HOME > 支援情報 > 機関紙「同声同気」 > 第19号(2000年9月20日発行)  PDFファイル
巻頭言孤児世代帰国者は定着地で何を思う
こんなところ・あんなところ・どんなところ
東北地方そのC ― 福島県 ―
地域情報 ア・ラ・カルト
行政・施策
研修会
教材・教育資料
とん・とん インフォメーション
事例紹介
 こどものための土曜スクール/夢と努力と…

巻頭言

孤児世代帰国者は定着地で何を思う

 現在、所沢センターでは、退所した孤児世代帰国者(配偶者含む)に対して、アンケート調査を実施している。目的は、定着地の高齢帰国者に合った、或いは必要な「学習機会」を考えるためだ。このようなアンケートにしてはきわめて回収率が高い。その理由として、就職している人が少ないので時間的に余裕があること、また、比較的最近(帰国2年以上5年以内)の修了生に絞ったことが、センターの記憶も新しく返信の動機を高くする要因になったと思われる。しかし、何よりも大きな理由は、「訴えたい」という強い思いのようだ。
 経済的な窮状、中国へ残してきた養父母親戚への思い、そして、閉ざされた現在の生活、孤独・寂寞感、日本語という乗り越えられない障壁、「日本人」になれない自分、周囲からも「一日本人」と認めてもらえないという不全感、そして子ども家族の予想以上の忙しさ、それにより家族間のコミュニケーションが思ったようにいかないことに対する不満等、まだ回収の過程であるが、多くの人が同じ訴えを繰り返している。もちろん全員がその様なマイナス状態にあるわけではない。60歳を過ぎて中国での経験を生かし、鍼灸師の資格を取り、将来は自分で治療院を開業することを計画している人等、日本での生活基盤を作り自己実現している人もいる。しかし、このような人たちが少数派であることは確かである。
 孤児世代の帰国者は今、「母なる祖国」である日本の懐に戻ったつもりが、予想以上の様々な「壁」にぶつかり疎外感を感じている人が多い。実質的に引退生活を送る人が多い孤児世代の帰国者は、日本社会の中での帰属先を得にくい。日本人にとって老後の主な帰属先となる地域社会も、高齢帰国者にとっては、そこに住んでいながら、入って行きたくても行けない「遠い」存在となっている。高齢帰国者の将来を考える時、地域社会への参加、住民とのコミュニケーションの体験を通して「コミュニティ」の一員であるという感覚が持てることは大切だろう。それが、高齢帰国者が自分自身の存在感をとり戻すきっかけにもなりうる。
 「老後」問題は、日本に住み続けてきた人間にとっても大きな社会的課題である。帰国者の老後の問題を解決していくことは、それ以上に複雑かつ難しいことだろう。しかし、様々なハンディを抱え、閉塞感を抱える高齢帰国者が、日本に帰国したこと、そして自らの人生を肯定的に捉えられるような受け入れ社会作りを考えることは、私たちが早急に取り組むべき課題である。

こんなところ・あんなところ・どんなところ?

東北地方そのC ― 福島県 ―

T.中国帰国者の概要と県の単独事業

 今までに、福島県に定着した帰国者は182世帯、呼び寄せの家族を含めると約600名になりますが、近年、国費で福島県に定着する帰国者の数は年々減少しています。定着先市町村としては、郡山市、福島市がほとんどです。
 帰国者のための県の単独事業としては、いわき市の文化センターで毎週月・金(10:00〜12:00)日本語教室を開いていて、現在3名が勉強しています。また、国費の永住帰国者に対して見舞金等にかわる生活援助として生活必需品の現物支給を行っています。

U.福島県中国帰国者自立研修センター

 福島県は中国帰国者が一日も早く地域社会に定着し自立できるよう、平成7年8月に福島県中国帰国者自立研修センターを開設し、管理運営を中国帰国者自立支援協会に委託して5年が経過しました。現在、8世帯17名が通所学習中です。国費帰国者を中心に呼び寄せ2世世帯等も受け入れています。8ヶ月間の学習修了者は、老齢・病弱の人を除いてそれぞれ就職し、自立生活を送っています。

@日本語指導
 月曜日から金曜日までと第1・3・5土曜日の午前9:00〜11:50、初・中級の2クラスで学習しています。

A再研修
 現在仕事をしている帰国者を対象に、毎週日曜日(午後1:00〜3:00)仕事に必要な会話を学習するコースを開き、
初級Tと初級Uの2つのクラスに分かれて学習しています。
受講者はT・U合わせて26名です。また毎週日曜日の午前中(10:00〜12:30)には、
運転免許取得のための学科補習のコース(NL14号で紹介)もあります。
こちらの受講者は14名で、両コースとも研修期間は1年間です。

B生活指導・相談
 週2回日本事情について講義を行っています。また、日常生活の上で生じた問題について
2名の生活指導員(日本語指導も兼務)が、随時相談に応じています。医療や住宅関係の相談が多いです。

C就労指導・相談
 郡山市の職業安定所の特別部門指導官を招き、年1〜2回の講話や年2〜3回の企業見学研修を行っています。

D地域住民との交流会
 センター主催行事としては、地元の農家から招待を受けてもちつき大会を行ったり、県内の名所旧跡に小旅行に出かけたりして、
一般の日本人とのふれあいの場を作っています。また、郡山市の日中友好協会郡山支部と協力して、
郡山市内の美術館や消防署、市清掃センター(ゴミ処理施設)の見学等を行っています。

