お詫び

 私が『中国帰国者定着促進センター紀要(第11号)』に発表した「外国人小中学生はどのような特徴をもつ県に多いのか―460種類の県別データとの相関分析―」という論文に重大な誤りがありました。
 誤りがあった部分はこの論文で紹介されている相関係数の全ておよび都道府県別各外国人率の大半です。私がこの誤りに気が付いたのは2009年3月8日のことです。慎重に調べた結果、都道府県別の5-14歳人口の大半を国勢調査から転記し間違えたことが原因だと分かりました。
 これは絶対にしてはならないミスであり、また、相当に恥ずかしいミスです。
 この論文を紙媒体または電子媒体でお持ちの方は、紹介されている数値の大半が誤りであることに注意して下さい。
 なお、正しい数値に基づいて書き直した論文を同センターのホームページにアップロードさせて頂きました。同センターの御厚意に感謝いたします。
 今後は二度とこのような過ちを繰り返さぬよう十分注意いたします。
 心よりお詫び致します。本当に申し訳ございませんでした。

2009年5月7日

大阪成蹊大学  講師  鍛治致(かじ・いたる)

外国人小中学生はどのような特徴をもつ県に多いのか

―― 460種類の県別データとの相関分析 ――

鍛治致 (大阪成蹊大学)

1. 目的と方法

 外国人小中学生が多いのはどの地方か。それらの地方にはどんな特徴があるか。これらを数量的データを手がかりに探索するのが本稿の目的である。

 資料の制約上、外国人小中学生数は5-14歳人口で代用し、外国人の国籍は、韓国・朝鮮、中国(台湾・香港を含む)、ブラジルに限定し、地方差は市ではなく県を単位に論じることにした(注1)

 本稿が使用する資料は主として次の3つである。
 A. 平成17年国勢調査: 県別の5-14歳人口はここから入手した。数値は2005年10月のもの。
 B. 財団法人入管協会『在留外国人統計: 平成18年版』: 外国人の県別・国籍別の5-14歳人口はここから入手した。数値は2005年12月のもの。
 C. 総務省統計局『統計でみる都道府県のすがた2007』: 県別の様々な指標はここから入手した。ほとんどの数値は2004年または2005年のものである。本書には「総人口」から「パソコン所有数量(千世帯当たり)」まで460種類の数値が県別に掲載されているが、同じものが http:// www.stat.go.jp/ data/ ssds/ 5a.htm で公開されている。

2. 外国人小中学生の分布(県別)

 外国人小中学生数を県別・国籍別に集計したのが表2-Aと表2-Bである。

表2-A: 県別・国籍別の外国人小中学生数(実数)
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
群馬 169(25) 214(16) 2,206( 3)
東京 7,013( 2) 5,503( 1) 241(17)
神奈川 2,114( 6) 2,274( 3) 1,156( 8)
静岡 311(18) 312(13) 5,261( 2)
愛知 2,498( 4) 1,469( 6) 7,253( 1)
大阪 9,304( 1) 2,305( 2) 234(19)
兵庫 4,017( 3) 855( 7) 236(18)
青森 58(36) 44(44) 0(44)
秋田 29(44) 64(38) 0(44)
和歌山 153(26) 24(46) 4(38)
鳥取 73(34) 19(47) 5(37)
徳島 9(47) 52(42) 2(39)
佐賀 57(37) 71(37) 0(44)
宮崎 28(45) 30(45) 0(44)
鹿児島 21(46) 98(30) 2(39)
合計 37,429  21,960  28,804 

『在留外国人統計』(2005年末)による。小中学生数のかわりに5-14歳の外国人登録者人口を用いてある。括弧内は順位。いずれかの国籍において最上位の3県および最下位の3県のみ表示した。

表2-B: 県別・国籍別の外国人小中学生数(小中学生10万人当たり)
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
群馬 84.6 (30) 107.1 (17) 1,103.7 ( 2)
東京 739.8 ( 4) 580.5 ( 1) 25.4 (25)
神奈川 267.4 ( 8) 287.7 ( 2) 146.2 (15)
静岡 85.4 (29) 85.7 (23) 1,444.8 ( 1)
三重 224.9 (12) 77.7 (26) 1,049.0 ( 3)
京都 962.5 ( 2) 167.4 ( 9) 9.4 (31)
大阪 1,139.4 ( 1) 282.3 ( 3) 28.7 (22)
兵庫 742.3 ( 3) 158.0 (10) 43.6 (19)
青森 41.2 (38) 31.2 (45) 0.0 (44)
秋田 28.5 (43) 63.0 (36) 0.0 (44)
和歌山 152.5 (19) 23.9 (47) 4.0 (37)
徳島 12.2 (46) 70.7 (30) 2.7 (39)
佐賀 62.2 (35) 77.4 (27) 0.0 (44)
宮崎 23.8 (44) 25.5 (46) 0.0 (44)
鹿児島 12.0 (47) 55.9 (38) 1.1 (41)
沖縄 20.3 (45) 49.9 (42) 5.8 (35)
合計 313.4 241.2 183.9

『在留外国人統計』(2005年末)による。小中学生数のかわりに5-14歳の外国人登録者人口を用いてある。括弧内は順位。いずれかの国籍において最上位の3県および最下位の3県のみ表示した。
 表2-Aからは、大阪では9,000人前後の韓国・朝鮮人が、東京では7,000人前後の韓国・朝鮮人が、愛知では7,000人前後のブラジル人が、小中学校に通っているであろうことが想像できる。
 また、表2-Bからは、大阪では韓国・朝鮮人が、静岡・三重・群馬ではブラジル人が、小中学生の1%以上を占めているであろうことが想像できる。
 なお、10万人当たりの韓国・朝鮮人数は大阪・京都・兵庫・東京が「四強」であり第5位の山口(10万人当たり354.8人)を大きく引き離している。一方、10万人当たりのブラジル人が1,000人以上の県は(愛知を含み)4つあるが、10人未満の県は17個もあった(しかも、そのうち4県では0人)。
 本稿では相関係数(注2)を用いて変数どうしの関係をみていくが、こうした「極端な偏り」を抱えるデータは相関分析に適さない。そこで、本稿では各外国人率を常用対数に変換し、「極端な偏り」を小さくした上で、様々な変数との関係を「炙り出す」ことにした(注3)
 さて、表2-Cは小中学校における県別の韓国・朝鮮人率、中国人率、ブラジル人率の間にどのような相関関係が見られるかを調べたものである(注4)。3者は皆お互いに中程度の正の相関を示しているが、韓国・朝鮮人率と中国人率の相関が最も強く、韓国・朝鮮人率とブラジル人率の相関が最も弱い。

