資料としても役立つものであろうと思われる。

★同誌の入手方法:はがきか下記のメールアドレスに住所・氏名・部数を連絡すれば、記念誌と銀行の振込用紙が送られてきます 1部1000円で1部の場合の送料は80円
・はがきの送り先:〒651-2103 神戸市西区学園西町1丁目 1-1ユニティ内 神戸中国帰国者日本語教育ボランティア協会 
・メールアドレス:yokocho@hi-net.zaq.ne.jp
※振込み手数料は同じ銀行からの場合無料

同 協会/会 の活動については本紙36号で紹介していますが、同 協会/会 発行のニューズレター『日本語教育ボランティアニュース』(2008年夏号)によれば、現在、2008年4月から施行されている「中国残留邦人等に対する新たな支援策」の〈身近な地域での日本語教育支援事業〉に神戸市が名乗りを上げたことから、市の事業として、孤児たちの「日本語再学習」が実現し、同 協会/会 がこれを運営しているとのことでした。

『現代中国の社会と福祉』

2008年3月、王文亮 編著、ミネルバ書房、A5判211頁、本体2,500円+税

 近年目覚しい発展を遂げつつある中国に関する書物は多数出版されています。また、テレビ等でも各種の報道が頻繁にされています。しかし、そのほとんどは中国経済に関するもの、中国国内における都市部と農村部の経済格差に関するもの、中国と日本の文化差異を紹介するもの等です。その中にあって本書は普段私たちが知ることの難しい「現代中国の社会状況と福祉」をテーマにとり上げています。
 本書は1章から11章に分かれ、格差社会是正のための政策転換、障害児・者、高齢者の生活状況、高まる一方の教育熱、その一方で拡大している教育機会の不平等、年金や健康保険制度の現状、ますます豪華になる結婚式をはじめとする中国人のライフスタイルの変容、その一方で、貧困から抜け出す糸口が全く見出せない農民工の人々等。さまざまな現状を、社会保障や福祉政策の観点から分析し、真の中国の姿を描き出しています。
 世界的な金融不況の影響を受けて、好調だった中国経済にも陰りが見える等、刻一刻と変貌を遂げている中国の実情を考えると、採録されているデータは必ずしも最新のものとは言えませんが、「現代中国の社会と福祉」を知るためには大変有用なものとなっています。日々帰国者と接している私たちもあらためて知ることが多い一冊でした。

『サハリンに生きた朝鮮人 −ディアスポラ・私の回想記−』

2008年1月、李炳律(リビョンリュル)著、北海道新聞社、B5判350頁、本体2,100円+税

 労作というにふさわしい本である。本書の元となった原稿は1985年から2005年までの20年にかけて書き溜められ、作家李恢成氏が手にしたときには665頁4キロの原稿であったという。サハリンの朝鮮人に関する類書は、『沿海州・サハリン近い昔の話―翻弄された朝鮮人の歴史』(A・クージン著 凱風社 1998年)、『サハリンの韓国人はなぜ帰れなかったのか―帰還運動にかけたある夫婦の四十年』(新井佐和子著 草思社 1997年)などがあるが、本書では、日本時代、ソ連時代、ソ連崩壊後のサハリンを生き抜いた著者の80年の人生の軌跡を通じて、当時の状況が活写され、社会体制の変化がサハリンの朝鮮人に与えた影響を如実に知ることができる。1929年から暮らした東柵丹(トマノボ)で農業に従事し、その後ソ連時代に現地の炭鉱で旋盤工、溶接工などとして働いたこと。「先住民」としてのサハリン朝鮮人を指導しようとする大陸(ソ連国内)から来た朝鮮人との軋轢。日本人との関係、ロシア人との関係等々、冷静な筆致で、しっかりした日本語で書かれた内容に興味は尽きない。工藤正廣氏の後書きにもある通り、これは「一人の人間が、民族の運命をも確かに体現し映しつつ、時代の支配体制を生きのびる物語」である。
目次:第1部 日本編(「日本の樺太」に生きる/垣間見たソ連/戦争の時代に/ソ連参戦、戦場となる ほか)/第2部 ソ連・ロシア編(「ソ連のサハリン」に生きる/朝鮮戦争の頃/ソ連公民―共産党員になる/それぞれの故国 ほか)
 巻末に編集部作成によるサハリン残留韓国・朝鮮人問題関連年表が添えられている。

遙かなる絆:『あの戦争を遠く離れて』テレビドラマ化決定!

 本紙40号で紹介した、残留孤児2世である城戸久枝著『あの戦争から遠く離れて』(2007年9月刊 情報センター出版局)がNHKの土曜ドラマ(土曜日9:00〜10:00)として放送されます。現在中国と日本で撮影が進行中。日にちは未定ですが、4月から全6回で放送される予定です。
 城戸さん役は 鈴木杏さん、お父様役は 加藤健一さんの予定!