★再研修の現場から

 大阪YWCA

 大阪YWCAでは、1996年の秋から帰国者の再研修クラスを開講し、私は1998年の春期から現在まで講師をしています。私が担当をはじめたころの学習者は3名で全員が女性でした。それから少しずつ学習者が増え、現在は3クラス21名が和気あいあいと勉強しています。
 当初の学習者3名のうち1名は体調不良が原因で来られなくなってしまいましたが、あとの2名は2年の再研修期間を無事に修了し、50代のUさんは地域の方に頼まれて帰国直後の方のために通訳をしたり、中国語を教えたりして元気に活躍しているようです。また20代のCさんは職業訓練校に合格し、卒業後は就職して現在も時々、再研修クラスに顔を出してくれます。
 再研修クラスをスタートしてしばらくは、なかなか学習者が増えず、思い悩んだこともありました。そんなとき教務担当の方が、「だいじょうぶ!一人でも、このクラスは続けますから。」と言ってくれました。この言葉が私たちの心の支えとなり、もっともっと学習者に必要だと思ってもらえるような授業をしたいと、試行錯誤を繰り返してきました。そして少しずつ継続生が増え、少人数ながら第1期生を送り出すことができ、日本の社会、そして地域に根をおろしていくのを見られるのはとても幸せなことだと感じています。
 2000年秋期からは初級前半クラス、初級後半クラス、中級クラスに分けて各クラス週に2回、6時半から8時半まで勉強しています。学習者は20代から30代で、ほとんどが仕事を持っており、男女比は各クラス平均すると半々ぐらいです。
 初級クラスは『みんなの日本語T・U』をベースに、文法の正確さよりもコミュニケーションできる力、そしてコミュニケーションをとろうとする意欲を身につけることを目標にしています。
 学習が進むにつれて、クラスメートや教師を笑わせるような面白い文を作ったり、意味のある発話をしようとしたりする意欲が出てきて、積極性のある楽しいクラスになっています。
 中級クラスは『朝日新聞・読者の声』を使って文法項目や読解力の増強、トピックに対する意見述べ等を行い、また聴解練習や日本語能力試験2級の問題で知識の確認などもしています。今の日本で話題になっていることや、それに対する一般的な日本人の考え方を知りたいという学習者の要望も取り入れたコースです。
 授業以外には、約3ヶ月1クールの授業が終わるごとに学習者・講師・教務が参加して、日本語でおしゃべりする茶話会を開いたり、今年の春は本研修のクラスと合同で家族と一緒に淡路花博へバス遠足に行ったりと、息抜きができる機会もつくりました。
 「中国では1ヶ月仕事を休むのも大丈夫!朝からビールを飲むのも大丈夫。(笑)でも日本の仕事は本当に厳しい…。」と、クラスに来るために他の曜日は毎日残業しているNさんが言いました。慣れない新しい環境の中で働き、疲れているにもかかわらず続けて通う学生たちは、日本語の上達だけではなく他の何かを求めてクラスに来ているのではないかと思います。同じような環境でがんばるクラスメートや、じっくり彼らの話に耳をかたむける教師と語らうときの彼らの表情を見て、少しでも日本社会で生活するストレスや不安などが軽減されるようにと願い、しっかり目標はもちながらもノルマや達成度に振り回されることなく、学習者がリラックスして学びたいことを学べるコースにできるように努力していきたいと思っています。

(再研修クラス担当:永晶子)

★地域でのとりくみ

 『藤ノ木コミュニティハウス』―京都向島団地−

 「日本語教室を開きたい」、『藤ノ木コミュニティハウス』の活動は、団地主婦達のこうした声から始まりました。京都伏見区向島の公営団地には多くの中国帰国者・定住外国人が住んでいますが、主婦達は彼らが言葉や習慣の違いから地域にうまく馴染めないでいるのを見て、向島で日本語教室を開きたいと強く思ったといいます。そこで地元伏見のNPO「多文化共生センターきょうと」と協力して、昨年11月から毎週土曜日に向島藤ノ木小学校で受講者50名(ほとんどが帰国者)、日本語教師10名、ボランティア5名で日本語教室を始めました。
 教室では日本語を学ぶ他に、地域の人達との交流を重視してこれまでに交流イベントを開いたり、地域の消防署に来てもらって中国語による防災訓練などを実施したりしてきました。しかし、教室の存在によって交流は次第に進んでいるものの、団地内ではまだまだささいな摩擦が多く生じていました。そこで、地域の人にももっとコミュニケーションをとってほしいと願い、中国語教室(毎週土曜日)を開き、更に今年の8月からは互いの文化・習慣や地域のルール等を学び合う地域理解教室(毎月1回)を開くことにしました。これは双方が一つの場所で輪になって話し合うことで、理解を深め合うのが目的です。
 今後は従来の活動に加えて、地元の小・中・高校、大学の国際理解教育にも定住外国人との交流を積極的に働きかけていこうと考えています。また、帰国者・定住外国人の中には家に引きこもりがちで精神的ケアが必要な方もいるようですので、料理教室や中国語教室等を開き、彼ら自身が積極的に地域社会で活動できる力をつけるための活動や、「医療相談会」等も展開していこうと考えています。

 『藤ノ木コミュニティハウス』は、地域全体が互いに理解し合えるきっかけをつくる場となることを目指して活動しています。

問い合わせ先:多文化共生センターきょうと
〒612-8152
   京都市伏見区瀬戸物町732ピックドワン1F
TEL  :075-604-5625
E-mail:cmia-k@mbox.kyoto-inet.or.jp
重野亜久里(藤ノ木コミュニティハウス中国関係コミュニティ担当)