表2-C: 各外国人小中学生率どうしの相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
韓国・朝鮮 ----- 0.614*** 0.462**
中国 0.614*** ----- 0.462**
ブラジル 0.462** 0.509*** -----

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

3. 結果

 では、以下に、どのような特徴をもつ県ほど小中学生に占める各外国人率が高い傾向にあるのかを、「人口・世帯」「経済基盤」「教育」「労働」「居住」「健康・医療」「福祉・社会保障」「安全」という8つのテーマごとにみていこう。なお、本稿では460種類ある変数のうち100種類の変数だけを取り上げる。なお、100種類の変数を選ぶ際には絶対値が大きい相関係数を含むものから順番に100個選んだ。

3-1. 「人口・世帯」変数との相関

表3-1: 「人口・世帯」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[001] 0.540*** 0.717*** 0.198
[002] 0.537*** 0.723*** 0.209
[003] 0.541*** 0.711*** 0.188
[004] 0.714*** 0.683*** 0.777***
[005] 0.541*** 0.718*** 0.200
[006] 0.513*** 0.675*** 0.112
[007] 0.579*** 0.685*** 0.133
[012] 0.574*** 0.678*** 0.440**
[015] -0.592*** -0.680*** -0.441**
[016] 0.585*** 0.670*** 0.498***
[025] 0.494*** 0.670*** 0.468***
[030] 0.533*** 0.702*** 0.159
[031] 0.534*** 0.704*** 0.161
[037] -0.182 -0.420** -0.668***
[039] 0.492*** 0.635*** 0.381**

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *: p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[001]:総人口,万人,2005
[002]:男子人口,万人,2005
[003]:女子人口,万人,2005
[004]:外国人人口(人口10万人当たり),人,2005
[005]:人口割合(対全国総人口),%,2005
[006]:人口密度(総面積1ku当たり),人,2005
[007]:人口密度(可住地面積1ku当たり),人,2005
[012]:生産年齢人口割合[15〜64歳](対総人口),%,2005
[015]:従属人口指数((年少+老年人口)/生産年齢人口×100),−,2005
[016]:人口増加率((総人口−前年総人口)/前年総人口),%,2005
[025]:社会増加率((転入者数−転出者数)/総人口),%,2005
[030]:一般世帯数,万世帯,2005
[031]:全国一般世帯に占める一般世帯割合,%,2005
[037]:高齢単身世帯の割合(対一般世帯数),%,2005
[039]:婚姻率(人口千人当たり),−,2004

 表3-1をみると(注5)、人口が多く[001][002][003][005]、人口密度が高い[006][007]県ほど小中学校における韓国・朝鮮人や中国人の率が高いことがわかる。一方、ブラジル人にはそのような傾向がほとんど見られない。つまり、ブラジル人に関しては「人が多い県に集まる」とか「人が少ない県に集まる」とかいう傾向がほとんど見られないということだ。
 なお、表3-1からは、転入者が多くて[025]人口が増えている[016]県では小中学生における各外国人率が高いことも分かる。

3-2. 「経済基盤」変数との相関

表3-2: 「経済基盤」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[055] 0.590*** 0.692*** 0.622***
[060] 0.283+ 0.315* 0.760***
[061] -0.236 -0.272+ -0.741***
[063] 0.562*** 0.679*** 0.478***
[065] 0.559*** 0.697*** 0.190
[067] 0.628*** 0.747*** 0.565***

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[055]:一人当たり県民所得,千円,2003
[060]:第2次産業事業所数構成比(対事業所数),%,2001
[061]:第3次産業事業所数構成比(対事業所数),%,2001
[063]:従業者100人以上の事業所割合(対民営事業所数),%,2004
[065]:第3次産業従業者数(1事業所当たり),人,2001
[067]:従業者100人以上の事業所の従業者割合(対民営事業所従業者数),%,2004

 表3-2をみると、大企業の割合が高く[063]、大企業従業者の割合が高く[067]、県民所得が高い[055]県ほど小中学校における各外国人率が高いことが分かる。ただし、この結果を「外国人は大企業に勤務していて給料をたくさんもらっている」と解釈してはならない。「外国人が多い県には大企業が多い」「外国人が多い県には大企業の社員が多い」「外国人が多い県では県民所得が高い」ということは「外国人は大企業に勤務していて給料をたくさんもらっている」ということを必ずしも意味しない。集団レベルで観察された傾向が個人レベルにおいても観察されると考えてしまうこのような誤りのことを「生態学的誤謬」というが、この問題については次節で詳しく取り扱う。

 なお、表3-2からは工業関連の事業所の割合が高く[060]、商業関連の事業所の割合が低い[061]県ほど小中学校におけるブラジル人率が高いということも分かる。

3-3. 「行政基盤」変数との相関

表3-3: 「行政基盤」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[093] 0.579*** 0.770*** 0.464**
[097] 0.651*** 0.775*** 0.505***
[098] 0.440** 0.643*** 0.337*
[099] -0.607*** -0.720*** -0.343*
[100] 0.610*** 0.805*** 0.493***
[101] -0.600*** -0.756*** -0.512***
[102] -0.626*** -0.649*** -0.480***
[103] 0.657*** 0.763*** 0.453**
[104] 0.630*** 0.644*** 0.629***
[105] 0.694*** 0.759*** 0.435**
[113] -0.649*** -0.766*** -0.401**
[116] 0.654*** 0.714*** 0.192
[122] -0.600*** -0.700*** -0.331*
[124] -0.196 -0.416** -0.714***
[125] -0.192 -0.404** -0.626***

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[093]:財政力指数[県財政],−,2004
[097]:自主財源の割合(対歳出決算総額)[県財政],%,2004
[098]:一般財源の割合(対歳出決算総額)[県財政],%,2004
[099]:投資的経費の割合(対歳出決算総額)[県財政],%,2004
[100]:地方税割合(対歳入決算総額)[県財政],%,2004
[101]:地方交付税割合(対歳入決算総額)[県財政],%,2004
[102]:国庫支出金割合(対歳入決算総額)[県財政],%,2004
[103]:住民税(人口1人当たり)[県・市町村財政合計],千円,2004
[104]:固定資産税(人口1人当たり)[県・市町村財政合計],千円,2004
[105]:課税対象所得(納税義務者1人当たり),千円,2005
[113]:農林水産業費割合(対歳出決算総額)[県財政],%,2004
[116]:警察費割合(対歳出決算総額)[県財政],%,2004
[122]:普通建設事業費割合(対歳出決算総額)[県財政],%,2004
[124]:民生費(人口1人当たり)[県・市町村財政合計],千円,2004
[125]:社会福祉費(人口1人当たり)[県・市町村財政合計],千円,2004