ニュース記事から

ニュース記事から 2008.09.11〜2009.01.10

2008/10/05 残留孤児問題終わっていない:神奈川中国帰国者福祉援護協会 シンポジウムで課題討議/横浜 孤児100人が参加
2008/11/07 残留孤児の子孫を中心としたマフィア大偉グループの幹部逮捕 傷害事件で
2008/11/17 今年度認定された残留孤児3人 一時帰国
2008/11/19 一時帰国の残留孤児 秦永珍さんは山形県の高橋定子さんと判明
2008/11/28 一時帰国の残留孤児3人が離日
2008/12/05 改正国籍法が成立:日本人と外国人の間に生まれた子 父親認知で未婚の子に日本籍
2008/12/08 残留孤児訴訟:神戸地裁判決2周年 兵庫の会14日尼崎で集会
2009/01/05 法務・総務省 法案骨子まとめる 外国人登録証明証を廃止し「在留カード」へ 特別永住者には新身分証

遠隔学習インフォメーション

◆ 報告:2008年度スクーリング講師研修会(11/18-19、於 所沢市民文化センターミューズ)

 遠隔学習課程では、全国各地で学習する帰国者を地元でサポートするため、都道府県(中国帰国者支援・交流センターのあるところは支援・交流センター)に委託して、受講者の居住地で月に1、2回スクーリングを行っています。そのスクーリングを担当する講師を対象に今年は「複式指導のスクーリング」というテーマで研修会を行いました。
 受講しているコースが異なる、また同じコースでも日本語力や学習進度の異なる複数の受講者を一緒に指導することが多いスクーリングの現場で、どのようにすれば個々の受講者の状況にあった指導ができるのか、そこに主眼をおき研修が進められました。
 1日目は、まず、学校教育の例などを紹介しながら、遠隔学習課程のスクーリングにおける「複式指導」の考え方を紹介しました。その後15名程度のグループに分かれ、授業計画案を見ながら、実際に行われた複式スクーリングの記録ビデオを見ました。後半は事例を設定し、4、5名の小グループで複式指導のスクーリング計画について話し合い、グループ毎に計画案を作成しました。
 2日目は前日に作った計画案を元に複式スクーリングを立案する時のポイントについて意見交換を行いました。「一人にかける時間配分は適当か/受講者の目標に合った内容の『直接指導・間接指導※』が組まれているか/『直接指導・間接指導』に流れやつながりがあるか/自学自習技術の習得を促す活動が組まれているか/間接指導の課題は受講者に合った量・方法で計画されているか」等について考えました。
 これらの活動を通して、“個々の受講者の学習に伴走する”というスクーリングの基本的なあり方を再確認するとともに、複数の受講者を指導する場合に有効な「複式指導」の手法について考える機会を持つことができたと思います。

※間接指導:講師が受講者に課題を示し、直接対面しないで行う指導。学習の達成度・定着度の自己チェックや習熟・応用練習、自学自習の技術練習など、受講者は一人で行える学習をする。

◆応募者状況:

 現在(2008.12)も受講待機者が多数いる状態が続いています。何とか年度内にはこの情況を解消し、2009年度上期の募集を例年通り実施できるよう、現在、あらゆる方面で受け入れ拡充策を検討し、体制作りをしているところです。次期の募集時期が決定し次第、2009年度上期の募集要項を作成し帰国者世帯および関係者に送付することになりますが、2009年2月末には、当センターホームページ上で、募集時期についてお知らせできると思いますので、支援者の皆様はそちらをご覧ください。

◆修了アンケートより:

 センターでは、遠隔学習課程の各コース修了者にアンケートをお願いしており、遠隔課程開設から2008年7月まで1837件の回答が寄せられています。今回はその集計結果から主なものを紹介します。

 修了までにかかった期間については、6ヶ月(17%)が最も多く、12ヶ月(12%)、7ヶ月(11%)、5ヶ月(10%)、8ヶ月(9%)の順となっています。標準学習期間が6ヶ月と設定されているためその前後に修了している学生が多くなっています。12ヶ月が多いのは6ヶ月で学習が修了できなかった場合に、もう6ヶ月の継続学習が設定されているためだと思われます。学習期間の長さについては、83%が「ちょうど良い」と回答しています。各コースの課題の提出間隔や難度も、ほぼ半数が「ちょうど良い」との回答。
 また、遠隔学習課程をどこで知ったかとの問いには、54%が支援・交流センターからの案内、13%が友人から、自立研修センター等からが8%、帰国者向けのニューズレター『天天好日』が7%となっています。
 遠隔学習を取った理由については。59%が「日本語教室が遠くて通えないから」、ついで19%が「体調が悪く日本語教室に通えないから」、13%が「仕事や生活が忙しく教室に通えないから」との回答でした。学習に際して54%は何らかの手助けをしてくれる人がいました。その内訳は25%がスクーリング講師、次いで子や孫が20%、配偶者18%、自立研修センター講師10%となっています。その一方46%は手助けしてくれる人がいないとなっています。そのためか遠隔学習に困難を感じている学生は38%おり、感じている困難は、分からないことを尋ねる人がいない、自学自習の意欲を保つことの難しさ、高齢のため覚えられない、生活や仕事が忙しくなかなか学習できない、発音を矯正してくれる人がいない、会話練習ができない、CDが聞き取れない、実際に使う機会がないので忘れてしまう、教材の中身と実生活がかけ離れている等となっています。
 今後希望する支援については、直接質問できる機会、定期的なクラス、会話の相手、電話での質問、励まし等で、スクーリングに参加できない学生が少なくないことが伺えます。遠隔学習課程が役立ったかとの問いには「大変役に立った」、「役に立った」を合わせると94%が役立ったと答えており、私たちの励みになるものでした。今後も遠隔学習が帰国者の皆さんの役に立つよう努力していきたいと思います。