★ 各地の日本語ネットから

@愛知「日本語教育リソースルーム」オープン

 愛知県国際交流協会(http://www.pref.aichi.jp/aia)と東海日本語教育ネットワーク
(http://www8.freeweb.ne.jp/school/tnnwk/)は、
昨秋よりリソースセンター設立に向けて話し合いを重ねてきたが、
このたび「日本語教育リソースルーム」がオープンした。単なる資料室としてではなく、
関係者が情報交換したり勉強会を開いたりする場として活用されることを目指している。

活動日:火・土曜日 午後1:30〜5:00
連絡先:TEL 052-961-1760
052-961-7904(活動時間以外)

A「ひょうご日本語ネット」設立

 兵庫県下の五つの団体が情報交流を目的としてネットワークを設立した。
今年4月にはホームページ(http://www.hyogo-ip.or.jp/hnn/index.html)も開設し、
メーリングリストも運営している。

連絡先:兵庫県国際交流協会協力課 担当 五明田・栗林
TEL  :078-230-3260 FAX:   078-230-3280

B「日本語ネットワーク佐賀」

 98年、「日本語ボランティア講座」の受講生が中心となって活動を始めた。
中国帰国者の居住地域に日本語教室を開設、運営している。
「中国残留孤児援護基金」へ助成金を申請し、教材を購入した。
現在、毎週金曜日19:30〜21:00教室を開いている。常時参加者は約10名で、
ボランティアは20名が登録している。
また、佐賀県国際交流協会の委託を受けて在住外国人対象の日本語教室も運営している。
近日中にホームページ開設の予定。

連絡先:事務局 古川 恵子 
T/F :0952-24-9313
Email :keiko615@po.saganet.ne.jp

行政・施策

★厚生省から

1.「中国帰国者支援に関する検討会」について

 厚生省社会・援護局は、本年5月より今後の中国帰国者自立支援対策に資するため、関係各方面の有識者からなる「中国帰国者支援に関する検討会」を開催しており、年内を目途に意見のとりまとめを行う予定です。

(1)「検討会」開催の背景

@孤児の肉親捜しについては戦後55年を経過し、中国残留孤児に関する客観的資料が乏しくなる一方、高齢化に伴い、身体的負担も増加してきていること等から、平成11年度をもって集団訪日調査を終了し、訪中調査に切り替えるなど、中国残留邦人対策全般にわたる見直しを行う必要があること。

Aまた、帰国者の抱える問題としては、次のようなものがあり、今後の自立支援対策のあり方について、学識経験者、ボランティア、自治体関係者等の参加を得て検討を行うものである。
 ・帰国者自身の高齢化にともない、言葉や生活習慣の相違を克服することができず、その結果日本社会への適応や就職が難しく、安定した生活を営むことが困難となってきていること。
 ・中国残留邦人に同伴して帰国した2世・3世がなかなか就職できないこと。また、日本社会への不適応にともなう家庭内における問題の発生や、社会的事件に巻き込まれるケースが見られるようになってきていること。

(2)中国帰国者支援に関する検討会の構成(五十音順)

相原和子 国際医療福祉大学助教授
庵谷  磐 中国帰国者問題同友会代表幹事
和泉清一 中国帰国者三互会会長
(副座長)   
加藤  栄一 国民年金基金連合会理事長
香山  磐根 中国残留孤児問題全国協議会理事長
五代利矢子 評論家
(座長)  
坂巻  煕 淑徳大学教授
佐竹智雄 埼玉県健康福祉部社会福祉課長
関口和子 自立指導員  (千葉県自立研修センター通訳兼相談員)
永井真由美 中国帰国者  ((財)中国残留孤児援護基金職員)
宮川晴子 神奈川県福祉部生活援護課長

(3)主な検討課題

@日本語修得について
A就労支援対策について
B高齢化した帰国者への対策について(同伴した家族による扶養の確保等)
Cボランティア団体等による支援との連携について
D今後の帰国者の推移を踏まえた効果的な支援のあり方

2.中国残留日本人孤児の訪中調査について

@平成12年3月29日に日中両国政府で取り交わされた「中国残留日本人孤児の訪日肉親捜しの今後の実施方法に関する口上書」
 に基づき、平成12年7月からの約3週間、初めての訪中調査を行いました。これは、肉親調査の早期完了を目的として、
 3班編成の調査団を中国の7カ所の都市に派遣し、厚生省職員と中国の担当官とが共同して、
 集中的な調査(共同調査)を実施したものです。調査対象者は孤児申立者35人、証言者41人の計76人でした。

A訪中調査によって日中双方で日本人孤児と認めた者については、本年9月、肉親捜しの手がかりとなる資料を日本全国に公開し、 広く肉親に関する情報を収集(情報公開調査)することとしています。
 その情報公開調査などにより肉親からの対面の申し出があった孤児については、本年11月、訪日対面調査を行う予定です。
 なお、情報公開調査を行った孤児は、訪日対面調査に参加しなくても、本人が希望する場合は、
 一時帰国又は永住帰国することができることとしました。

3.中国帰国者自立研修センターの閉所について

 昭和63年6月の開所以来12年余にわたり、日本語指導や就労指導などをとおして
中国帰国者とその家族が地域に定着するための役割を担ってきた長崎センターは、本年8月31日をもって閉所しました。
今年度については、本年9月末日に静岡県、同12月末日に兵庫県、平成13年3月末日に岩手県の各センターを閉所する予定です。

4.残留日本人孤児の身元の判明について

第13次(昭和61年10月)の訪日調査に参加した一人の身元が判明しました。

★文化庁から

平成12年度「文化庁日本語教育大会」(−エル・ネットで全国五か所を結んだセミナー、シンポジウムなど−)