 表3-3を見ると、歳入に占める地方税の割合[100]が高く、地方交付税の割合[101]が低く、国庫支出金の割合[102]が低いなど、財政的に豊かで自主財源の割合[097]が高い県ほど小中学校における各外国人率が高いことが分かる。
 また、歳出に占める警察費の割合[116]が高い県ほど小中学校における中国人や韓国・朝鮮人の率が高いのに対し、ブラジル人にはそのような傾向がほとんど見られない。一方、人口1人当たりの民生費[124]や社会福祉費[125]が少ない県ほど小中学校におけるブラジル人率が高いのに対し、韓国・朝鮮人にはそのような傾向がほとんど見られない。

3-4. 「教育」変数との相関

表3-4: 「教育」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[141] -0.547*** -0.629*** -0.521***
[148] 0.576*** 0.645*** 0.085
[162] 0.525*** 0.676*** 0.458**
[163] 0.504*** 0.699*** 0.521***
[164] 0.522*** 0.663*** 0.425**
―― ―― ―― ――
[175] 0.708*** 0.564*** 0.597***
[182] -0.725*** -0.711*** -0.304*
[184] 0.575*** 0.699*** 0.441**
[185] 0.688*** 0.751*** 0.359*

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[141]:小学校数(6〜11歳人口10万人当たり),校,2005
[148]:高等学校数(可住地面積100ku当たり),校,2005
[162]:小学校児童数(小学校教員1人当たり),人,2005
[163]:中学校生徒数(中学校教員1人当たり),人,2005
[164]:高等学校生徒数(高等学校教員1人当たり),人,2005
[175]:高等学校卒業者の進学率,%,2004
[182]:最終学歴が小学・中学卒の者の割合(対卒業者総数),%,2000
[184]:最終学歴が短大・高専卒の者の割合(対卒業者総数),%,2000
[185]:最終学歴が大学・大学院卒の者の割合(対卒業者総数),%,2000

 表3-4をみると、小学校1校当たりの児童数[141]が多く、中学校教員1人当たりの生徒数[163]が多く、高校卒業者の進学率[175]が高い県ほど各外国人小中学生率が高いことが分かる。なお、可住地面積当たりの高校数[148]が多い県ほど韓国・朝鮮人率や中国人率が高いが、ブラジル人にはそのような傾向がほとんど見られない。

3-5. 「労働」変数との相関

表3-5:「労働」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[186] 0.273+ 0.387** 0.830***
[188] -0.704*** -0.670*** -0.555***
[189] 0.221 0.178 0.783***
[195] 0.656*** 0.777*** 0.416**
[196] 0.627*** 0.739*** 0.280+
―― ―― ―― ――
[198] 0.477*** 0.484*** 0.824***
[199] -0.659*** -0.699*** -0.698***
[204] -0.630*** -0.650*** -0.430**
[205] -0.535*** -0.452** -0.693***
[206] 0.567*** 0.688*** 0.378**
―― ―― ―― ――
[216] 0.654*** 0.780*** 0.591***
[217] 0.523*** 0.699*** 0.193
[218] 0.662*** 0.643*** 0.667***
[219] 0.621*** 0.695*** 0.709***

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[186]:労働力人口比率(対15歳以上人口)[男],%,2000
[188]:第1次産業就業者比率(対就業者),%,2000
[189]:第2次産業就業者比率(対就業者),%,2000
[195]:他市区町村への通勤者比率(対就業者),%,2000
[196]:他市区町村からの通勤者比率(対就業者),%,2000
[198]:有効求人倍率(求人数/求職者数),倍,2004
[199]:充足率(就職件数/求人数),%,2004
[204]:高卒者に占める就職者の割合(対高卒者数),%,2004
[205]:高卒者に占める県外就職者の割合(対高卒就職者数),%,2004
[206]:高等学校新規卒業者の求人倍率(対新規高卒者求職者数),倍,2004
[216]:女性パートタイムの給与(1時間当たり),円,2005
[217]:女性パートタイム労働者数,人,2005
[218]:高等学校新規卒業者初任給(月額)[男],千円,2005
[219]:高等学校新規卒業者初任給(月額)[女],千円,2005

 表3-5をみると、農林水産業に従事する者の割合[188]が低く、賃金が高い[216][218][219]県ほど各外国人率が高い。また、有効求人倍率[198]が高く、充足率[199]が低いなど、労働力が不足気味の県ほど各外国人小中学生率が高い。
 なお、工業に従事する者の割合[189]が高い県ほどブラジル人率が高いが、韓国・朝鮮人や中国人にはそのような傾向がほとんど見られない。

3-6. 「文化・スポーツ」変数との相関

表3-6:「文化・スポーツ」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[234] 0.643*** 0.676*** 0.663***
[235] 0.752*** 0.766*** 0.524***
[237] 0.754*** 0.739*** 0.562***

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[234]:旅行・行楽の年間行動者率(15歳以上),%,2001
[235]:海外旅行の年間行動者率(15歳以上),%,2001
[237]:一般旅券発行件数(人口千人当たり),件,2005

 表3-6をみると、旅券を取得する人の割合が高く[237]、旅行・行楽[234]・海外旅行[235]に行く人の割合が多い県ほど各外国人率が高い。

3-7. 「居住」変数との相関

表3-7: 「居住」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[238] 0.473*** 0.647*** 0.537***
[248] -0.561*** -0.740*** -0.284+
[250] -0.464** -0.684*** -0.229
[254] -0.365* -0.666*** -0.278+
[261] 0.515*** 0.689*** 0.152
―― ―― ―― ――
[262] 0.475*** 0.690*** 0.182
[263] 0.732*** 0.715*** 0.574***
[265] 0.622*** 0.653*** 0.211
[266] 0.590*** 0.711*** 0.167
[267] 0.530*** 0.715*** 0.265+
―― ―― ―― ――
[275] 0.117 0.027 0.679***
[282] -0.683*** -0.645*** -0.465***
[288] 0.451** 0.721*** 0.305*
[298] 0.611*** 0.681*** 0.136

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[238]:着工新設住宅比率(対居住世帯あり住宅数),%,2004
[248]:借家住宅の延べ面積(1住宅当たり),u,2003
[250]:借家住宅の畳数(1住宅当たり),畳,2003
[254]:居住室数(1住宅当たり)<借家>,室,2003
[261]:公営賃貸住宅の家賃(1か月3.3u当たり),円,2005
[262]:民営賃貸住宅の家賃(1か月3.3u当たり),円,2005
[263]:着工居住用建築物工事費予定額(床面積1u当たり),千円,2004
[265]:都市ガス供給区域内世帯比率(対一般世帯数),%,2004
[266]:ガス販売量,万MJ,2004
[267]:ガソリン販売量,kl,2005
[275]:使用電力量(1世帯当たり),kwh,2004
[282]:理容・美容所数(人口10万人当たり),所,2004
[288]:道路実延長(総面積1ku当たり),km,2004
[298]:都市公園数(可住地面積100ku当たり),所,2004