今年度開講の《自己表現作文『日本語』コース》近況:

 2008年3月にこのコースが開講してから10ヶ月がたちました。このコースは、日本語学習体験についてのモデル作文を読むことを通して自分の作文のヒントとなるものを学び、センターの担当者と郵便でやりとりをしながら、最終的に自分自身の日本語学習体験についての作文をまとめあげることを目的としています。現在までの受講者は約70名(1世世代は約40名)、今号の《事例》コーナー(12頁)では、このコースを2008年3月から取り始めて10月に修了した新潟県の立野加津子さん(68歳)の作文を紹介しています。

事例紹介

 帰国者一世である立野さんは、帰国以来、様々な困難に出会い、悩み、それを乗り越えながら、その間もずっと日本語学習を続けてこられました。2003年からは〈遠隔学習課程〉の受講を継続して現在に至っています。今号では、昨年3月に開講した遠隔学習課程「自己表現作文『日本語』コース」を受講した立野さんの修了作文をご紹介します。
 最近、日々の暮らしの中に「楽しみ」を作ることを大事にするようになったとおっしゃる立野さん。作文からは、そんな立野さんとご主人が、夫婦仲良く暮らしていらっしゃる様子もうかがえます。(立野さんの作文は、本紙と中国帰国者支援・交流センターの情報誌『天天好日』、両方に掲載しています。)

「日本語学習の目的」 立野 加津子

 時は川の流れのように知らず知らずに経っていき、日本へ帰ってもうすぐ11年になります。私の両親は日本人です。中国で生まれた私は、戦後から日本へ帰るまで60年間かかりました。ずっと中国で暮らしていました。小学校、中学校、高校までの12年間の学生時代、そして仕事を33年間しました。色々ありましたが、学校の友だちや同僚との関係も良く、日本人ということで苛められることもなく、みんな親切で、幸せでした。
 1998年に帰国しました。自分の国に帰ってから、こんなに大変だとは思ってもいませんでした。中国で「他郷に流離う者の落ち着き先は、結局その故郷に戻る」という諺があります。私もその通りだと思います。しかし、日本人として生まれましたが半生を外国で暮らし、年を取って帰国した私は日本の何から何まで全然わかりませんでした。言葉も分かりませんし、毎日寂しくて苦しかったです。どうしてこんな思いをするのかといえば、やはり日本語ができないからです。地域に根付くための日本語を勉強しなければなりません。それで私と主人は日本語の勉強を始めることにしました。
 私たちは年をとり、勉強したことを次の日にはほとんど忘れてしまいます。私が住んでいるところは週1回の「日本語講座」だけしかありませんでした。それだけでは私の日本語を上達させるのには不十分でした。毎日独学を続け、深夜まで勉強しましたが、進歩がありませんでした。そんな日々の中、気ばかりが焦りました。自信もなくなり落ち込みました。その時私たちを助けてくれたのは中国帰国者支援・交流センターでした。2002年9月新潟市へ引っ越して来ました。10月、中国帰国者支援・交流センターのH先生が新潟にいらっしゃいました。その時先生が「遠隔学習課程」のことを教えてくださいました。そして、2003年2月から私と主人は「遠隔学習課程」を始めました。私たちは年をとり、記憶力は日に日に衰えています。若者より時間は何十倍もかかります。私は「拙鳥は先に飛び立つ」を座右の銘として、できる限り頑張りました。この勉強で日本語で話すこともできるようになり、何でも自分でやっています。主人を連れて病院にも行きます。会話能力も向上しました。今も学習を続けています。完璧とは言えませんが、修了した課程は11種類になります。取っていないコースはあと1種類です。この11年間ずっと日本語を勉強してきました。10年10カ月の学習を思い返すと、感慨無量です。
 日本語を勉強するために中国のテレビも付けていませんでした。しかし、主人も年をとり、日本語も出来ないので毎日寂しそうに見えます。今までの状態を続けるのは主人がかわいそうだと思い、今年7月中国のテレビを付けました。今は健康のために楽しむこと、頑張ることを心掛けています。これからも日本社会で生きていくために、日本語との付き合いは続きます。次はパソコンを勉強するつもりです。新時代に落ちこぼれないように頑張ります。