 文化庁(国語課)では、8月21日、22日の両日、「21世紀の日本語教育の在り方を考える−日本語教員養成問題を中心として−」
という全体テーマで「文化庁日本語教育大会」を開催しました。本大会は今回で六回目を迎えましたが、
日本語教育の水準の向上とその推進に資することを目的に、地域日本語教育セミナー、シンポジウム、
研究協議会を集中的に開催しているものです。
 今年度は、大会初の試みとして、エル・ネット(教育情報衛星通信ネットワーク)を利用し、
虎ノ門ホールを拠点に全国五か所(静岡県、福岡県、愛媛県、仙台市の教育センター、京都府の佛教大学)を衛星通信で結び、
双方向通信(一部片方向通信)により開催されました。
 一日目は、文化庁で実施している地域日本語教育事業の事例報告等を基に、
「今後の地域日本語学習支援者の養成の在り方を考える」というテーマの「地域日本語教育セミナー」が、
また午後からは、「未来を支える日本語教員養成の在り方について考える」をテーマとしてのシンポジウムが開かれ、
虎ノ門ホールと上述の全国五か所の会場を結んで熱心な協議が行われました。音声や画面切り替えなど、
いくつかの問題点や課題は指摘されたものの、臨場感や一体感などの点で概して好評だったようです。
 二日目は、全体テーマに対応した「日本語教育研究協議会」が開催され、「日本語教員養成の今後の在り方について」
「多様なニーズに応じた教材用素材の提供、教材開発・利用について」「日本語教育のための試験の在り方について」
の三つの分科会が開かれ、事例報告や文化庁の報告書(「日本語教育のための教員養成について」)等に基づきながら
活発な協議が展開されました。(文化庁国語課 野山 広)

★文部省から

『平成12年度外国人子女等日本語指導講習会』について

 去る7月24日から8月4日にかけて、文部省主催により(財)海外職業訓練協会を会場に標記の講習会が開かれました。
この講習会は、地域での日本語指導要員を養成する目的で、学校で日本語指導を担当している教員や日本語指導担当の指導主事を対象に平成5年度より行われているものです。本年度は都道府県から推薦を受けた64名の教員及び指導主事が参加しました。
 講習会のカリキュラムは、日本語指導法に関わるものと国際理解に関わるものに大きく分かれています。日本語指導法に関わる科目としては、文法・音声・文字表記などの語学関係や教科科目を踏まえた日本語教授法、日本語力評価法などの講義がありました。国際理解に関わる科目としては、カウンセリングや日本と中国の文化的違いを扱った異文化理解の科目などがありました。
 昨年に引き続き中国帰国者定着促進センター講師(池上摩希子先生)による「定着促進センターにおける日本語指導」について講義をしていただきました。多くの研修生は、定着促進センターの体系的な日本語指導カリキュラムとその内容に感心していました。
講義の他に、文部省から中国等帰国孤児子女教育研究協力校指定を受けた埼玉県の岩槻市立桜山中学校の中山教諭、大宮市立七里小学校の小山教諭から日本語指導に関わる実践的な研究成果について事例発表をしていただきました。
 この他、研修生が5〜6名のグループに分かれて、教師、児童に扮した模擬授業の発表が行われました。この模擬授業の準備は半日程度しかなかったのですが、短時間にもかかわらずとても創意に富んだ教材を作成し、それらを活用した授業はさらに工夫されていました。
 さらに、文部省が開発を委嘱していた日本語指導教材『マルチメディア教材 にほんごをまなぼう』を活用した演習も行われました。
 受講された先生方は、講習の成果を早速2学期から生かすことになります。地域の日本語担当教員への指導的役割を果たしていただくと共に、それぞれが担当する子どもたちへの日本語指導に講習の成果が還元されることを期待します。

★援護基金から

1.平成13年度就学援助について

 援護基金では、中国残留邦人本人、その配偶者及び二・三世が高等学校、大学、専修学校で就学する場合の就学資金を貸与しています。また、日本財団の助成事業として、帰国後3年以内の二・三世を対象に、大学等に入学するために必要な教育課程を設置している日本語学校への就学資金の援助を行っています。平成13年度についても募集を行います。

2.中国引揚者子女の大学受験特別枠について

 都立深川高校作成の資料をもとに10月過ぎには、問い合わせに応じられます。

問い合わせ先:(財団法人)中国残留孤児援護基金
〒105-0001 
  東京都港区虎ノ門1-5-8 オフィス虎ノ門1ビル7階
TEL:03-3501-1050

研修会情報

★「異文化間教育学会」第21回大会

 5月26日〜28日、標記の大会が青山学院大学で開かれました。中国帰国者や定住外国人に関する発表としては、「バイリンガル教育の可能性−中国帰国生の大学進学との関連において−」と題した大阪の上神谷高校の取り組み、「在日ベトナム系青年たちのエスニック・アイデンティティ」を巡る研究や「地域の日本語教室における異文化に関わる問題点−教授者は外国人居住者にどんな日本語を教えたいか−」などがありました。
 その中で2日目の「異文化接触研究再考:ベリー博士を囲んで」というラウンドテーブルでは、日系ブラジル人、中国残留婦人、日本国内の国際学校出身者という異なる背景を持って日本に定住しているグループの事例が紹介されました。中国残留邦人については世界的に見て特殊な例と日本では考えられてきましたが、異文化接触研究が専門のベリー博士によって、戦後数十年を経てロシアからフィンランドへ帰国した人たちという、中国残留孤児と共通点のある事象とそれに関わる研究の存在が指摘されました。"帰国"した青年たちのエスニック・アイデンティティにまつわる研究など、日本社会にとっても参考とし得る研究が行われているようです。その方面の知識の全くない報告者としては他地域・他分野の蓄積に学ぶことの必要性を感じさせられました。(所沢センター 安場)

★『文化庁日本語教育研究協議会』(8/22)