 表3-7をみると、新しく建った家の割合[238]が高く、床面積当たりの住宅工事費[263]が高く、人口あたりの理容・美容所[282]が少ない県ほど小中学校における各外国人率が高いことが分かる。
 また、公営賃貸住宅[261]や民営賃貸住宅[262]の家賃が高い県ほど小中学校における韓国・朝鮮人や中国人の率が高いが、ブラジル人にはそのような傾向がほとんど見られない。
 さらに、都市ガス[265]が普及している県ほど小中学校における韓国・朝鮮人や中国人の率が高いが、その一方で、世帯当たりの使用電力量[275]が多い県ほど小中学校におけるブラジル人率が高い。

3-8. 「健康・医療」変数との相関

表3-8: 「健康・医療」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[316] -0.500*** -0.463** -0.754***
[327] -0.624*** -0.519*** -0.599***
[330] 0.570*** 0.633*** 0.067
[331] 0.524*** 0.640*** 0.078
[332] -0.382** -0.530*** -0.624***
―― ―― ―― ――
[333] -0.666*** -0.552*** -0.744***
[337] -0.513*** -0.637*** -0.681***
[338] 0.579*** 0.637*** 0.520***
[350] 0.548*** 0.659*** 0.089

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1

各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[316]:死産率(死産数/(出生数+死産数))(出産数千当たり),−,2004
[327]:精神病院数(人口10万人当たり),施設,2004
[331]:歯科診療所数(可住地面積100ku当たり),施設,2004
[332]:一般病院病床数(人口10万人当たり),床,2004
[333]:精神病床数(人口10万人当たり),床,2004
[337]:医療施設に従事する看護師・准看護師数(人口10万人当たり),人,2004
[338]:一般病院常勤医師数(100病床当たり),人,2004
[350]:薬局数(可住地面積100ku当たり),所,2004

 表3-8からは、人口当たりの一般病院病床数[332]や精神病院数[327]や精神病床数[333]や看護師・准看護師数[337]が少ない県ほど、また、病床数当たりの常勤医師の数[338]が多い県ほど、また、死産率[316]が低い県ほど小中学校における各外国人率が高いことが分かる。
 なお、可住地面積当たりの診療所[330]や歯医者[331]や薬屋[350]の数が多い県ほど韓国・朝鮮人や中国人の率が高いが、ブラジル人にはそのような傾向がほとんど見られない。

3-9. 「福祉・社会保障」変数との相関

表3-9: 「福祉・社会保障」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[355] 0.066 -0.105 -0.638***
[357] -0.364* -0.636*** -0.645***
[374] -0.435** -0.640*** -0.336*

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[355]:生活保護医療扶助人員(人口千人当たり),人,2004
[357]:身体障害者手帳交付数(人口千人当たり),人,2004
[374]:民生委員(児童委員)数(人口10万人当たり),人,2004

 表3-9からは、人口当たりの生活保護医療扶助人員[355]が少ない県ほど小中学校におけるブラジル人率が低いことが分かるが、韓国・朝鮮人や中国人にはそのような傾向がほとんど見られない。

3-10. 「安全」変数との相関

表3-10: 「安全」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[395] 0.608*** 0.666*** 0.164
[408] 0.659*** 0.702*** 0.336*
[409] 0.520*** 0.621*** 0.147
[411] 0.596*** 0.661*** 0.127
[418] 0.693*** 0.604*** 0.365*
[419] 0.662*** 0.599*** 0.371*

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[395]:消防署数(可住地面積100ku当たり),署,2005
[408]:立体横断施設数(道路実延長千km当たり),所,2004
[409]:横断歩道数(道路実延長千km当たり),本,2004
[411]:交通事故発生件数(道路実延長千km当たり),件,2004
[418]:刑法犯認知件数(人口千人当たり),件,2005
[419]:窃盗犯認知件数(人口千人当たり),件,2005

 「安全」変数の中には、小中学校における韓国・朝鮮人率や中国人率とは中程度以上の相関を示すが、ブラジル人率とは弱い相関を示すだけ(あるいは相関をほとんど示さない)変数が6つある。この中には人口当たりの刑法犯認知件数[418]や窃盗犯認知件数[419]も含まれるが、この結果だけから「韓国・朝鮮人には犯罪者が多い」とか「中国人が増えるから犯罪が増える」と考えるのは「生態学的誤謬」である。なお、このことについては次節で詳しく取り扱う。

3-11. 「家計」変数との相関

表3-11: 「家計」変数と各外国人小中学生率の相関
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル
[451] 0.687*** 0.635*** 0.364*
[452] 0.583*** 0.678*** 0.439**
[453] 0.677*** 0.438** 0.446**
[457] 0.625*** 0.552*** 0.608***
[459] 0.437** 0.448** 0.655***
―― ――― ――― ―――
[460] 0.655*** 0.575*** 0.666***

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

[451]:有価証券現在高割合(対貯蓄現在高)[全世帯],%,2004
[452]:負債現在高(1世帯当たり)[全世帯],千円,2004
[453]:住宅・土地のための負債割合(対負債現在高)[全世帯],%,2004
[457]:ステレオセットまたはCD・MDラジオカセット所有量(千世帯当たり)全世帯,台,2004
[459]:携帯電話(PHSを含む)所有数量(千世帯当たり)[全世帯],台,2004
[460]:パソコン所有数量(千世帯当たり)[全世帯],台,2004

 表3-11からは、世帯当たりのパソコン[460]や音響機器[457]の所有量が多い県ほど小中学校における各外国人率が高いことが分かる。

3-12. 強い相関を示した全変数

 次に、小中学校における各外国人率のいずれかと強い相関を示した変数のうち、相関係数の絶対値が0.75以上のものを漏れなくあげると表3-12の通りになる。

表3-12: 各外国人小中学生率のいずれかと強い相関を示した全変数
  韓国・朝鮮 中国 ブラジル  
[004] 0.714*** 0.683*** ■ 0.777*** 人口・世帯
―― ――――― ―――――― ―――――― ――――――――
[060] 0.283+ 0.315* ■ 0.760*** 経済基盤
―― ――――― ―――――― ―――――― ――――――――
[093] 0.579*** ■ 0.770*** 0.464** 行政基盤
[097] 0.651*** ■ 0.775*** 0.505*** 行政基盤
[100] 0.610*** ■ 0.805*** 0.493*** 行政基盤
[101] -0.600*** ■ -0.756*** -0.512*** 行政基盤
[103] 0.657*** ■ 0.763*** 0.453** 行政基盤
[105] 0.694*** ■ 0.759*** 0.435** 行政基盤
[113] -0.649*** ■ -0.766*** -0.401** 行政基盤
―― ――――― ―――――― ―――――― ――――――――
[185] 0.688*** ■ 0.751*** 0.359* 教育
―― ――――― ―――――― ―――――― ――――――――
[186] 0.273+ 0.387** ■ 0.830*** 労働
[189] 0.221 0.178 ■ 0.783*** 労働
[195] 0.656*** ■ 0.777*** 0.416** 労働
[198] 0.477*** 0.484*** ■ 0.824*** 労働
[216] 0.654*** ■ 0.780*** 0.591*** 労働
―― ――――― ―――――― ―――――― ――――――――
[235] ■ 0.752*** ■ 0.766*** 0.524*** 文化・スポーツ
[237] ■ 0.754*** 0.739*** 0.562*** 文化・スポーツ
―― ――――― ―――――― ―――――― ――――――――
[316] -0.500*** -0.463** ■-0.754*** 健康・医療

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。
相関係数の絶対値が0.75以上の項目を含む変数は全てあげてある。

[004]:外国人人口(人口10万人当たり),人,2005
[060]:第2次産業事業所数構成比(対事業所数),%,2001
[093]:財政力指数[県財政],−,2004
[097]:自主財源の割合(対歳出決算総額)[県財政],%,2004
[100]:地方税割合(対歳入決算総額)[県財政],%,2004
[101]:地方交付税割合(対歳入決算総額)[県財政],%,2004
[103]:住民税(人口1人当たり)[県・市町村財政合計],千円,2004
[105]:課税対象所得(納税義務者1人当たり),千円,2005
[113]:農林水産業費割合(対歳出決算総額)[県財政],%,2004
[185]:最終学歴が大学・大学院卒の者の割合(対卒業者総数),%,2000
[186]:労働力人口比率(対15歳以上人口)[男],%,2000
[189]:第2次産業就業者比率(対就業者),%,2000
[195]:他市区町村への通勤者比率(対就業者),%,2000
[198]:有効求人倍率(求人数/求職者数),倍,2004
[216]:女性パートタイムの給与(1時間当たり),円,2005
[235]:海外旅行の年間行動者率(15歳以上),%,2001
[237]:一般旅券発行件数(人口千人当たり),件,2005
[316]:死産率(死産数/(出生数+死産数))(出産数千当たり),−,2004

 表3-12を見ると下記のことが分かる。まず、小中学校における韓国・朝鮮人率と強い相関がある変数は少ない。次に、小中学校における中国人率と強い相関がある変数には行政基盤関連の変数が多く、財政的に裕福な県の小中学校ほど中国人率が高い。最後に、小中学校におけるブラジル人率と強い相関がある変数には労働関連の変数が多く、工業が盛んで労働力が不足気味の県の小中学校ほどブラジル人率が高い。

3-13. 強い相関を示した変数トップ10(国籍別)

 最後に、もう少し異なる視点から検討してみよう。小中学校における各外国人率と強い相関を示した変数トップ10を国籍別にあげると表3-13の通りになる。

表3-13: 強い相関を示した変数トップ10(国籍別)
小中学校における韓国・朝鮮人率との相関
01位 [237] 0.754*** 一般旅券発行件数 文化・スポーツ
02位 [235] 0.752*** 海外旅行の年間行動者率 文化・スポーツ
03位 [263] 0.732*** 着工居住用建築物工事費予定額 居住
04位 [182] -0.725*** 最終学歴が小学・中学卒の者の割合 教育
05位 [004] 0.714*** 外国人人口 人口・世帯
―― ―― ―――― ―――――――――――――――― ――――――
06位 [175] 0.708*** 高等学校卒業者の進学率 教育
07位 [188] -0.704*** 第1次産業就業者比率 労働
08位 [105] 0.694*** 課税対象所得 行政基盤
09位 [418] 0.693*** 刑法犯認知件数 安全
10位 [185] 0.688*** 最終学歴が大学・大学院卒の者の割合 教育

小中学校における中国人率との相関
01位 [100] 0.805*** 地方税割合 行政基盤
02位 [216] 0.780*** 女性パートタイムの給与 労働
03位 [195] 0.777*** 他市区町村への通勤者比率 労働
04位 [097] 0.775*** 自主財源の割合 行政基盤
05位 [093] 0.770*** 財政力指数 行政基盤
―― ―― ―――― ―――――――――――――――― ――――――
06位 [235] 0.766*** 海外旅行の年間行動者率 文化・スポーツ
07位 [113] -0.766*** 農林水産業費割合 行政基盤
08位 [103] 0.763*** 住民税 行政基盤
09位 [105] 0.759*** 課税対象所得 行政基盤
10位 [101] -0.756*** 地方交付税割合 行政基盤

小中学校におけるブラジル人率との相関
01位 [186] 0.830*** 労働力人口比率[男] 労働
02位 [198] 0.824*** 有効求人倍率 労働
03位 [189] 0.783*** 第2次産業就業者比率 労働
04位 [004] 0.777*** 外国人人口 人口・世帯
05位 [060] 0.760*** 第2次産業事業所数構成比 経済基盤
―― ―― ―――― ―――――――――――――――― ――――――
06位 [316] -0.754*** 死産率 健康・医療
07位 [333] -0.744*** 精神病床数 健康・医療
08位 [061] -0.741*** 第3次産業事業所数構成比 経済基盤
09位 [124] -0.714*** 民生費 行政基盤
10位 [219] 0.709*** 高等学校新規卒業者初任給[女] 労働

N=47, ***: p<.001, **: p<.01, *:p<.05, +: p<.1
各外国人小中学生率: 5-14歳人口における各外国人率(対数)。

 表3-13を見ると下記のことが分かる。まず、韓国・朝鮮人率は「文化・スポーツ」変数や「教育」変数との相関が比較的強く、住民が高学歴で海外旅行によく出かける県ほど小中学校における韓国・朝鮮人率が高い。一方、中国人率とブラジル人率については表3-12で確認した通りであり、財政的に裕福な県の小中学校ほど中国人率が高く、工業が盛んで労働力が不足気味の県の小中学校ほどブラジル人率が高い。