今回は3つの分科会のうち、特に人気の高かった第2分科会「多様なニーズに応じた教材用素材の提供、教材開発・利用について」に関して紹介します。
この分科会では80名の定員に対し当日150名近い参加者が詰めかけ、会場からは教材に対する地域支援者の熱い期待が伝わってきました。まず文化庁の野山氏から、本年度新たにインターネット上に立ち上げようとしている「日本語教育支援総合ネットワーク」について、その構築の理念や活用方法が紹介されました。文化庁は国立国語研究所の協力を得て、地域支援者から求められる情報や教材の素材を収集し、データベース化してネットワーク上で公開するそうです。ネットに登録した人なら自由に検索し、引き出して教材作りなどに役立てることができます。所沢センターの『同声・同気』など、既存のホームページとリンクすることによっても、より多くの情報流通や相互協力が可能になるだろうとの構想が示されました。
 次に、来春このネットワーク上で公開予定の素材型教材として、国際日本語普及協会の関口氏が紹介したのが『リソース型生活日本語』です。生活する上で必要な行動目標を6つの枠組みに分類した上で、個々の具体的な行動目標を達成する過程で必要となる指導項目を、カード形式で整理しています。例えば宅急便で荷物を送るという行動を実現するために、窓口での会話場面と申し込み書の記入場面が設定され、必要となる教材(記入用紙)や語彙・表現が整理
されています。素材から教材化するノウハウについては、前述のネットワークを通じて専門家からのアドバイスが得られるようにしたいそうです。
この他に国立国語研究所からはレベル別「映像教材リスト」の紹介。桜美林大学国際教育センター松下氏からは「グローバル教育のための日本語教材を」というテーマでの報告がなされました。松下氏からは、素材の提供や教材開発に関する提言として、@教師以外の支援者が使えるものA時間・お金の少ない人が使えるものB社会教育(学校・地域・世界)の視点から、交流を促し、話題・問題を共有するためのものC関連分野、特にグローバル教育(開発・多文化・地球市民・異文化・人権・平和・情報などの教育)や小中学校・高校との連携、といった意見が出されました。
 後半の協議の中では、「1週間に1回90分という限られた時間で学ぶ人のために、1回完結のユニット型教材を」「生活に必要な語彙に重点を置いた教材を」「どうして国研のビデオ教材は高いの?」「初級レベルでも気持ちを表現できる教材を」「学齢期の子どものための学科補習教材がもっと必要」「学習者には法律関係の知識が不足している」など参加者からの教材や情報をめぐる切実な声が聞かれました。日本語教育機関をはじめ、教材を提供する側にとっては課題の重さを痛感させられる時間となりました。(所沢センター 平城)

★「第46回全国夜間中学校研究大会」

日程: 2000年12月7日(木)8日(金)
会場: 千葉県市川市文化会館
問い合わせ先: 東京都荒川区立第九中学校夜間学級
飛田 TEL: 03-3892-4177

教材・教育資料

◆『中学生の日本語−文法と聞き取り練習』

 中国語の読み書きが出来る子どもたちを対象にした、初めて日本語を学ぶ中学生のための教材です。長い間地域の日本語ボランティアとして中国帰国者の日本語学習に関わってきた著者が、子どもたちが早く学校生活に慣れるよう学校場面を中心に、まず何よりも聴解力をつけることを目標に構成しています。文法事項等の中国語の解説には日本語訳もついています。また別冊ですが日本人協力者用の手引き(日本語のみB5版60ページ)もあります。お問い合わせはハガキまたはFAXでお願いします。

B5版365ページ
 〒546-0035  
  大阪市東住吉区山坂4-15-1
  斎藤 裕子  FAX 06-6607-5923

◆『かんじ だいすき(一)〜日本語を学ぶ世界の子どものために〜』

 子どものための漢字入門教材で、扱っているのは小学校1年生の配当漢字80字です。所沢センターの今期(62期)の小学校低学年クラスは中国から来た子どもばかりですが、漢字圏の中国から来ていても、低学年の子どもの場合、非漢字圏から来た子どもとほぼ同様のアプローチで漢字の学習を進めることになります。今回、そのようなクラスで使ってみました。
漢字の意味は各課の扉で絵を使って導入され、その後の書き練習や読み練習のページにもイラストが必ず出てきて、子どもたちの印象に残るように工夫されています。このイラストは、子どもたちが大好きなぬりえの作業にも利用できます。音訓が別々に導入されているのも小さい子どもには負担が少ないようです。しかし、11課くらいになると一つの課で導入される漢字の数が増え、抽象的な意味の漢字が出てくるため、6・7歳の子どもには絵を見ただけでは意味がピンとこないことがある点で、教師側は提示の仕方を工夫しなければならないでしょう。

9月には小学校2年生の配当漢字を扱った第2弾が出るそうで、発刊が待たれます。
    B5版 100ページ 1000円
    社団法人 国際日本語普及協会

◆『聴くことの場 認めあうことを願いつつ語った「わたし」たちのラブコール』

 本書は「わたしのこと」シリーズpart1として、神奈川県国際交流協会が発行した小冊子で、神奈川の若いボランティアグループ「エスニック集団」のメンバーたちのフリートーク記録です。「エスニック集団」は文字通りマルチ・エスニックな青年たちのグループで、「在日コリアン」、イラン人、「中国帰国者」、カンボジアからの「定住難民」、上海から来た中国人の息子、「日系」南米人、学校から排除された在日「日本人」… 相異なる異文化体験を身体に刻み込んできた彼ら(以上、前書きから)」が語る青春の思念想念邪念??etcの渦巻くてんこもり、と言ったら失礼でしょうか。
 「エスニック集団」は外国人のこどもたちのエンパワーメント(力を持たせること)を目的とした「エスニックキャンプ」を主催しています。このキャンプは1993年に神奈川のボランティアグループ「ソナの会」と県国際交流協会が行って以来、協会の主催で5年間行われてきたものですが、99年にはそれまでこのキャンプに関わってきた元?子どもたちである青年たち自身の手で行われるようになったものです。
 なお、タイトルの『聴くことの場』はミラノの社会学者アルベルト・メルッチの『聴くことの場所〜青少年への助言』から取ったそうです。

B5版48ページ 300円
 定価300円+送料200円=500円を郵便局の
 振替口座(00280-4-49894)に振り込めばOK
 名義は「神奈川県国際交流協会資料係」

◆『医療通訳養成講座 標準テキスト』

 桑山紀彦著〈国際ボランティアセンター山形(IVY) 外国人医療センター〉
 医療通訳は、地域の外国人の基本的人権を守り多文化共生社会を築いていくために欠かせない仕事です。本書はもともとIVYの医療通訳養成講座で講義や演習の際に用いられたものなので、これを読むことでノウハウがすべて身に付くというものではありませんが、地域で医療通訳を養成するための講座を企画しようとする人や、自分たちの医療通訳技能を高めるために勉強会を持ちたいと考えているグループにとって、大変参考になるものです。内容は、基本となる心構え、通訳に必要な技能やコツ、日本の保険医療システムについての知識、そしていくつかの外来模擬場面から構成されています。

A4版 22ページ
 問い合わせ先:IVY
 TEL 023-634-9830 月〜金 1:00〜5:00
 FAX 023-634-9884

◆『子どもと予防接種=病気と予防接種=』

 言語別1冊150円。B6判、20ページ
 国によって異なる子どもの予防接種について帰国者や在日外国人に理解してもらうため、愛知県の小児科医が作成した6カ国語(日本語、中国語、フィリピン語、英語、スペイン語、ポルトガル語)による翻訳小冊子である。
 本冊子では定期接種と任意接種との違い、ワクチンの種類、接種前後の注意、それぞれの予防接種を受ける年齢、回数、間隔などが、わかりやすく解説されている。

◆『予防接種と問診表―外国語版―』

 6カ国語訳集1冊1500円。A4判、53ページ
 これは医療関係者向けに、各予防接種の問診表を6カ国語に翻訳したものである。
 この二冊は、帰国者や在日外国人の予防接種への不安や疑問などを解決するのに大いに役立てられそうだ。

問い合わせ先:片山こどもクリニック
〒487-0034 春日井市白山町8-2-6
   TEL 0568-51-3907  
   FAX 0568-52-0072

◆『奇妙なと時き間が流れる島 サハリン』

 この本は著者が何の予備知識も持たないままに、サハリン行きの船に乗ったところから始まる。ユジノサハリンスクを「豊原」と言われて分からなかった著者の1週間のはずだった旅は、サハリン島の人たちとの交流によってあしかけ6年になった。繰り返し出てくるように、サハリンは「日本人には忘れられてしまった」島なのだろうか。ニヴヒのような先住民族をはじめ、タタール、ポーランド、朝鮮、そして日本、と、ロシア人だけでなく多くの民族が生活している。終戦の混乱で帰れずに今も故国日本や朝鮮、韓国に帰ることを願い続ける人がいる一方で、自ら「帰らない」という選択をした人もいる。それぞれが事情を抱え、民族の誇りを持ち、互いに助け合って暮らしている。この本には、その事情や背景がわかりやすく書かれ、初心者にお薦め。タイトルの「奇妙な時間」とは「止まった時」かと思うが、読み進むうちにそうではないことがわかる。あとがきで解き明かされているように、今も過去が消え去らず、現在とねじれ合って流れている、それがサハリンの奇妙な時間。けれども、それは同時にサハリンの人たちの優しさや強さにつながっている。このような歴史を持つサハリン。その将来に強く惹かれた。

田中水絵著 凱風社 1800円

◆『ボランティア教室ガイド東京 2000』

 94年、97年に続き3冊目が発行されました。今年4月のデータに基づいています。教室の開催曜日・時間帯別の索引が付いていて便利です。

東京ボランティアネットワーク編集・発行
 TEL 03-3235-1171 FAX 03-3235-0050

とん・とん インフォメーション

★所沢センターから

T.『中国帰国者定着促進センター紀要』第8号発行

1.所沢センター、99年度のプロジェクトおよび97年度に開始したプロジェクトについてまとめたもの3篇
 ●事例報告;自学自習をベースにした遠隔学習「通信コース」の試み
 ●高齢化する帰国者の「学習機会」を考える−「サロンコース」の試みを通して−
 ●望まざる「飛び級」−子どもの編入学年問題を巡る事例調査報告−
       資料1 センター退所生(児童生徒)編入統計資料
       資料2 〈子ども追跡調査〉中間報告

2.所沢センター〈子どもコース〉の取り組みに関するもの2篇
 ●帰国児童・生徒クラスの「日本語と教科の統合学習」における教室会話の分析
 ●子どもクラス授業実践記録−内容重視のアプローチによる「日本語と教科の統合学習」の例−

3.所沢センターの「1999年の歩み・入退所者統計」

4.投稿
 ●秋田県能代日本語学習会の実践記録−中国帰国者および外国籍住民の少数在住地域における支援について−
この秋田「能代日本語学習会」の実践記録は、地域で帰国者等定住型外国人の支援を立ち上げよう、あるいはいっそうの支援充実を目指そうとする支援者にとって大変貴重な資料となるものです。

第9号 投稿募集!
中国帰国者(定住型外国人を含め)を対象とする教育や支援に関わるものなら、論文、報告、研究ノート等、何でも結構です。
締め切りは2001年2月末日。お問い合わせは佐藤まで。採否は、審査の上決定。

U.所沢センター開発教材

「こんなとき会話シリーズ−交際編−」モニター(若干名)募集!!