4. 考察

 本稿では、総務省統計局『統計でみる都道府県のすがた2007』に掲載されている県別指標値(全部で460種類)をとりあげ、どのような特徴をもつ県の小中学校にどのような国籍の外国人小中学生が多いのかを探索した。その結果、財政的に裕福な県の小中学校ほど中国人率が高く、工業が盛んで労働力が不足気味の県の小中学校ほどブラジル人率が高いこと等が明らかになった。
 ところで、本稿が示した数値を利用する際にはいくつかの注意が必要である。特に相関関係と因果関係の違いについてはしっかり理解しておく必要がある。そこで、本節では前節で紹介した100個の変数のうち、有効求人倍率[198]、道路実延長千km当たりの立体横断施設数[408]、人口千人当たりの刑法犯認知件数[418]を取り上げ、この問題について考察する。

4-1. 有効求人倍率とブラジル人小中学生率

 まず、有効求人倍率[198]とブラジル人小中学生率の相関係数は0.824***であり、これを散布図で示せば図4-1のようになるが、この図からは「有効求人倍率が高い県ではブラジル人小中学生率も高い」ということが視覚的に読みとれる。
 さて、この相関関係については、次のような因果モデルを想定するのが妥当であると考えられる。

モデル4-1: 有効求人倍率とブラジル人小中学生率の関係

[a]→[b]→[c]

[a]: その県の有効求人倍率が高い。
[b]: その県のブラジル人率が高い。
[c]: その県のブラジル人小中学生率が高い。

 モデル4-1は、ある県の有効求人倍率が高ければ[a]、その県にブラジル人の「デカセギ」労働者が集まり[b]、その結果、その県にブラジル人の小中学生が増える[c]、という因果関係を表している。
 梶田孝道・丹野清人・樋口直人の『顔の見えない定住化』(名古屋大学出版会2005年)が指摘するように、「デカセギ」ブラジル人の日本への渡航過程や渡航後の就労形態は、日系旅行社や業務請負業者といった仲介業者によって「支配」されているが、これらの仲介業者は労働市場ニーズに敏感かつ忠実であるため、ある県の有効求人倍率がその県のブラジル人小中学生率にストレートに反映してしまうのだろう。

4-2. 歩道橋・地下歩道の設置率と中国人小中学生率

 次に道路実延長千km当たりの立体横断施設数[408]と中国人小中学生率の関係について考えてみよう。立体横断施設というのは横断歩道橋と地下横断歩道を指すが、これを以下、便宜的に「歩道橋・地下歩道の設置率」と呼ぶことにする。
 さて、歩道橋や地下歩道が中国人小中学生と深い関わりを有しているとは一般に考えられていない。だが、表3-10によれば両者の相関は0.702***であり、これらの間に相関関係があることは疑いを挟むことができない明白な事実である。図4-2はその関係を散布図で表したものであるが、この図からは「歩道橋や地下歩道の設置率が高い県では中国人小中学生率も高い」ということが視覚的に読みとれる。
 では、私達は中国人小中学生と歩道橋・地下歩道の関係を一体どう解釈したらよいのだろうか。歩道橋や地下歩道が増えたから中国人小中学生が増えたのだろうか。それとも、中国人小中学生が増えたから歩道橋や地下歩道が増えたのだろうか――答はもちろんそのどちらでもない。
 計量的な社会調査の教科書には必ず「疑似相関」という言葉が出てくる。因果関係があるはずのない変数Xと変数Yの間に相関関係がある場合、これを疑似相関というのだが、それが疑似相関であることを示すためには変数Aと変数Bの共通要因となっている第3の変数Zを探さねばならない。
 たとえば、中学校で全校生徒に英検5級の試験を実施すれば、体重が重い生徒ほど高い点数をとるだろう。しかし、体重と英語力の間に因果関係があるはずがない。「体重を減らしたら英語力も下がった」とか「英語力がアップしたので体重も増えた」という話は聞いたことがない。だが、ここで学年という第3の変数を動員することによって一気に謎は解けるだろう。中学生の場合、学年が上がるにつれて体が大きくなるのは当然のことだし、学年が上がるにつれて英語が身についてくるのも当然のことだ。
 これと同じようなことは歩道橋・地下道設置率と中国人小中学生率の関係にもいえるはずだ。そこで、本稿では以下のような解釈を提示したい。

モデル4-2: 歩道橋・地下道設置率と中国人小中学生率の関係

[d]←[e]←[f]→[g]

[d]: その県の中国人小中学生率が高い。
[e]: その県の中国人率が高い。
[f]: その県の都市化の度合が高い。
[g]: その県の歩道橋・地下道率が高い。

 モデル4-2は、ある県は都市化の度合が高いので[f]、その県には中国人がたくさん集まり[e]、その結果、その県に中国人の小中学生が増える[d]が、もう一方で、その県は都市化の度合が高いので[f]、歩道橋・地下道も数多く設置されやすい[g]、ということを表している。歩道橋・地下道設置率と中国人小中学生率との間には何の因果関係もない。これらは共に都市化という共通要因によって生じた結果なのだ。
 だが、それにしても、歩道橋や地下道はなぜ都市に多く設置されているのか。
 実は[408]番目の変数がいう立体横断施設数の多くは歩道橋である。そして、歩道橋の多くは昭和40年代(1965-1974年)に「交通戦争から小学生を守る」という目的で都市部を中心に設置されていったという経緯がある。
 『平成17年警察白書』で1955年から2004年について調べたところ、15歳以下の交通事故死亡者は合計で58,411人。そのうち65.3%が1955年から1973年までに死んでおり、この19年間は少ない年でも1,804人、多い年では2,335人、毎年平均で2,009人もの15歳以下の児童が交通事故で死亡していた。一方「国会会議録検索システム」で検索する限り、国会において「交通戦争」という言葉が初めて使用されたのは1962年。それ以降2006年までに合計で564回使用されてきたが、そのうち69.7%は1962年から1975年までの14年間に使用されている。また、国会において「歩道橋」という言葉が初めて使用されたのもやはり1962年。それ以降2006年までに合計で481回使用されてきたが、そのうち70.3%は1965年から1978年までの14年間に使用されている。
 現在ある市で歩道橋が道路のあちこちに見られるということは、その市が昭和40年代に自動車と児童で溢れていた市――すなわち、産業発展と人口増加の両面で活況を呈していた市――だったことを示していると考えてよい。そして、そのような市を数多く擁している県とはすなわち都市化の度合が進んでいる県なのだ。

4-3. 犯罪発生率と韓国・朝鮮人小中学生率

 最後に人口千人当たりの刑法犯認知件数[418]と韓国・朝鮮人小中学生率の関係について考えてみよう。以下、本稿では人口千人当たりの刑法犯認知件数のことを便宜的に「犯罪発生率」と呼ぶことにするが、この犯罪発生率と韓国・朝鮮人小中学生率の相関は0.693***であり、これらの間に相関関係があることは疑いを挟むことができない明白な事実である。図4-3はその関係を散布図で表したものであるが、この図からは「犯罪発生率が高い県では韓国・朝鮮人小中学生率も高い」ということが視覚的に読みとれる。
 さて、それでは、私達は韓国・朝鮮人小中学生と犯罪の関係を一体どう解釈したらよいのだろうか。
 まず、少なくとも以下のような因果モデルは放棄されるべきだろう。

モデル4-3A: 犯罪発生率と韓国・朝鮮小中学生率の関係

[h]←[i]→[j]

[h]: その県の韓国・朝鮮人小中学生率が高い。
[i]: その県の韓国・朝鮮人率が高い。
[j]: その県の犯罪発生率が高い。

 モデル4-3は、ある県に韓国・朝鮮人が集まれば[i]、その県に韓国・朝鮮人の小中学生が増えるが[h]、もう一方で、ある県に韓国・朝鮮人が集まれば[i]、その県の犯罪発生率が高まる[j]、ということを表しているが、このモデル4-3が放棄されるべき理由は次の通りである。

表4-3A: 交通業過を除く刑法犯の検挙件数(国籍別、2005年)
  検挙件数 検挙人員
日本 605,881 (93.3%) 372,169 (96.2%)
中国 12,836 (2.0%) 4,678 (1.2%)
韓国・朝鮮 8,648 (1.3%) 4,889 (1.3%)
ブラジル 7,493 (1.2%) 1,278 (0.3%)
14,645 (2.3%) 3,941 (1.0%)
全国籍 649,503 (100.0%) 386,955 (100.0%)

出典: 警察庁「犯罪統計書:平成17年度の犯罪」

 警察庁「犯罪統計書: 平成17年度の犯罪」によると、2005年1月から12月までの刑法犯検挙件数(ただし交通業過を除く)は全国で649,503件であり、その1.3%に当たる8,648人が韓国・朝鮮人だった。また、同資料によると同時期の刑法犯検挙人員数(ただし交通業過を除く)は全国で386,955人であり、やはりその1.3%に当たる4,889人が韓国・朝鮮人だった。このことから、全国の刑法犯認知件数についてもそのうちの1.3%前後が韓国・朝鮮人による犯行だったと推測できる。
 ところで、全国の犯罪からその1.3%前後を構成するであろう韓国・朝鮮人による犯罪を全て取り除いたとしても、犯罪発生率の高さに関する各都道府県の順位が大きく入れかわるとは考えられない。例えば「韓国・朝鮮人による犯罪が多いせいで我が県は犯罪発生率が全国第○位になってしまった」という県や「韓国・朝鮮人による犯罪が減ったおかげで我が県は犯罪発生率が全国第○位にまで下がった」という県があるとは考えにくい。
 韓国・朝鮮人による犯罪は日本で発生する犯罪全体の1.3%前後を構成しているに過ぎない。それがどこにどう分布していようと、それが原因で日本の犯罪発生率の地理的な分布が大きく変化するとは考えられない。

 具体的な県名を挙げながら説明しよう。

表4-3B: 犯罪発生率と韓国・朝鮮人小中学生率が高い県と低い県
  犯罪
発生率(a)
韓国・朝鮮人
小中学生率(b)
順位の
合計
大阪 28.30 ( 1) 3.06 ( 1) ( 2)
京都 21.75 ( 4) 2.98 ( 2) ( 6)
兵庫 21.74 ( 5) 2.87 ( 3) ( 8)
愛知 27.42 ( 2) 2.54 ( 6) ( 8)
東京 20.19 ( 8) 2.87 ( 4) (12)
福岡 21.15 ( 7) 2.42 ( 9) (16)
埼玉 22.26 ( 3) 2.21 (17) (20)
三重 18.46 ( 9) 2.35 (12) (21)
千葉 21.64 ( 6) 2.25 (16) (22)
神奈川 16.26 (16) 2.43 ( 8) (24)
――
新潟 11.59 (36) 1.66 (37) (73)
島根 10.22 (41) 1.85 (32) (73)
徳島 11.92 (32) 1.09 (46) (78)
山形 8.51 (45) 1.81 (33) (78)
青森 10.28 (40) 1.61 (38) (78)
宮崎 10.43 (39) 1.38 (44) (83)
長崎 8.68 (43) 1.48 (41) (84)
岩手 8.15 (46) 1.61 (39) (85)
秋田 7.51 (47) 1.46 (43) (90)
鹿児島 8.52 (44) 1.08 (47) (91)

括弧内の数字は順位。
(a)人口千人当たりの刑法犯認知件数
(b) 5-14歳における人口10万人当たりの韓国・朝鮮人人口(常用対数)

 表4-3Bは、犯罪発生率と韓国・朝鮮人小中学生率が最も高い県と最も低い県を10個ずつリストアップしたものである。これを見ると、大阪・京都・兵庫・愛知・東京・福岡については、犯罪発生率と韓国・朝鮮人小中学生率の両方が10位以上であることが分かる。だが、これらの県で犯罪が多いのは、はたして韓国・朝鮮人が多いからだろうか。また、鹿児島・秋田・岩手・長崎・宮崎・青森については、犯罪発生率と韓国・朝鮮人小中学生率の両方が38位以下であることが分かる。だが、これらの県で犯罪が少ないのは、はたして韓国・朝鮮人が少ないからだろうか。仮に韓国・朝鮮人が一人残らず海外へ出ていったとしても、犯罪発生率が最も高いのはやはり大阪や愛知であり、最も少ないのはやはり秋田や岩手なのではなかろうか。
 小中学校における韓国・朝鮮人率が高い県では犯罪の発生率も高い。これは紛れもない事実である。また、そうである以上、小中学校における韓国・朝鮮人率の高さは、その県の犯罪発生率が高いことを示唆する一つの目印ではある。しかし、だからと言って「韓国・朝鮮人が多いせいで犯罪が多くなっている」と考えるのは誤りである。それはちょうど「中国人が多いせいで歩道橋・地下道が多くなっている」と考えるのと同程度の誤りである。
 都市には歩道橋・地下道がたくさん設置されるし中国人もたくさん集まる。それと同様に、都市では犯罪がたくさん発生するし韓国・朝鮮人もたくさん集まる。ただ、単にそれだけのことなのだ。そこで、本稿では以下のような解釈を提示したい。