 交際編は、近所や職場で積極的に人々と関わっていきたいと願う学習者のために、さまざまなコミュニケーション場面を取り上げ、日本語でどのようなやりとりができるかを紹介しています。主に初級の学習者向けです。付属のテープだけでも学習が可能ですから、忙しい方にもお勧めです。

モニターの資格・条件
 @学習開始時と終了時に、簡単なアンケートに回答できる方
 A教材とアンケートの送料(宅配便着払い)を自己負担できる方

応募方法
 @支援者(自立指導員・身元引受人、日本語講師、ボランティア)を通じて申し込みます。
 A支援者の方は、まず係までお電話を下さい。内定後、下記事項を明記の上、手紙、ファックスまたはEメールで申し込みいただきます。
 支援者の氏名、住所、〒番号、電話番号、学習者との関係(例:自立指導員)、学習者の氏名、住所、〒番号、電話番号
 『こんなとき会話交際編』モニター希望
 B申込みを受理次第、教材は支援者宛に送付します。なお、申込みが定員になり次第締め切ります。
問い合わせ・申込み先
〒359-0042 埼玉県所沢市並木6-4-2
   中国帰国者定着促進センター教務課
     教材モニター係 平城(ヒラキ)
 TEL:042-993-1660 FAX:042-991-1689
 Eメール:hir@kikokusha-center.or.jp

V.「中国引揚者子女特別枠のある大学入試情報」コーナーへ どうぞ

 所沢センターでは、昨秋、ホームページ上に「中国引揚者子女特別枠のある大学入試情報」コーナーを開きました。これは、「中国引揚者子女」でインターネット検索をして見つかった大学のホームページを一覧表にし、リンクを張ったものです。現在、2000年度の入試情報にほぼ更新が終わりました。どうぞ、お役立てください。

アンケートにご協力ください
『同声・同気』は、現在、帰国者等の支援に関わる機関・団体・個人に合わせて約二三〇〇部 お送りしています。
この度、読者の皆様のうち、〈個人〉及び〈小中学校・高校の帰国児童生徒指導担当者〉を中心にアンケートをお送りし、
いろいろなご意見をいただくことで紙面の充実をはかりたいと考えました。お手数をおかけいたしますが、
よろしくご協力くださいますようお願い申し上げます。この集計結果については、ぜひまた紙上でも紹介したいと思います

ニュース記事から (H12.4.20〜H12.9.8)

5.19 中国帰国者支援策見直し 厚生省が検討会発足へ
5.25 外国人児童生徒が集中化傾向で文部省調査   2割弱、日本語教わらず
6.22 サハリン残留邦人に厚生省が面談実施を計画
6.30 残留孤児肉親探し日中共同調査
7.28 長崎県自立研修センターが閉所
7.29 大阪のセンターが中国残留孤児養育のお礼に文房具を送る
8.09 『ともちゃんのおへそ』出版 実話をもとに絵本。「ともちゃん童子」の像も
8.25 帰国中国孤児の「支援・交流センター」新設へ  厚生省、来年度概算要求
9.08 厚生省、帰国者の生活実態調査報告発表

事例紹介(1)

★ 帰国者・外国人のこどものための土曜スクール

主催:足立日本語教育を考える会

足立区の社会教育団体「足立日本語教育を考える会」が開いている土曜スクールでは、毎週土曜の午後に中国帰国児童生徒及び外国人児童生徒を対象に、夜間中学校の先生や大学院生・大学生がボランティアで日本語と教科の学習支援を行ってきました。しかし、現在様々な問題を抱え、運営の方向について再検討が必要な状況にあるということです。先日、この土曜スクールを訪ね、実状について伺ってきました。 土曜スクールは中国帰国児童生徒への日本語学習支援を目的として1998年の10月に開講されました。その成果の一つとして、今年4月には、通っていた生徒5名が高校に進学することができたそうで、支援者の方々は大変喜んでいらっしゃいました。ところが、最近、参加する児童生徒の背景が変わり(帰国児童生徒から国際結婚や仕事で日本に一時滞在する家庭の児童生徒へ)、それに並行し 様々な問題が生じてきたということです。以下は代表の方から伺った問題点です。

一番の問題は、スクールの開講当初の趣旨が「日本語が不自由なために学校での勉強に困っている子どもたちを支援する」ことだったのに、参加する児童生徒の変化により、まるで学習塾のような場所になってしまい、本当に日本語指導を必要としている帰国児童生徒達が敬遠して離れていってしまったということである。  連絡もなしに休んだり遅刻したりするために参加する児童生徒数が安定しない。その上、勉強する内容についてそれぞれが異なる要求をするため、計画的に指導内容を決めたり準備したりできない。支援するボランティアもなかなか定着せず、一定の人数を確保するのが難しい。上のような児童・生徒の態度に対して、支援しようという気持ちが徐々に薄れてやめていく人もいる。また、中には、中国語圏の児童生徒だというだけで加わらないボランティアもいた。  高校受験や学校での勉強に関しては、学校側の対応が不十分だったり、入試の特別枠が帰国児童生徒に限られていたり等、児童生徒を取り巻く環境や制度の問題が大きいと思われる。そんな環境にある児童生徒の力になりたいとスクールでは支援を続けてきた訳であるが、それでも解決できないことが多く、負担感と無力感で組織疲労が生じている。こうした問題は土曜スクールのケアだけではとてもカバーできる問題ではない。行政や学校の側で制度改革をも含めた積極的な取り組みをしてほしいと強く願っている。

ボランティアで支援活動を行っている皆さんに実態を知っていただくことで、何かの役に立てればと、代表の妹尾さんは、現在の問題について率直に話してくださいました。ただ、上のような状況のため、土曜スクールでは、児童生徒が本当に意欲を持って勉強しようという姿勢を見せ、支援する側の体制が整うまで、しばらく休止しようと考えているということでした。   (所沢センター 斎藤)

事例紹介(2)

★「夢と努力と… …チャンスを求めてとにかく行動すること」

 昨年春、一人の修了生の青年から推薦で大学二部(夜間部)に行くことになったという手紙をもらいました。 確かこのAくんは働きながら定時制高校に通っていたはず、定時制高校から大学へという進路は日本の高校生の 進路としてもそれほど一般的ではないように思えました(最近は不登校から定時制に入り直して大学を目指す人が増えていますが)。 しかも、19歳で来日したAくんはそのときすでに25歳、中国にいたなら、もう結婚して子どももいる歳です。 精神的に決して楽ではない日本での生活の中、 大学進学という意志を貫いた彼のこの7年間に迫ってみたくて取材に出かけて行きました。

 Aくんは中国では中学を卒業後、農業や道路補修関係の仕事に従事していた。「中学校を卒業するとき、高校に行こうとは思わなかったの?」…「僕の住んでいたのは辺鄙なところで、高校に行く子も中学校中で10人ぐらいしかいないんですよ。中学校のときの成績は〈良くもなく悪くもなく〉で、数学はまあ得意だったけど…」。  来日当初は、新しい環境の中で「やってやろう!」という気持ちはあったが、社会状況も異なり、情報もない中、どこから手をつければいいのかわからない状態でもあったという。所沢センターではいくつか進路の可能性について紹介されたが、中卒のAくんに合うものはあまりなく、唯一興味を持ったのが車に関することだった。そこで、職訓校の自動車修理コースを受験することに決めた。  所沢センター修了後、Aくんは定着地の自立研修センターで8ヶ月日本語を勉強した。自立研修センターで進路について相談してみたところ、職訓校見学に連れて行ってくれた。職訓校では自動車修理の仕事は今後機械に取って替わられる可能性が高いからと、数値制御コースを勧められた。Aくんはコンピューターで数値制御を行うこのコースに興味を覚え、翌年入学した。  数値制御の学習は面白かった。そして、だんだん自分にもまだチャンスがあると思うようになった。自立研修センター在籍時

からチャンスがあれば高校へ行きたいと考えるようになっていたAくんが職訓校で高校進学の希望を伝えたところ、県内の定時制高校入試の状況など資料を集めてくれた。そして、どうせなら習った技術が活かせるところということで工業高校を勧められた。  1年後、Aくんは職訓校の紹介で機械の製作所に就職すると同時に工業高校の定時制に入学した。生徒たちの年齢は20歳前後までで彼は最年長だった。1年の時に大学推薦入試のガ
イダンスがあった。成績次第でそんな可能性があるのか?と、もし大学に行けるものなら、どうせやるなら最後まで、という希望を持った。推薦が受けられるかどうかは3年までの成績で決まる。成績は、同じ市内に住む中国人の元留学生の人に微積分などを教えてもらって理数系は何とかなったし、国語は自宅での復習に継ぐ復習でついていけたが、地理歴史関係はお手上げだった。しかし、3年のとき、推薦の可能性があると聞かされた。国語の教師が願書の日本語を手伝ってくれた。  この定時制高校から推薦で大学や専門学校に進む生徒は毎年何人かいるという程度。課題の小論文は参考書を買って独学し、第一志望の私立大学工学部機械科に合格した。二部とはいえ私学の学費は安くはないが、働いて貯めたお金と月々の稼ぎで賄っており、「自分で稼いでいるんだし」と奨学金は貰おうと思わなかった。働きながらの通学は楽ではないが、大学での友だちもでき、下宿に遊びに行ったりもしている。理数系の数学はけっこう難しく、参考書を漁っては勉強して定期試験は何とかクリア。ハンデのある英語が大変だが、ドイツ語は出発ラインが同じだからついていくことができている。  Aくんは言う、「僕にも、自分に何ができるか、何を勉強すればよいかわからなかったし、見つけられない時代があった。自分はダメな人間だと決めてやりたいことに向かってみる勇気もない時代があった。でも、実はたくさんのチャンスが身近なところに潜んでいて、小さいことからぶつかっていってみれば、やることがきっと見つかる、たとえ成功しなくても空しい日々から脱することができるし、他のチャンスにつながる可能性もあるとわかった。とにかく行動することが大事。それに、僕はいろいろな人に助けられて、そのお陰でここまでやってこられた」と。  Aくんは自身の言う通り、実に多くの人の支援を得て夢を実現させてきた。その点では彼は恵まれていたと言える。しかし、それは彼の努力が引き出したものでもある。所沢時代の担任教師は彼のことを物静かであまり目立たないが、作文等ではとてもユニークな考え方を披露するし、じっくりと考えて答を出すタイプだったと語っている。Aくんは自分の中で希望をゆっくり温め、実行に移す可能性を模索し続けていたのだ。そんなAくんを見て周りの日本人も彼なら、と手を貸したのだろう。

 ※Aくん本人が同じ帰国者の青年の役に立ちたいとのことで中国語で来日後の経緯を綴った文章をHPにアップしています。
  HPでご覧になれない方でご希望の方にはファックスまたは80円切手を貼った返信用封筒をお送りいただければ
  折り返しコピーをお送りできますので、ご連絡ください。

教務課2チーム:安場まで