モデル4-3B: 犯罪発生率と韓国・朝鮮小中学生率の関係

[k]←[l]←[m]→[n]
[k]: その県の韓国・朝鮮人小中学生率が高い。
[l]: その県の韓国・朝鮮人率が高い。
[m]: その県の都市化の度合が高い。
[n]: その県の犯罪率が高い。

 モデル4-3Bは、ある県は都市化の度合が高いので[m]、その県には韓国・朝鮮人がたくさん集まり[l]、その結果、その県に韓国・朝鮮人の小中学生が増える[k]が、もう一方で、その県は都市化の度合が高いので[m]、犯罪発生率も高くなりやすい[n]、ということを表している。犯罪発生率と韓国・朝鮮人小中学生率との間には何の因果関係もない。これらは共に都市化という共通要因によって生じた結果なのだ。
 だが、それにしても、犯罪はなぜ都市で起こりやすいのか。
 社会学の創始者の1人に数えられるエミール・デュルケムは『自殺論』(中公文庫)において、個々人がばらばらであまり統合されていない社会集団のなかでは自殺が起こりやすいと述べている。また「どのような少年が非行に走らないのか」を調査したトラヴィス・ハーシは、社会としっかり繋がることができている少年は非行に走らないとの結論に達している(『非行の原因』文化書房博文社)。両者はいずれも「個人が集団とどれだけ強く結びついているか」に着目して自殺や非行の発生を説明しようとしているが、犯罪が発生する背景にも、やはりこうした「集団から浮遊する個人」「集団から孤立する個人」の問題があると思われる。地縁や血縁による人々の結びつきが希薄で、「他人」や「よそ者」や「知らない人」どうしが頻繁に出入りする都会では犯罪が発生しやすい。逆に、地域コミュニティにおける人と人との結びつきがしっかりしていて、お互いがみな顔見知りであり、本人のみならず親の顔までぜんぶ分かってるような田舎では犯罪が発生しにくいのだ。

5.おわりに

 本稿を終えるにあたり議論を整理しておこう。

 本稿では、まず小中学生に占める外国人率が高い県はどこなのかを特定し、次にそれらの県がどのような特徴を有しているのかを探索した。
 その結果、韓国・朝鮮人小中学生率が1%を超えているのは大阪(1.1%)であり、ブラジル人小中学生率が1%を超えているのは静岡(1.4%)・群馬(1.1%)・三重(1.0%)・愛知(1.0%)であることが分かった。一方、中国人小中学生率が1%を超えている県はなく、最高の東京でも0.6%だった。
 また、47都道府県をサンプルに相関分析をした結果、財政的に裕福な県の小中学校ほど中国人率が高く、工業が盛んで労働力が不足気味の県の小中学校ほどブラジル人率が高いことが分かった。一方、韓国・朝鮮人率と強い相関を示した変数は非常に少なかった。
 ところで、相関分析の結果を解釈するときには、相関関係が因果関係を示唆しているとは限らないということに十分注意する必要がある。たとえば、有効求人倍率[198]とブラジル人小中学生率が示した強い相関(0.824***)は「ある県で労働力が不足していたからその県にブラジル人が集まった」という因果関係を示唆していると考えるのが妥当であるが、その一方で、歩道橋・地下道設置率[408]と中国人小中学生率が示した強い相関(0.702***)や、犯罪発生率[418]と韓国・朝鮮人小中学生率が示した中程度の相関(0.693***)は、明らかに擬似相関であり、「ある県には中国人が多いからその県では歩道橋・地下道が多いのだ」とか「ある県には韓国・朝鮮人が多いからその県では犯罪が多いのだ」とかいう解釈は妥当性を欠いている。
 歩道橋・地下道は大都市ほど多いが、中国人もまた大都市ほど多い。犯罪は大都市ほど多いが、韓国・朝鮮人もまた大都市ほど多い。歩道橋・地下道設置率と中国人小中学生率の間に見られた相関関係や、犯罪発生率と韓国・朝鮮人小中学生率の間に見られた相関関係は、単にそのことを表しているに過ぎないのだ。


(注1) なお、本稿を読み進めるにあたっては、本稿でいうところの「小中学生数」が実際は5-14歳人口のことであり、「外国人数」が実際は外国人登録者数のことである点に常に注意して欲しい。例えば、本来その人が何人であるかは国籍だけからでは判断できないが、本稿では便宜的に××人として外国人登録をしている人だけを××人として扱った。また、本稿では5-14歳人口を小中学生数として扱っているため、来年小学校に上がる5歳児、日本にいるが不就学で小中学校に通っていない者、外国人登録をそのままにして長期帰国している者が小中学生にカウントされている一方、来年中学校を卒業する15歳の生徒、日本で小中学校に通っているが外国人登録をしていない小中学生が小中学生数にカウントされていない。

(注2)相関係数は「一方が増加するともう一方も増加する」という場合には正の値をとり(たとえば、身長が高い人ほど体重も重い)、「一方が増加するともう一方が減少する」という場合には負の値をとる(たとえば、欠席回数が多い学生ほどテストの点数が低い)。相関係数は-1.0から+1.0までの値をとるが、本稿では、絶対値が|0.0|以上|0.2|未満のときは「ほとんど相関がない」、|0.2|以上|0.4|未満のときは「弱い相関がある」、|0.4|以上|0.7|未満のときは「中程度の相関がある」、|0.7|以上|1.0|以下のときは「強い相関がある」と表現することにする。

(注3)例えば、大阪の小中学校には児童生徒10万人当たり282.28人の中国人が在籍していると考えられるが、これを常用対数で表すと(10の2.4507乗が282.28であることから)2.45人となる。なお、県内の5-14歳のブラジル人外国人登録者が0人だった5つの県については、このままでは常用対数に換算できないため「実数において1人ずついる」とデータを書き換えた上で10万人当たりの人数を計算した。

(注4)本稿における各表の見方であるが、まず表の枠外にある「N=47」とは相関係数を算出するにあたり使用した標本が47個(この場合は47都道府県全て)だったことを表している。次に「***」とは「ある変数とある変数の間に相関関係がある」と判断したときにその断定が間違いである危険が0.1%未満であることを表している。したがって、相関係数に「***」が付いている場合には「2つの変数の間に何らかの相関関係があるといって99.9%以上まちがいありません」ということを表している。同様に「**」「*」「+」とは「2変数間に何らかの相関関係がある」と判断したときにその判断が誤りである危険が、それぞれ「1%未満」「5%未満」「10%未満」であることを表している。

(注5)本稿が掲げる表では、例えば「[001]: 総人口,万人,2005」のように各変数が紹介されているが、[001]とは全部で460種類ある数値に1つずつ付けられた通し番号であり、「万人」とは数値に付く単位であり、「2005」とはそれが2005年の数値であることを表している。